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第三十三話 最深部の大決戦!!


「くっくっく、よくぞ来た冒険者よ。この暁の賢者が管理するダンジョンは楽しんで頂けたかの?」


 洞窟の最深部、祭壇のある石造りの部屋に入るなり、機械音声のような声が響いてきた。どうやら管理者が僕の動きを見て話しかけてきたようだ。


『ルミナ、こういうことってよくあるの?』


『あー、ありますねー。ダンジョン管理して、そこで冒険者たちが命を散らしていくのを管理していると、マコトさんの世界で言うところのデスゲームの主催者みたいな気分になっちゃうらしく、たまーに奥まで来た冒険者にラスボス的お出迎えしちゃうんですよ』


『人に管理権を渡すには早すぎたのでは……? ともかく国の偉い人側だろうし、召喚とかは使わずにすませたいな』


『……(言えない。神様でもふざける子がいるなんて)』


 ルミナの妙な無言が気になるが、こちらは極力目立たない方針でいこう。


「ふむ、声を出す余裕もないか。しかたあるまいて妾が管理するダンジョンじゃ。だがそんなお主らに最後の試練が降りかかる!体力をふり絞り!知恵を巡らせ!こころして立ち向かうがいい!」


「あのノリノリのところすみませんが、僕は帰りますね」


「なっ!もそっと待て!ここにきて殺生なことを言うでない!」


「いやぁ、さすがの賢者さまが管理されるダンジョンです。一歩歩くたびに僕の身体を緊張感が走りました。強大な敵!狡猾な罠!精魂尽き果ててしまった僕はこうして命あってのものだねと泣く泣く帰途につくわけで」


「ほっほっ、そうじゃろう、そうじゃろう、なんせ妾が――」


 ダンジョンの管理者をおだてながら、一歩ずつ、一歩ずつ後ろへ、そこには降りてきた階段がある。あと数メートル。あとは一気に駆け抜けるだけ。


「――なあんてことを許すとおもうたか!つまらん王宮勤めの中で久々に飛びこんで来た見世物!ずぇーったいに逃がさぬぞ!」


 ズシンと重苦しい音。

 階段への道が天井から降りてきた石壁で塞がれていた。

 ディバインアローで壁を撃ちぬくことはできそうだが大質量を消し飛ばすのは難しい。召喚なんてもってのほかだ。


 振り返るとダンジョンの最奥にある祭壇、そこにあるかがり火がごうごうと燃え上がっていた。魔力で燃えている炎が勢いを増す。それは魔力があの場所に集まっているということだ。

 ダンジョン管理者の声が響く。


「ふふふ、祭壇にこの地脈の魔力が集まっているのがわかるじゃろう。これはボスであるガーディアンを作るための儀式じゃ。お主のダンジョンでの戦闘記録、それに応じた最適なガーディアンが作成されるようになっておる。そうそう勝てるものではない。恐れおののくがいいわ! あ、せっかくの遊び相手じゃから戦闘不能にはするがトドメは刺さんからの。安心してやられるがよいぞ」


「はい!降参します!」


「却下じゃ!」


 まぁ退屈してるみたいだし、許してくれないよなぁ。

 適当にプロレスしたら満足してくれないだろうか。

 そんなことを考える僕の前で、祭壇は魔力を吸い上げ続ける。


「ぬ?遅いのう。もう終わっていても良いころなのじゃが、さすがに遅すぎぬか。ふむ、確認してみるとするか、なぬぬぬ!?想定レベル未達のため魔力吸収、継続中!?お主どれだけ暴れてきた!?このままでは保管した魔力が底をついて──」


 祭壇の炎がひときわ強く燃え上がり、消えた。

 その場に現れたのは、魔力の光を放つ人形。

 サイズは僕より少し大きいくらい。

 質素な作りの人形だが、妙な存在感がある。


「ええい、魔力切れで当分何もできんようになったが、その分は妾を楽しませるがよい!迷宮守護者ダンジョンガーディアン!」


 迷宮の管理人の声とともに人形が地を蹴った。


 速


 と感じるよりも先に危機感が踏ませたサイドステップ。

 人形の振り上げた両手が先ほどまでいた場所を叩いていた。


『ダンジョンの魔力で能力を底上げした守護者です!マコトさんの戦闘記録からディバインアローを一番危険な攻撃と判断して、回避に特化したんだと思います!本当はディバインアローに耐える防御力も確保したかったんでしょうけど、ダンジョンに残る記録は【魔術で頭を一撃で貫かれた】というレベルですので、どこまで上げればよいかわからず魔力が尽きてしまったんでしょう。まぁ、神の魔力相手ですから、迷宮の魔力程度じゃどっちにしろムリなんですけどね!』


 ルミナの楽しそうな念話解説が入った。

 解説するか自慢するか、どっちかにしろ!

