第十一話 家族の温もり
予約投稿の日付設定ミスってました! 遅れてすみません!
「ありがとな、シルフィ!」
「今度お礼させてくれよなー!」
「コマリもまたなー!」
「うん、またねー!」
コマリちゃんが両手を大きく振り回して子供達に別れの挨拶をする横で、私も小さく手を振った。
セイラさんは、私がスキルの力で不幸を吸い上げることで体調こそ良くなったけど、それで油断するのはよくないからとまだ安静にして貰ってる。
まだ、スキルの正確な効果も分からないし、念には念を入れないとね。
「それにしても、やっぱりすごいねシルフィ! まさか病気を治しちゃうなんて!」
「うん……私も、こんなこと出来るなんて思わなかった」
コマリちゃんに褒められながら、けれど私はまだどこか夢見心地というか、実感が湧かない。
私が誰かの役に立てるなんて、これまで想像したこともなかったから。
「ねえコマリちゃん」
「うん? なーに?」
「セイラさんの病気……流行り病ってことは、まだ他にも患者さんがいるんだよね? 私、その人達も治療したいから、案内して欲しいの」
だから、これが夢でなくなる前に、少しでも役に立ちたい。
そんな私のお願いに、コマリちゃんは少しだけ眉尻を下げた。
「うーん、そうしてくれると私もみんなも嬉しいけど……シルフィは大丈夫なの? なんだか疲れた顔してるよ?」
「え……?」
言われて、思わず自分の顔に振れて表情を確かめる。
疲れてる……? そうなのかな、自分では分からなかったよ。
でも……分からないなら、まだ大丈夫だよね。
「私なら平気だよ、だからお願い」
「うーん……わかった! でも無理しないでね?」
「うん、ありがとう」
心配してくれるコマリちゃんに頷きながら、私達は来た時と同じように、手を繋いで歩き出す。
少しだけ重くなった自分の足取りから、目を逸らすように。
「うちの旦那、もう一週間も寝込んでたからもう死んじゃうんじゃないかって不安で不安で……本当にありがとう!」
「ったく、お前はいつも大袈裟なんだよ。けどまぁ、助かったのは本当だ、礼を言うぜ。今度、何かお返しに持ってってやるよ」
「いえ、これも助けてもらった恩返しみたいなものですから、気にしないでください。……それでは」
若い夫婦に頭を下げ、私はコマリちゃんと手を繋いでその家を後にする。
この場所で、既に五件目。まだ同じ病気で苦しんでいる人はいるみたいで、思ったよりも深刻そうだ。
どういうわけか、子供や老人よりも、それなりに若い人ばかり寝込んでるのが気になるけど……そこはひとまず、後回しにしよう。
「コマリちゃん、次は?」
少し焦りを覚えながら問いかけるも、反応がない。
どうしたのかと思って振り向けば、コマリちゃんは難しい表情で私を見つめていた。
「コマリちゃん……?」
「シルフィ、やっぱりそろそろ帰った方がいいと思うよ。さっきからどんどん顔色悪くなってるし」
再度そう言われて、私は再び自分の顔をペタペタと触ってみる。
……正直、鏡もないんじゃ自分が今どんな顔をしているのかも分からない。
もし本当にひどい顔をしてるなら、原因はスキルのせいだろうとは思うけど……。
「大丈夫、平気だよ」
そう言って、私は笑う。
確かに、少し体が重い気はしないでもないけど、これくらいならしょっちゅう体調を崩す私からしたらいつものことだし、気にするほどのことじゃない。
「ほら、体だってこんなに──!?」
それでも心配そうなコマリちゃんに元気なところを見せようと、私はその場で軽くジャンプする。
それだけで、視界がくらっと揺れ動き、バランスを崩してしまった。
「シルフィ!」
倒れそうになった私の体を、コマリちゃんがぎゅっと抱き締めてくれる。
いけない、ちゃんと立って、大丈夫だってところを見せなきゃ……そう思うのに、なぜか全然力が入らない。
「わわっ、シルフィ、すごい熱だよ! やっぱり無理してたんじゃん!!」
