第四十一話 どちらでもよくて
「神の召喚を僕が……」
確かにルミナの召喚には成功した。
だが前回は恥ずかしい日記の読み上げで、ルミナの方から来てもらっただけだ。
今回はイーナさんを救うため正しい呪文で召喚しなくてはならない。
僕にできるのか?
目の前には気を失ったイーナさん。
その腹部には紙片状の神遺物。
召喚のカギをつかむためには神遺物を調べるしかない。
紙片をめくろうとするが魔力的にイーナさんと同化しているらしく上手く触れられない。神の魔力を込めた指でなんとかめくることができた。これが僕の戦いの第一歩。紙片に記された内容がいかなる難問であっても立ち向かわなくてはならない。それがルミナと契約した僕のやるべきことだ。
どうか、わかりやすいものであってくれ!
【6752012395832333344491123――】
紙片に記されていたのは数字の羅列だった。
『ルミナ!ヒント!』
『はやい!はやいですマコトさん!もう少し頑張るところを見せてください!それに聞かれてもわたしは答えられません!神を召喚する手段について他の神が直接教えるのは掟で禁じられてるんです!そうでないと、神を一柱召喚した時点で他の神も召喚できるといういうことになりますから!』
『あー、言われると芋づる式は危険だね。するとこの暗号を一人で解くしかないってことか。きっついなー』
『わたしは全然心配してませんよ?マコトさんなら余裕です!』
『気持ちはありがたいけど過大評価だと思うよ。ルミナの時はたまたま上手くいっただけだって』
『いいえ。わたしの時はちょっと、いえ、とおーっても、今思い出しても信じられない!くらい変な形の召喚ですけど、最終的にマコトさんはわたしという神様の心に寄り添ったんです。そのことには自信持ってください。今回もドーンと同じことをしちゃえばいいだけですよ?』
『……ありがとう』
我ながらチョロい気もするが、ルミナに励まされただけでやれるような気がしてくるから不思議だ。
倒れていたイーナさんがようやく目を覚ます。
目をぱちぱちと瞬かせ、腹部の神遺物があらわになっていることに気づいた様子だ。
「どうやら……ご覧になったようですね」
「はい。冒険者が依頼主のプライバシーに立ち入るのは御法度ですが、神遺物が持ち込まれているとなっては話は別です。どうか話を聞かせてくれませんか?」
「神遺物ということまで言い当てられてしまっては誤魔化しようもございません。これは神遺物オクソーリア断片、豊穣の女神ディクテメル様の神遺物だと聞いております」
「……どうして、神遺物をアキュニスに持ち込んだんですか?」
「司祭様より、アキュニスに審判の時が来ている、と聞いております。アキュニスが正しき姿であれば神遺物が豊穣をもたらし、誤った姿であれば滅びをもたらす。全ては神の導き、とのことです」
イーナさんは全てを知らされていないようだ。
それなら説得できるかもしれない。
僕はイーナさんに真実を伝えることにした。
「心を強く持って聞いてください。イーナさんは騙されています。その刻まれた呪文に善悪を判別するようなものはありません。時間がくれば、自動で召喚を失敗させ周囲を破壊させる仕組みです。イーナさんは人間爆弾にされていたんです」
「そうですか……」
イーナさんはうつむいた様子を見せた。そして顔をあげて力なく微笑む。
「そういうこともございます。これも神のお導きです」
「っ!あなたという人は!」
思わず声が出た。
命が惜しくないのか!と怒鳴りつけそうになる。だが口に出そうとするところで、胸のうちで妙にしっくりくるものがあり、その言葉は外に出ずとどまってしまう。
イーナさんは本当に命が惜しくないとすれば?
いつ死んでも構わないなら、進む道は右でも左でもどっちでもいい。全てを神に委ねてしまっても問題ない。僕のミスで死にそうになっても怒る必要がない。そう考えるだけで、今までのイーナさんの行動に一本筋が通るのである。
ようやくイーナさんの心に触れられた気がする。
だが、それはとても悲しいことだ。
僕はためらいながらイーナさんへの言葉を探す。
「僕はこれからとても失礼なことを言います。付き合い十日程度の新米冒険者のたわごとです。的外れでしたら遠慮なく怒ってもらって構いません」
「はい?」
「イーナさんは、すべてを諦めるために神を信仰しているように見えます」
「……」
はじめての長い無言。
僕の言葉はイーナさんの胸に届いたのか。
その答えを示すようにイーナさんはその口を開いた。
「そのような言葉をかけて頂いたのは初めてです――」
そしてイーナさんは語り始めた。
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