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第二十二話 解毒薬作り

 フラウさんと晴れて友達になった私は、そのまま当初の目的通り、セイさんの解毒薬づくりを手伝うことになった。


 とはいっても、作業の中には危険なものも結構あるから、まずはセイさんから手順の説明なんかをちゃんと聞かないといけないんだけど。


「いいかい三人とも、ポイズントードの毒は、体の中にそれを出すための器官が備わってるわけじゃなくて、スキルによって作られるものなんだ。だからちゃんと仕留めておけば、死体は案外安全だよ。まあ、死ぬ寸前に分泌した毒が残ってたりするから、まずはちゃんと洗浄からやらなきゃだけどね。フラウ、お願い」


「はい、任せてください」


 そう言ってフラウさんが手を翳すと、積み上げられたポイズントードの幼体がふわりと浮かび、近くに用意されたバケツの中へぼちゃんと落ちる。

 そのまま、中の水でばちゃばちゃと水洗いされていく光景に、私は目を丸くした。


「わあっ、すごいです! これもスキルですか?」


「あ、はい。私のスキル、【浮遊】って言います。物をふわふわ浮かせるだけで、自分を飛ばしたりは出来ないっていう、お遊びみたいなスキルなんですけど……」


「お遊びなんて、そんなこと全然ないと思います。すっごく便利じゃないですか、私羨ましいです」


 どれくらいの物が浮かべられるのは分からないけど、単純にもう一本見えない手があると思えば、それだけでも一人でやれることの幅がとんでもなく広がるはずだ。

 しかも見ている限り、幼体を一体だけじゃなく複数体纏めて動かすことも出来るみたいだし、鍛えたらすごいことになりそう。


 そんな感想を素直に伝えると、フラウさんは照れたように両手で頬を抑え、顔を赤らめた。


「あ、ありがとうございます……私のスキルをそんな風に褒めてくれる人はほとんどいないですから、とても嬉しいです」


「え、そうなんですか?」


「にゃはは、まあ、この物騒な世の中じゃ、分かりやすく強力なスキルの方が重宝されるからね。ボクの【不老】も、歳を取らないだけで不死でもないし、他の効果は何にもないから、あんまりありがたがられないんだよねえ」


 やれやれと肩を竦めるセイさんに、フラウさんも少し落ち込み気味に同意する。

 どっちもすごいスキルだと思うんだけどなぁ……と、そう思ったのは私だけじゃないようで、コマリちゃんが水をたっぷり汲んだバケツを持って近付いて来た。


「そうそう! セイさんは私が知らないこといーっぱい知ってるし、フラウちゃんはすっごく器用で面白いものいっぱい作れるし! 二人ともすごいよ!」


「にゃはは、そういうこと。世界が物騒だからって、戦いの才能だけが全てじゃないからね。例えば……ここにいる四人で力合わせれば、モルの村に限らず、この森にある獣人族の村全てに行き渡るだけの解毒薬を量産することだって目じゃない」


「四人だけで、ですか?」


 この森にある獣人族の村は、狼族、獅子族、熊族、鷹族、猫族、栗鼠族の全部で六つ。

 一つの村に住んでいる人数がそう変わらないとしても、かなりの量が必要なのは変わりないはずだ。


 ポイズントードの幼体はかなりたくさん捕まえてあるみたいだけど、そんなにポンポン作れるのかな?

 いや、フラウさんのスキルがあれば、もしかしたら出来るかも。

 全体指揮はセイさんが取ってくれるし、毒を洗い流すのに使う水はコマリちゃんが確保してくれるから……後は……。


「私は、何をすればいいんですか?」


「シルフィには、洗い流した水の浄化をお願いするよ。ぶっちゃけ、この解毒薬作りは廃水処理が一番厄介だからね」


「分かりました、がんばります」


 適当に捨てたらそこが汚染されちゃうからね、というセイさんに、私はこくりと頷く。


 そういうことなら、確かに毒や病を操れる私のスキルは一番適任だ。

 そう思っていたら、コマリちゃんから心配そうな視線を向けられた。


「シルフィ、大丈夫?」


「あ、うん。多分……これくらいなら、大丈夫じゃないかな」


 フラウさんが洗い終わった後のバケツを覗き込み、私はそう答える。


 セイさんが最初に言った通り、幼体の体自体には毒が備わっていないからだろう。そこから感じる瘴気はかなり薄くて、意識しないとそのまま見過ごしてしまいそうなほど薄い。


 これくらいなら、どんどん取り込んでも体調を崩したりはしないはずだ。


「そっか、ならよかった! でも、無理しちゃダメだよ? 辛そうだったら私も手伝うから!」


「うん、ありがとうコマリちゃん。出来る範囲で、がんばってみるよ」


 解毒薬の重要性はコマリちゃんだって分かってるだろうに、それでも私の体を第一に考えてくれる優しさに、胸の内がぽかぽかと温かくなる。


 そのまま、何秒かじっと見つめ合っていると、ふとセイさんがニヤニヤとした目で私達を見ていることに気が付いた。


「……セイさん、なんですかその目は」


「いやほら、そのまま甘噛みとかしちゃうのかな、と思って」


「し、しませんからっ!!」


 セイさんに騙されて、コマリちゃんにプロポーズ染みたことをしてしまった記憶が鮮明に蘇る。


 私は確かにコマリちゃんのこと大好きだけど、それはあくまで家族としてであって……その、もっと、本当の姉妹みたいに仲良くなれたら、とは思ってるけど……決して結婚とか、そういうのじゃないから!


