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第七話 日記:碧樹の月 三日

 日記:碧樹の月 三日


 おじいちゃんは元気でしょうか。

 僕はなんとか生きています。


 最初の目的は研究所を消滅させたエフロニア王国から一刻も早く離れることでした。そして第二の目標が隣の穏健派の国、アキュニスに着くことです。旅自体は順調そのもの。今はアキュニスの衛星都市のひとつ、イースレインに到着したところです。


 ですが少々困っています。

 端的にいうと、お金がありません。


 国からの支度金と研究所の給料をほぼ手付かずで残していたのですが、底をつきかけています。


 理由は簡単です。

 僕が戦えないからです。

 神を召喚しておいてなんで?とお思いでしょう。


 神の力は強すぎるのです。牽制のつもりで放った一撃で、ライツガルズ研究所一帯が消滅。なら最小限に力を絞ったらどうなるか? 小石を狙うつもりの一撃で、建物一棟サイズの岩山が消滅しました。


 人のいない山で実験しておいて正解でした。

 人目のある場所で使っていたら、研究所消滅と関連付けられて捕らえられていたでしょう。最小威力でも規模が大きすぎて身を守るのには使えません。例えるなら核爆弾だけ持った兵士みたいなものです。


 戦い方は後々考える必要があります。

 ですが僕は後ろめたい立場の人間です。

 エフロニア王国を出るのは最優先事項でした。

 やむなく護衛を雇ってエフロニアを出国。

 アキュニスのイースレインにたどり着いたところで、お金が危なくなってきたという次第です。


 これからの課題は2つ。

 ・お金を稼ぐこと

 ・身を守る手段を得ること


 まずはお金稼ぎです。

 ベタなやつではありますが、挑戦してみることにしました。




 僕はイースレインの冒険者ギルドの扉を開いた。


 ぎぃと重い音を立てて開いた扉の先には、深い木目の長テーブルの受付がある。部屋の隅には丸テーブルが3卓ほど並べられており、年配の冒険者達がのんびりお酒を飲んでいる。要素要素はギルドなのだが、実に穏やかな雰囲気がある。


 もっと「てめぇみたいなヒヨッコがくるところじゃねぇぞ」と絡まれる西部劇の酒場のようなところをイメージしてたのでビックリだった。


「イースレインはアキュニスの首都から離れた都市です。別荘地も多い地域ですので、皆様がイメージされる冒険者ギルドとは少々雰囲気が異なるかもしれません」


 僕の戸惑いを察して受付のお姉さんが声をかけてくれた。

 高級な土地柄なので冒険者の品もいいってことだろう。

 ガラが悪くないのは僕にとってもありがたいことだ。


「ありがとうございます。納得しました。冒険者登録をお願いしたいのですが」


「かしこまりました。そちらの席へどうぞ」


 席に座ると受付のお姉さんは頭を下げた。


「本日、担当いたしますアーニャ・フロスミニクと申します」


 整った顔立ちに白い肌、結い上げた髪と丁寧な物腰が大人の女性を印象づける。おじぎを終えて耳にかかったサイドの髪を整える仕草がとても艶やかだった。髪がかかるような長い耳、きっとエルフなのだろう。目がくらむような脅威の美貌に、制服の中でも確かに主張する胸囲の乳房。

 ガン見する前に、頭を下げた。


「ご丁寧にどうも。マコト・サクラです」


「よろしくお願いいたします。マコトさま。それでは手続きに移らせて頂きます。まずはこちらの書類にご記入をお願いいたします。難しい場合は代筆も可能ですが……」


「いえ、大丈夫です」

 

 もってて良かった言語疎通の加護である。

 書きたい内容をイメージすれば光の文字が紙の上に浮かぶ。

 あとはペンでなぞるだけだ。最近は名前だけなら光の文字より先に書き込めるようになったので、いずれは加護なしで文字を書けるようになるのが目標だ。


「終わりました」


「承りました。次はこちらの水晶玉に手をかざしてください」


「この水晶玉は?」


「魔力測定器です。手をかざした人間の魔力量に応じて光り方が変わるようになっています」


 えー、さんざん残りカスだとなじられたので、魔力量なんて見たくないのですが。さらには綺麗なお姉さんの前で羞恥プレイまでついてくる。(え、たったこれだけ……?)とアーニャさんの蔑む視線にさらされることに……別方面でアリな気もしてきたが、まずは聞いてみよう。


「これは省略できますか?魔力に自信がないです」


「申し訳ありません。規則ですので」


 しかたない覚悟を決めよう。

 ちょっとだけドキドキなんかしてないんだからね!