 僕は人形の攻撃を避けながら呪文を唱える。

 

「我が身に宿りし奔流よ。汝が纏うは一時の狩衣。掌中に集いて矢束を成せ。『偽装の矢(フェイクアロー)』!」


 フェイクアローの一撃。

 十分に引き付けて放ったはずなのに、人形は難なく回避する。

 人形の右手の一撃を刀で受け、バックステップ。

 再び距離を取る。


 やっかいな相手だった。

 僕の戦術はディバインアロー(フェイクアロー)を当てられる状況に持っていく、またはそれをオトリにして別の攻撃を当てるという形で成り立っている。

 当てられないとなればその根本が崩れてしまう。


 距離を詰め、今度は刀で斬りかかる。

 狙いはダメージを与えてフェイクアローを当てられる状況に持ち込むこと。だが動きが速すぎるせいで何度斬ってもクリーンヒットに持っていけない。後に待ち受ける反撃をセンリさん達に教えてもらったステップや剣での受け払いでしのいでいる状況だ。


「いけー!やるのじゃー!そうじゃ!そこでもう一発じゃー!」


 管理者の声がやかましい中、受けきれなかった人形の一撃が僕の腹にめり込んだ。

 ぐっとこみ上げる吐き気をこらえて、後ろに飛ぶ。

 

 あー、めんどくさいし、殺す気はないらしいし、負けちゃおうかな?

 そうしたら──

 

 そんなことを考えているとルミナの念話が響く。


『マコトさん、ここで負けたらセンリさんが旅に出ないでくれるかなぁ、とか考えてません?』


『ぐっ、なんでそれを』


『お話してる時にほわほわしてる気配がでてるんですもの、わーかーりーまーす! やーですね。男の子なんて、ちょっとお姉さんの胸で泣いたら、好きになっちゃうんですから! ピンチでござーい、みたいな顔して魔力強化も使ってないですし』


『それは……魔力強化は頼りすぎちゃいけないって言われているし、ここのダンジョンの管理者に魔力強化に目をつけられたらめんどくさそうだし』


『ほんと、ですか?』


 人形がルミナの問いと同時に襲い掛かってくる。

 あぁ、こんな時にうっとうしい!ならお望み通り使ってやるさ!

 目立たない程度の微弱な量で、神の魔力を全身に流した。


 魔力強化も上達したため、微量でも人形の動きがスローに見える。

 速度はあるが速さに頼った雑な動き、かつての自分のような右ストレート。

 同じ速度であれば対応できる、左腕で外にはじいて、右袈裟一閃。

 続く蹴りは軸足を刈って床に叩きつける。


 アーニャさんとセンリさんの戦いの再現のようなものだ。

 的確に攻撃をさばき、的確に反撃を行う。それだけで勝負の天秤は覆る。

 相手は人間でないため致命傷にはなっていないようだが、劣勢になっていた状況を互角以上にまで押し返せたようだ。

 

「……ぬ、ぬぬぬ!?その程度で退くでない!立って攻めんか!」


 管理者は形勢が覆ったことに驚いているようだが、

 僕にそんなことを気にしている余裕はない。


 僕は今も人形の攻撃をさばき反撃を打ち込みながら、

 ルミナとの念話を続けているからだ。

 

『えー!そうですよ。このダンジョンをクリアできたら初級卒業って話だから、またセンリさんが旅に出ちゃうんだろうなー!って、さみしがってましたよ僕は、でもまだまだ年上のお姉さんへの憧れレベルですし、これから本気出そうとしてたのに、先にそんなこと言われるとやるき出ないなー!』


『へー!とてもそうは見えなかったですけどねー!だいたい最近のマコトさんはモテすぎなんですよー!結局、領主様やメイドさんにも好かれちゃっているし、一番がわたしってわかっていても、ちゃんと約束守ってくれるか心配になるじゃないですかー!』


『それも運命の糸の仕様聞いたら素直に喜べんわ!ガンガン運命の糸を巻き取ってるとか、異世界で良縁の運命の糸を使い切って、元の世界に戻って孤独死したらどうしてくれる!』


『それはわたしの管轄じゃありませーん!しりませーん!』


 この女神様は!

