第三十二話 1+1=3
「ここがダンジョンってやつか……」
センリさんに弟子入りしてから一か月。
僕はイースレインから近いダンジョン、グラキアの洞穴の前にいた。
センリさんとアーニャさんの訓練の総仕上げとしてダンジョンに挑戦することにしたのだ。「無事に抜けられれば初級テスト終了、胸を張って弟子を名乗っていいよ」とはセンリさんの言。ついでに光の聖典の隠し場所探しも兼ねている。
『ここは踏破済みダンジョンですから望み薄ですけどね』
『入る前からテンション下げないでよ、ルミナ』
ダンジョンは世界の重要な場所に生まれる迷宮のことだ。
高い魔力を持つ場所は、余剰した魔力が複雑化し迷宮を形作る。その迷宮を踏破した存在は、迷宮踏破者と呼ばれ近辺の大地の管理者となる。
『まぁ、簡単に言えば神の権限の一部委譲ですね。試練を超えた人を管理人にして、自分で環境を管理してもらうんですよ。ここはわたし作のダンジョンではないですけど』
管理者に何ができるかというと、地脈の魔力を使ってダンジョンの改造や迷宮の魔物のコントロール、周辺地形の操作が可能となる。過去には他国に潜入しダンジョンの管理権を奪取。周囲の穀倉地域を壊滅させ、魔物の大量増産を行うような侵略作戦がとられたこともあるらしい。
そのためダンジョンは国防の要として重要視される。
自国のダンジョンの管理者は自国の要人で固めておくのが普通だ。管理者は踏破順に優先権がつくので、上位10名ぐらいまで国の騎士団やらの人間で固められる。ちなみに冒険者が踏破した場合は管理権を国が買い上げてくれるようになっている。
『神様たちが自治管理を許したというのに、いつのまにかお金稼ぎの手段や戦争の道具にしてるんですから人間ってたくましいですよね……たとえるならサービスでタダであげたものを、勝手にお金をとって売ってるみたいな!』
『かの女神ルミナスティア様の使用済みダンジョン!今なら匂いも残ってる!』
『余計にいかがわしく言わないでくださーい!』
少し脱線したが、ルミナが何を言っているかというと、
ここは踏破済みダンジョンのため、アキュニス国の人間で探検され尽くされているということだ。
『逆に調査されつくしてるから隠してもバレないなんて話にならないかな……』
『それでも人はそれなりに来るんですよ。今、マコトさんが腕試しに来ているみたいに。さらには管理者だとダンジョン内部のスキャンも可能ですからねー』
『すると隠し場所として狙うなら未踏破ダンジョンかぁ。後のことを考えてダンジョンに慣れとくよ。そいじゃまた』
ルミナとの念話を切って、ダンジョンに入る。
岩の洞窟に入って早々、唸り声をあげる狼二匹がいた。
素早い動きが特徴で影に襲われたように見えることから、シャドウウルフと名づけられたモンスター。魔術をかわされる可能性があるため今までの僕なら避けていた相手だ。けれど今は違う。
新しく買った刀を抜き放つと同時に呪文を詠唱する。
「我が身に宿る奔流よ。掌中に集いて矢束を成せ。神魔の矢」
右側の一体を狙った一撃は、狙いどおりにシャドウウルフの脳天を貫いた。
まず魔術の狙いがよくなった。
今まではディバインアローを外した時点で死がちらついたが、剣で戦うという選択肢が増えたことで落ち着いて狙えるようになった。
続けて放つ二発目のディバインアロー。
残りのシャドウウルフは身体をひねって直撃を避けた。
死には至らないが矢は胴体を引き裂き、体勢が大きく崩れる。
そこに合わせて刀を一閃。
真っ二つになったシャドウウルフは即座に絶命した。
「ふぅ」
戦いの最中、僕の胸に沸き立つものがあった。
「グルルルル」
洞窟の奥からシャドウウルフ一体が追加で現れる。
慌てずに動きをよく見て刀を一振り。
素早い敵のため一撃必殺は難しい。
だから無理はしない。最初から脚を狙う。
鈍い手応えと共にシャドウウルフからあふれる鮮血。
機動力を削ぐことさえできれば
「神魔の矢」
ディバインアローが当てられる。
シャドウウルフの頭部が弾け、声もなく倒れ伏した。
僕は洞窟の奥へと進み、魔物を狩り続けた。
ディバインアローを布石にして刀でとどめを刺す。
刀を布石にしてディバインアローでとどめを刺す。
ディバインアローで削り、刀で時間を稼ぎ、その間に唱えた二発目でとどめを刺す。
ディバインアローを警戒しはじめた魔物は一気に距離を詰めて一刀両断。
剣で戦えるだけで、やれることがこんなに増えた。
いや、これからもっと増える。
確信に従い、洞窟の奥へと突き進む。
魔物が次々と現れ、目まぐるしく変化する戦況。
生と死のとなりあわせの中で、全力で振るう剣と魔術。
心では燃え滾る部分と冷静な部分が共存する不思議な感覚。
そんな中、魔物を倒すたびに研ぎ澄まされる部分がある。
一匹斬れば、動きが冴える
二匹斬れば、手札が増える
三匹斬れば、場を支配する
四匹斬れば――
目の前に死骸の山を築いてから、胸の高鳴りの正体に気がついた。
──僕の中で今、戦い方が生まれている
興奮おさまらない中、ルミナの念話が聞こえた。
『マコトさんはもう立派な冒険者さんですよ』
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