第三十八話 導き導かれたその先は
これまでのあらすじ。
綺麗な女神官さんはぽんこつだった!
以上!
というのは半分冗談だが、この女神官のイーナさん、ことある度に神の導き(杖倒し)に従おうとする。そして今日も──
「神よ。わたくしをお導きください……」
パタン
「神のお導きに感謝いたします。本日は野菜から頂きます」
(夕食の食べる順番を聞かれても、神様も困るんじゃないかしら……まぁ架空の神様だからいいんだけどさ)
もしルミナだったら、そう考えるだけで困惑する姿が見えてくるようである。
『え? え? 別に好きな順番でいいんじゃないでしょうか……?』
そうそうこんな感じ、僕のイメージ力もたいしたものだな、と思ったら念話だった。実際に困惑してた。
『好きなものは、後にとっておく派もいるかもね!』
与太念話を打ち切って、真面目に考える。
イーナさんは一事が万事この調子だ。別れ道があるたびに杖を倒して道を決めるから、目的地のアキュニスの首都までの距離は近付いたり離れたりだ。報酬は日当で出るから構わないにしても、道行きがまったく見えないのは精神的にしんどいものがある。
あぁ……こんな道中だったからガルジェクト帝国側で護衛してた冒険者さん達も疲弊してたんだな。今になってその理由を理解できた。
他の神官さんは、こんな進み方に文句を言わないのだろうか……と思うのだが、ガラハ神官をはじめとする他の神官さんは黙って従うのみで、落ち着いた様子である。
この旅は急ぐ必要がない?
何らかの別の目的がある?
推測ばかりしていても先に進まない。
神遺物を運んでいるか確認する目的もある。
食後のイーナさんに声をかけてみることにした。
「お疲れ様です。イーナさん」
「今日もお勤めありがとうございます。きっと神様もマコト様の働きを見届けてくださっているでしょう」
いつもながら仰々しい褒め方のイーナさんだ。
まずは色々きいてみよう。
「すいません。僕は詳しくしらないのですが、イーナさんの崇めている、ミンロジガル教の神様ってどんな神様なのでしょうか」
「そうですね……ミンロジガル教は、わたくしたち民が肉体的・精神的豊かさを保てるよう正しい道を指し示してくださる神様を崇める宗教です。もちろん時には試練を与えることもございますが、より豊かな実りに繋げるための冬の時期とわたくしは考えております」
「へー、それはありがたい神様ですね。今回のお仕事でも、みんなが幸せになれたら素敵なんですけど」
「はい……と、申し上げたいところなのですが、神の深慮遠謀のお考えですから、わたくし達短いものの考え方ですぐ幸せになれるかは保障できないところがあります。申し訳ありません」
「ははは、難しいですね。少なくとも、護衛のお賃金をもらえているので僕はありがたいです」
さすがに今回の護衛について聞いてもはぐらかされるか。
別方向から探りを入れてみよう。
「導いてくれる神様だから、イーナさんは頻繁に神様に尋ねてるんですね。ごめんなさい。俗っぽい考え方なのですが、神様もなんども聞かれてめんどくさくならないのかな?って思っちゃいます」
「神様はわたくし達ちいさな生き物の想像を超えたお力の持ち主です。正しき道を指し示すことに何の苦しみもありません」
『とのことですが、どうなんでしょうか神様代表ルミナさん』
『力は比べものになりませんけど!その分、小回りが利かないので大変なんです!だからダンジョンとかで地脈管理を人間に任せてるんですよ!?架空の神だからって盛りすぎはズールーいーでーすー!』
『心からの叫びありがとうございますルミナさん。それでは僭越ながらルミナスティア様最推し契約者として遺憾の意を表明したいと思います』
『怒られません?』
『結局、神遺物とか探らなきゃだから怒られるのも盛り込み済みだよ』
それじゃ、もう少し踏み込むことにしましょうか
「気を悪くしたらごめんなさいイーナさん。僕は性格上、神様がそこまで大きな全知全能の存在には思えないんです。僕らと一緒に笑ったり悩んだりしてくれる存在だったらいいなぁとか考えてます」
「……」
「あの、イーナさん?」
「素晴らしいです!」
「え?」
「おっしゃる通りです。神は偉大な存在ですが、過剰に持ち上げてはいけません!わたくし達の喜びや悲しみ、マコト様がわたくしに配慮する慈しみの中にも神はおわします。あぁ、新しい知見をくださったマコト様に、マコト様を遣わしてくださった神様にも感謝いたします──」
あー、これは伝わってないなー。
さらには本気で感謝の念を向けてくるので非常にやりづらい。まっすぐな笑顔が、探ろうとする僕の心にグサグサと突き刺さってくるのだ。イーナさんに接触しようとする僕を、他の神官達が咎めない理由が理解できた。
「イーナさんの信仰心の高さは本当に素敵ですね。その信仰心のきっかけになった出来事とかものとかあったりします?」
「……いいえ、ありません。わたくしの心は毎日の祈りの先にあるものですから」
信仰心の高さは神遺物に起因している?
と含みを持たせた言葉を放ってみても反応は芳しくない。
きっかけはありそうだが神遺物のせいではなさそうだ。
現時点ではイーナさんから情報を引き出せない。
だから明日からアプローチを変えてみることにした。
「神よ我々をお導きください──」
パタン
本日三回目の杖を倒しての道決め、今まで何回も繰り返された運試しだが、今日はアキュニス首都へと着実に近付いている。
仕掛けは簡単、イーナに杖に渡している神官にお金を渡してつぶやいた。
「毎日メンテしてると杖の装飾品のバランスが片寄ることがあるんじゃないですか? そう、たまたまアキュニス首都側だったりとか」
「全ては神のお導きですから、たまにはそういうこともあるかもしれませんねぇ」
男はお金を受け取った。
そして一転、本日は快適な旅である。
快適さの一方で、イーナさんを欺いているという罪悪感を抱えたまま僕は今後のことを考える。
今回のことでわかったのは、イーナさんの信仰心は非常に高いが、周囲の人間はそうでもないということだ。そうでなければ買収になんか乗ってこない。
信仰心の高い一人の女神官。
神を本気で信じていない周囲の神官。
実にいびつな集団だ。
架空の神を崇める宗教という、その仕組みを他のメンバーは知っている可能性もあるだろう。
イーナさんとその他の神官の立ち位置は異なるという認識で情報収集する必要がありそうだ。
「神よ我々をお導きください──」
本日四度目になる杖倒し、その時僕は自分の行いを後悔した。
信じるものが架空の神であったとしても、人を欺いてはいけない。
僕の行いをそう諭すかのように、装飾をつけ間違え想定外の方向にバランスを崩した杖は、アキュニス首都に近づく右の道でもなく、アキュニス首都から遠のく左の道でもなく、中央に存在する崖、さらにはその先の急流を指し示していた。
「まさか」
僕が声に出すより早く、イーナさんは崖からその身を投じていた。
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