「でも、コマリも甘噛みし返したんでしょ?」


「うん、したよ。シルフィならいいかなって」


「ふえっ!?」


 さらりとそんなことを言われ、私の心臓がドキリと跳ね上がる。


 こ、コマリちゃん、まさか私のこと……!?


「結婚って、家族になるってことなんでしょ? 男の子と女の子がすることだって聞いたけど、シルフィとはちゃんと家族になりたいし! ……あれ? なんで家族になるのに男の子相手じゃなきゃダメなんだろ? フラウちゃん、分かる?」


「へ!? 私に聞くんですか!?」


 コマリちゃんにとんでもない話を振られ、フラウさんが助けを求めるようにわたわたと周囲を見渡す。


 うん、コマリちゃん、結婚は男女でするものってことまでは知ってたけど、その先は知らなかったんだね……。

 何となくがっくりと肩を落としていると、セイさんがそんな私を見て笑い転げていた。ちょっぴりいらっとする。


「……コマリちゃん、とりあえず、その話は後にしよっか。ほら、みんなで解毒薬作るよ」


「あれ? シルフィ、なんだかちょっと怒ってる? なんでなんで?」


「いいから、ほら、早くやるよっ」


 わけがわからず混乱するコマリちゃんの背を押して、どうにかこうにか解毒薬作りを始動させる。


 その最中、コマリちゃんからは何度も結婚の意味や、私がご機嫌斜めな理由を訪ねられたけど……そうした追及を躱すのは、幼体の毒を浄化していく作業よりもずっと大変だったとだけ言っておく。






「ふう……疲れたなぁ……」


 村へと向かう雪道を進みながら、私は額の汗を拭いとる。

 セイさんやフラウさん、それにコマリちゃんと解毒薬を作り続けること数時間。結構な数が完成したけど、その分浄化した廃水の量もかなりのものとなっていて……まだ余裕はあったけど、コマリちゃんに今日はここまでとストップをかけられてしまった。


 もう遅いし、ボクも疲れてきたから、帰ろうか──なんてセイさんもそれに便乗し、渋る私をフラウさんまで説得に周り、後片付けすら全部取られて一足先に家に帰ることに。


 その気持ちは嬉しいけど……でも。


「コマリちゃんと一緒に帰りたかったな……なんて……」


 長過ぎて余ったマフラーを掴みながら、私はそんなことを呟く。


 作った解毒薬の量、それに水を汲むために用意した大量のバケツ……そうした物を考えれば、コマリちゃんまで後片付けをサボるわけにはいかない。

 だから、コマリちゃんが残って後片付けするのはある意味当然なんだけど……だったら、何もしなくてもいいから、終わるまで傍で待っていたかったな……。


「ふふふ、本当に、私もわがままになっちゃったな」


 みんな私を想って言ってくれたことなのに、それに逆らってでも自分の欲求を優先したいだなんて、前は考えもしなかった。


 少しでも周りに迷惑をかけないように、私の不幸が移らないように……そんなことを考えて、自分を殺して。前世でも、こっちの世界に来てからも、そんな生活ばかりだった。


 でも……この村に来てからは、コマリちゃんも、ルンさんも、私のことばっかり心配して。

 スキルの使い道が分かってからも、これを利用すればポイズントードの事件も……ううん、もっと色んな事に利用出来たはずだ。そしてそれを、私は断らなかっただろう。


 なのに……二人も、この村の人達も、セイさんやフラウさんだって、私を想って無理しないようにって言ってくれる。気を使ってくれる。


 こんな日が来るなんて、想像もしたことなかったよ。


「幸せ者だな、私……」


 私を想ってくれる人がいて、その人達のために、ほんの少しでも何かしてあげられることがあって。これを幸せと呼ばず、なんと呼べばいいんだろう?


 こんな日がずっと続けばいいと、そう夢想して──だからだろうか。


 すぐ近くに迫った“誰か”の気配に、全く気付かなかった。


「……んむっ!?」


 いや、気付いても反応は出来なかったかもしれない。

 凄まじく慣れた手付きで後ろから締め上げられた私は、一瞬で意識が遠のいていき、全身から力が抜けていく。


「……申し訳ありません、これもマスターのご命令ですので」


 耳元で聞こえた、抑揚の少ない女の人の声。それと、はらりと舞う栗色の髪。

 それらの記憶を最後に、私の意識は暗転した。

次回、「崩壊の序章」

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