第三十四話 過去形はもうすでに
「それじゃ、みんな、まったねー!」
僕がダンジョン攻略してから一週間後。
センリさんが再び武者修行の旅に出る日が訪れた。
今は、銀の小羽根亭の前で見送りをしているところだ。
「やだー!センリおねーさんが、もういっちゃうのやだー!」
全力で駄々をこねているのは銀の小羽根亭の看板娘、シアだ。
二人とも人懐っこいタイプだから自然と仲良くなっていたようだ。
素直に行かないでと言えるシアが、僕はちょっとうらやましい。
「あー、もうしかたないわねー、ほらほら泣いちゃダメ。可愛い顔が台無しよ。それにさよならじゃないんだから、マコトくんに次の教えが必要になったころ、戻ってくるわよ」
「おにーさん!次が必要なくらい強くなって!今すぐ!」
「無茶いわんでくれシア」
「ふふっ、私も本来なら引き止めたいところなんですけどね」
残念そうな顔で見送るのは、冒険者ギルドの受付嬢のアーニャさん。
センリさんは僕に修行をつける合間、周辺の強い魔物を狩りまくってアーニャさんのところに持ち込んでいたらしい。おかげでセンリさんと担当のアーニャさんの評価は高まる一方、このままだとギルドの重要戦力に数えられて旅に出づらくなる。そうなる前にイースレインを離れるとのことだ。
「アーニャさん、私がいない間はマコトくんをよろしく。魔術以外もね? マコトくんは大変なことを抱え込んでも平気な顔をするみたいだから」
「おまかせくださいセンリさん。私はマコトさんの魔術と日常を見守るお姉ちゃんですから!」
「ははっ、それなら私はマコトくんの剣術のお姉ちゃんだ。弟と妹が一度に増えちゃった!」
「ずるーい!わたしも仲間にいれてー!」
「シアちゃんも含めて家族みたいなものと思ってください。センリさんにはいつでも気兼ねせずイースレインの私たちに会いにきて欲しい、そういう意味です」
「──ありがと!」
シアとアーニャさんとセンリさんが和気あいあいと話している。
大切な人たちの仲が良いのはとても喜ばしいことだ。
でも、僕の姉権を勝手にやりとりしないで欲しい……
「マコトくん」
最後にセンリさんが僕に声をかけてくる。
「マコトくんはすごい速さで成長してるから、またすぐに会うことになると思うけど、ちゃんと練習してね!あと自分を大事にしてね!」
センリさんは押し込めていた僕の涙を解き放ってくれた人だ。
素直な気持ちを言えば、まだ一緒にいてほしい。
けれどそれは甘えだろうと思う。
僕の心の歪みを救ってくれた人、
そんなセンリさんに対する答えなら
僕がちゃんと一人でやっていける姿を見せるしかないわけで
そんな心の中でぶつかる思いが言葉になる。
「……いつか僕が強くなって、センリさんの修行相手にふさわしいくらい強くなれたら、センリさんはここにいてくれますか?」
今の僕が伝えられる精一杯の好意。
センリさんは聞き終えると微笑んで
「もーっ!マコトくんってば可愛いんだからー!そんなカッコいいことばっかり言ってるとお姉さん期待しちゃうぞー!」
軽い口調で言いながら、急に僕を抱き寄せて
「頑張ってね」
耳元でそうささやいてくれた。
「あー!ズルいー!わたしもするー!」
シアが乱入してサンドイッチにされる一幕もありつつ
センリさんはまた旅立っていった。
「よし、頑張ろう」
『……わたしの約束も忘れないでくださいね?』
決意を新たにしているとルミナの念話が入る。
『忘れるわけないでしょ。ただセンリさんは僕の心を救ってくれた人だからちょっと思い入れがあるのは理解してほしい』
『ふーん!いつかわたしに救われた時に、ルミナ様好き好き大好き愛してる、言いたくなっても知らないんですからねー!』
『僕はそんな言い方はしなかったなぁ』
おいおいルミナさま、何かお忘れでないかい?
たしかにセンリさんは僕の心を救ってくれた大切な人だ。
だけど、僕はずっと前から、どっかの誰かさんが話し相手になってくれなけば、やってこれなかったと何度も言っている。心を救ってくれた相手はもう一人、いやもう一柱、僕のすぐそばにいる、ってことなのにさ──
『む、よくわかりませんが微デレの気配がしますっ!』
『微デレいうな』
新しい出会いと別れを重ねつつ、
変わらない関係と共に僕はまた歩き出す。
新しい冒険がはじまりそうな気がしていた。
短めですがこれにて2.5章は終了です。
次の長編3章の直しが間に合ってないので、時間をあけてまとめて更新するか、今まで同様に週一での更新か、どちらかになると思います。
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