 えい、と水晶玉に手をかざす。

 ブンと機械が起動する時のような重低音。

 次の瞬間、水晶玉がまばゆい光を放った。

 まるで目の前でフラッシュを焚かれたようだ。

 耐えきれず手を引っ込めると光はすぐにおさまった。


「今のは……?」


「強大な魔力、魔力量も宮廷魔術師以上、いえエンシェントエルフ並!? あの子以上!? 失礼します!」



 アーニャさんは水晶玉の置かれた台座から紙を取り出すと、僕に見せた。それは簡易版のステータスシートだった。

 

■名前:マコト・サクラ

■体力:45/50

■魔力:980/980


「マコトさまはたぐいまれな魔力の持ち主です。常人の魔力が50~100の範囲内ですから、普通の人の10倍以上の魔力を持っていることになります」


 え、どうして、召喚の時に魔力が奪われて、7しかなかった魔力が急になんで? どゆこと? わからないよ?


 こまった時の女神様頼り。


『ルミナ!ルミナ!助けて!』


『……んー、どうしたんですかー、急に?』


『魔力を測られたら、なんかメチャクチャ魔力があると言われた』


『おかしいですね。ちょっとマコトさんの体をスキャンしても構いませんか?あ、もちろん大事なところは隠しますので』


『構わない!やってくれ!』



 ルミナが僕の体を調べている間、アーニャさんが僕の魔力がいかにすごいかを説明する。


「魔術師を目指せば世界の五指に入る才能です。魔力コストの都合で冒険者が嫌がる召喚術師も、この魔力でしたら問題なく使いこなせます。何より魔力の純度が素晴らしいです──」



『大変です!大変です!マコトさん!』


『わかった?』


『マコトさんの中に、わたしの神の力が流れ込んでいます!』


『よくわからん!』


『召喚されて地上にいる時、契約者であるマコトさんとわたしは魔力的につながった状態になります。その時、わたしの力がマコトさんの体の中に流れ込んだみたいです!』


『それが測定されたってことか、そんなホイホイ神の力が流れ込むものなの?』


『マコトさんが特別なんです!わたしだって想定外ですよこんなの!』


『オーケーオーケー、落ち着いてルミナ。深呼吸して。詳しい説明は後から聞く、難しいことは考えなくていい。今から聞くことは一つだけだよ。僕は今どう動けばいい?』


『これ以上調べられないようにしてください!神の召喚がバレます!』


『ありがとう、ルミナ。助かったよ』


 念話を切ると、アーニャさんはまだ説明の途中だった。

 よほど熱が入っていたのだろう。


「──一定以上の魔力量を持った方には、特待魔術師制度というものもございます。これは冒険者ギルド所属の魔術師を確保するため生まれた制度で、買取制度への特典、装備の斡旋、緊急時の資金貸付も可能になっております」


 アーニャさんの説明が途切れるのに合わせて口を開く。


「すみません。僕は最低限のお金稼ぎがしたいだけなんです。あまり有名になるつもりもありません。極力、僕の魔力が人の目に触れない形での登録をお願いしたいです」


 アーニャさんは我に返ったようだ。

 僕に向かって深く頭を下げる。


「……申し訳ございません。マコトさまの都合を考慮しておりませんでした。ただ今回の結果自体は冒険者ギルドに残ります。誰の目にも触れないという保証はできかねます」


 あー、確かに今回の結果は残るよね。

 そこまでもみ消すのは難しいかな。

 無理にもみ消した結果、それ以上に目立ったら意味がない。


「恐縮ですが事情を伺ってもよろしいでしょうか?」


 アーニャさんが聞いてくる。

 どうしたものか、どこまで事情を話すか、

 まったく話さなくても怪しまれるよな。


 悩んでいるとアーニャさんがまっすぐに見つめてくる。

 何かを決意したかのような真剣な表情だ。


(……あの子のようにはさせません。絶対に)


 アーニャさんが小声で何かつぶやいた。

 その言葉を聞き取る間もなく、アーニャさんが身を寄せて、僕の耳にささやく。今までと異なる柔らかい口調だった。


「もしギルド内で話しづらいことであれば、私のシフトはもうすぐ終わります。外でお茶でも飲みながらお話しませんか?」


読んでいただきありがとうございます。

☆の評価や感想などいただけると

より続きの話が出やすくなるのでよろしくお願いします。

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