 イラっとした気持ちが剣に乗ったのか、カウンター気味に放った刀の一撃が人形の右腕を斬り飛ばしていた。いけないやりすぎた!いや、いいんだっけか?

 口論しながら戦ってるから、わけがわからなくなってくる。


「グガガガガガ」


 はじめて人形が悲鳴のようなものをあげた。

 だが人形だけあって、戦意喪失はしない。

 再びこちらに襲い掛かってくる。


『そもそも、わざと負けてセンリさんに残ってもらおうみたいな甘えた考え方だから、こんな迷宮の人形ごときに苦戦するんですよ!センリさんは戦闘面では百戦錬磨、わざと負けるようなことしたら見透かされて見捨てられちゃうんですからねー!』


『あーもう、ルミナ!言うてはならんことを言うたな!僕もわざと負けたらそうなるんじゃないかって気付いて不安になってきたところなんだぞ!あーもう、この人形じゃま!』


 今度は人形の左腕が飛んだ。


「ああああ、妾の、妾の、迷宮守護者ダンジョンガーディアンがぁああ!」



『だから――センリさんを安心させてあげてください。安心して旅に出られるようにしてあげてください。旅先でもきっとマコトさんは生きていると、センリさんが安心して続きを教えに戻れるようにしてあげてください。それがマコトさんに今できることですよ』


『さんざこき下ろしておいてよく言うよ。僕にできると思う?』


『もちろん!マコトさんは、世界でたったひとりの、わたしの契約者なんですから――』


 その言葉を聞いた瞬間、迷いは晴れた。

 全身の魔力強化を切る。


 戻ってくる時間間隔。

 立ち上がる迷宮守護者ダンジョンガーディアン

 両腕は失っているが、両脚もスピードも健在。

 僕はこれからあいつに偽装の矢(フェイクアロー)を当てようと思う。


 このダンジョンで見出した戦い方。

 それを奪われたままではセンリさんも安心して旅に出られないだろう。

 だから僕は取り戻さなければならない。

 かわされたことで奪われたなら、当てることで取り戻せばいい。


 距離を詰める人形。

 僕はそれに合わせて呪文を唱える。


 「我が身に宿りし奔流よ。汝が纏うは一時の狩衣。掌中に集いて矢束を成せ。『偽装の矢(フェイクアロー)』!」


 先ほどと同じ呪文、先ほどと同じ戦況、だが僕のフェイクアローは手元を離れない。

 過去に魔力の矢(マジックアロー)でやったのと同じ手法。神の魔力はコントロールが格段に難しいが、なんとかできた。


 人形のかわす動作を見届けてから、カウンター気味に右手のフェイクアローを叩きつける。

 手のフェイクアローが人形の胴体部にめり込むのと同時に叫ぶ。


「行け!」


 人形の背中側から飛び出すフェイクアロー。

 胴体の中枢部を撃ちぬき、人形は動かなくなった。


『やったー!大勝利!』


『やりましたね!マコトさん!』


『これでセンリさんは旅に出ちゃうか……さみしいけどしかたない。それにしても今回は上手くルミナにのせられた感があるな……』


『えー、わたし、しーりーまーせーんー!カッコいいマコトさんなら自分で立ち直ると信じてましたよー!』


『その口でよくいうよ!』



「ああああ……妾の迷宮守護者ダンジョンガーディアンが……」


 そういえばまだいましたね。ダンジョンの管理者さん。

 打ちひしがれてる様子なので、今のうちに出てしまいましょう。

 出口をふさぐ岩の壁は祭壇の裏にあったスイッチでどかすことができた。

 さあ帰りの時間です。といったタイミングで再び声があがる。


「ま、待たぬか!そこの冒険者!お主のこのダンジョンでの戦いや魔術について話を聞かせてくれぬか!!後生じゃ!頼む!」


「やですよ。話を聞かないで襲い掛かってきたのはそっちですよね」


 ダンジョンの管理者を無視して帰途についた。

 こうして僕の初ダンジョン探索は終わったのである。


少しでも面白いと思って頂けたのでしたら、

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