第三十五話 日記:種火の月 四日
仕事がめちゃくちゃ忙しくなったのと引っ越しなどありまして、あまり見てる人もいないし別にいいかな?と更新を放置していたのですが、感想が欲しくて応募したネット小説大賞の一次は通っていたりして、この作品もそこまで捨てたものではないのかな? と思いまた続きを書いてみることにしました。
週に一話、二週に一話ぐらいのペースで更新して、当面はストックをためる予定です。
日記:種火の月 四日
そちらは残暑が厳しい時期だと思いますが、おじいちゃんは元気でしょうか。
どうか夏バテには気をつけてくださいね。
僕といえば、なんとかやっています。身体も鍛えてそこそこ強くなりました。
たくましくなった孫の姿にはおじいちゃんもびっくりすることでしょう。
はやく契約を果たして再会したいものです。
さてさて、こうしてカッコつけてはいますが、女神様に頼りきりの身の上です。
今の僕は毎日三回女神様の方角を向いて祈りをささげる敬虔な信徒です。身を清めて地面に這いつくばり三時間、一心に祈りをささげます。この間は微動だにしてはいけません。そして女神様から下された言葉を守り、一日をつつましく過ごします……というのはもちろん冗談です。
僕の信じる女神様はノリの良い方で助かってます。
ですがこの異世界には他の神様も存在するわけで、厳しい戒律を持つ宗教もあるかもしれません。
いたずらに触れてはいけない神様もいるかもしれません。
そんな存在と出会った時、僕はどんな風にふるまうのでしょうか?
時々そんなことを考えたりします――
『なぁ、いいだろ。もう我慢できねぇんだよ。できるだけ優しくするからさ、な? な?』
『ダメよ……いつもそんな風に口先だけ、ギリギリになったら前みたいにムリヤリするんでしょ。知ってるんだから』
『はぁ、はぁ、そんなこと言ってもオレもうこんなになっちまってるんだ。うっ、もうダメだ限界だ!』
『いやぁああああ!鬼畜!ケダモノ!』
少なくともこんな言動はアウトだろうと思う。
「あー!もう!今回も恥ずかしい日記を読み上げてひどい人ですね!マイルドな日記にしてくださいってお願いしたじゃないですか!チャラ男風の演技してもぜんぜん似合ってないんですからねー!」
「いや、軽口は叩いてたけど緊急事態だからね?僕のおなかはハラキリ状態だったからね?はぁはぁしてたのも興奮でなく死にかけの吐息だからね?そんな緊急事態でもノってくるルミナに驚いたぐらいだからね?」
今日の仕事はギルドの依頼の魔物退治。
目的の魔物は無事倒したのだが、伏兵の一撃が僕を待ち受けていた。
物陰から飛び出したA級モンスター、シミターディアの鋭い角が僕の腹部を切り裂いたのだ。
通常であれば神の魔力で治るところだが、今日は残りの魔力が心もとない状態。
そこで緊急の日記召喚、先ほどの念話でのやりとりである。
「そーれーでーもー!はずかしいのはわかってくーだーさーいー!」
今、目の前にいる存在が女神ルミナスティア様。通称ルミナ。
命を狙われた僕が、とっさに恥ずかしい日記を読み上げることで召喚した女神様だ。
もろもろの出来事の末、力を借りるかわりに女神様の日記(神遺物:光の聖典)を人の手の届かない場所に隠すという契約を結んだ相手でもある。
神々しい銀の髪、どんな宝石よりも繊細な輝きをたたえた瞳、その身の描く曲線全てが美を物語る。本来なら美しさだけで膝をついて崇拝する対象なのだが、お互いの恥ずかしい日記を読み上げ合う関係性からか、友達のような気安いやりとりのまま現在にいたる。
「わかってる。わかってるよ」
今の僕の強さは女神様に依存している。
勇者を作る材料として召喚された僕の身体には、魔力的な空きスペースがある。
そこに流れ込んだ神の魔力を使って普段の戦いをこなしているのだ。
「でもこっちの事情もわかってよ。ピンチになったら召喚せざるをえないんだって」
「それならピンチにならないように、事前に準備すれば良いじゃないですか!」
「神の魔力の残量が少なくなってきた時に召喚しようとしたら『まだいけます!もうちょいいけます!マコトさんのいいとこ見てみたい!』と拒否ったのはルミナだよね?」
「だってマイルドなポエム日記だって読まれないに越したことはないじゃないですかー! ううぅ、あの時に我慢したほうが傷は浅かったんですね……」
神の魔力は、魔術に使えば高威力、体に流せば身体能力を強化し、回復効果まで持つ。
ただ使えるのは召喚時に僕の体に流れ込んだ分の使い捨て。補給のためには召喚が必要になるのだが、召喚手段がルミナの日記読み上げ、さらには日記の恥ずかし度が高ければ高いほど早く呼び出せるとあっては、召喚するしないのやりとりは毎度のように起きるのである。
ただ緊急事態とはいえ、人(神)の日記を読み上げている申し訳なさは僕にもある。
「次は僕もピンチにならないよう頑張るからさ。ルミナも、もうちょっとマイルドな日記ポエムでの召喚を許可してくれるとうれしい。今回のおわびというわけじゃないけど、またお菓子の差し入れするからさ」
「お菓子ですか!?」
「うん。またおいしそうなの探してくるよ」
「……マコトさん?わたしのことお菓子で釣ればいいと思ってませんか!?わたしだって女神のはしくれ、そんなお菓子ひとつでダマされるほど安い女じゃありません!」
「え、いや、そんなつもりは」
「そうです!わたしはお菓子ひとつでダマされるほど安い女じゃありません!三つ!いや四つ!いいえ、女神ですから五つ!要求しても許されるんじゃないでしょうか!」
「数の問題だったかぁー」
思わず微笑んでしまう。
かわいいかわいいお菓子五つ分の女神様。
僕が異世界でも能天気に過ごせているのは、
こんな女神様とのやりとりがあるからだ。
何度も繰り返した感謝の言葉を口にする。
「ありがとう、ルミナ」
「……なんですか、急に殊勝な態度とってもお菓子ひとつたりともまけませんからね。五つですからね!」
「はいはい、かしこまりました。お菓子五つ、ちゃんと用意するよ」
「むー、なんか面白くない反応ですねー」
むくれたような顔を見せるルミナ。
その表情が不意に真剣なものに変わる。
「……マコトさん、今、反応がありました」
「何の反応?」
「私以外の神にまつわる何かが、この世界で動いています――」
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