「え……?」
そう言われて自分の額を触ってみるけど、やっぱりよく分からない。
……ううん、違う。これ、頭だけじゃなくて、体全部が熱くなってるんだ。
「あはは……全然気付かなかった……」
「もー、みんなが元気になってくれるのは嬉しいけど、それでシルフィが元気じゃなくなったら意味ないよ!」
「ごめんなさい……その、こんな風に人の役に立てたの、初めてだから……はしゃいじゃって……」
しゅんと俯きながら、言い訳染みた言葉を溢す。
ずっとただ不幸を招くだけだと思っていたスキルに使い道があって、調子に乗って……そのデメリットに気付かなかった。
ううん、気付いていたけど、見ないフリをしていたんだ。
やっと見つけた私の役目なのに、止められてしまうんじゃないかと思って。
「だけどその、もう何人も治してるのに、この程度で済んでるわけだし……本当に、大したことないよ。だからその……」
上手く回らない頭で、どうにかコマリちゃんを言いくるめようと言葉を搾る。
けれど、コマリちゃんはそんな私の話なんてちっとも聞いてなかったみたいで。何やら頭を捻って考え込んでいた。
「んー、シルフィ、その治すのって、疲れるの? だから倒れちゃったの?」
「え? ええと、疲れるというか……私の体に、みんなの悪いものを取り込んだから、そのせいで……」
「なるほどー。なら、次からは私の体に取り込ませてよ。そしたらシルフィもこんな風に倒れなくて済むよね!」
「ほえっ!?」
予想外過ぎる提案に、私は素っ頓狂な声を漏らす。
いや、あれをコマリちゃんの体に取り込ませるって、そんな……!
「む、無理だよ、ダメだよ! そんなことしたらコマリちゃんがどうなるか……」
「だいじょーぶ! 私はスキルの力で病気にならないし。シルフィの代わりに取り込んであげる!」
「そ、そうかもしれないけど、でも……」
「お願いシルフィ! 私を信じて! ね? ね?」
まるで子供が欲しいものをおねだりするような目で、私に頼み込む。
そんなコマリちゃんの姿に、どうして、と私は呟いた。
「どうして、そこまで……もし失敗したら、コマリちゃんがどうなるか分からないんだよ?」
「え? だって、シルフィはみんなのこと治したいんだよね? 私もみんなが治ったら嬉しいし。でも、シルフィが倒れちゃうのは嫌だから……それに私、シルフィのこと信じてるから!」
どこまでも純粋でまっすぐな瞳が、私を射抜く。
そのキラキラとした輝きに魅了され、何が言えなくなっていると、コマリちゃんは更に言葉を重ねて来た。
「シルフィ、すっごく優しいもん。そんなシルフィが、みんなを助けたい! って思いながら使った力が、私を傷付けるわけないよ。絶対に!」
まるで、小さな子供が母親に向けるかのような、全幅の信頼。
──この子はシルフィ、私の新しい家族だよ!
さっき子供達にしていた私の紹介がその場限りの嘘でも、単なる同居人という意味でもなく、正真正銘の"家族"なんだと気付かされ、私は思わず笑ってしまった。
「敵わないなぁ、コマリちゃんには。……そんなにすぐ人を信用しちゃうと、悪い人に連れていかれちゃうよ?」
「むう、そんなことないもん! 私強いから、悪い人なんてけちょんけちょんだよ!」
「ふふっ、そうだね」
納得いかないとばかりに頬を膨らませるコマリちゃんを見て、ひとしきり笑いながら。私は体の力を抜いて、コマリちゃんへと完全に寄りかかった。
「シルフィ? だいじょうぶ?」
「うん。でも、やっぱり少し辛いから……今日はもう、休んでもいいかな……?」
「うん、もちろん! よくがんばったね、シルフィ」
なでなでと、コマリちゃんは私の頭を撫で回し、一際強く抱き締める。
その手付きは、ルンさんに比べたら不器用で、お世辞にも気持ちいいとは言えなかったけど……初めて感じる家族としての温もりは、どこまでも優しく私を包み込んでくれた。
次回、「流行り病の原因」




