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第二十九話 代償


「ぐあああああああっ!」


 痛い。とても立っていられない。

 地面をのたうち回っても苦しみからは逃れられない。

 目を閉じ、耳をふさいでも、それは心の奥底から這い寄るようにして精神を焼き払う。過ぎ去るのを待つことしかできない。苦鳴をもらしながら僕は転げ回る。



 甘かった。


 神の召喚、異世界で唯一の僕の武器。

 何度も繰り返しておきながら、僕は何も知らなかった。

 力に溺れてその意味を知らなかった。

 

 まさか、こんな代償を支払う日がくるなんて



『待って金塚さん』

『え?』

『髪にいぶりがっこがついてたよ。カリッ、大人の味がする』

『マコトくん……(キュン)』



「え、なんですか、これ? この女の子、普段頭でごはん食べてるんですか?二口女ですか?酒のつまみ頭につけてるとか疲れた中年OLですか?こんなこと言う男の子って怖くないですか!?キュンじゃなくてヒュンですよ血の気が引きますよ?」


「やめてー!至極まっとうな意見を言わないでくれー!この頃の僕はおじいちゃんが食べてたから、いぶりがっこを大人の食べ物だと思ってたんだー!さらに言うとこの時の僕は血迷っていてたんだー!しぬー!ころしてくれー!」


 その代償は唐突に訪れた。


 神の魔力の補給のため、いつものようにルミナを召喚したところ「わたしだけが日記を読まれるの不公平だと思います!」と僕の昔の恥ずかしい日記を読み上げはじめたのだ。本物はとっくの昔に焼却しているというのに、一言一句寸分違わぬ品を再現するのだから神様パワーはおそろしい。


 小学生の時につけていた恥ずかしい日記。明日はこうだったら良いなという願望を書いていたら、次第にエスカレートして妄想と成り果てた過去の汚点である。その中でも、少女漫画からネタを拝借しつつクラスメイトの金塚さんとイチャイチャする妄想を書いてた一番痛々しい時期のものだ。


 さすがポエム日記を書いていた同類のルミナだ。

 的確にダメージが高いものを選んでくるな!


「ぐぐぐ、内容を良く知っているはずなのに、音読されると途端に恥ずかしさが跳ね上がる……神様ですら飛び出さずにはいられない気持ちが魂で理解できた……」


「少しはわたしの気持ちがわかりましたか?」


「うん……よくわかったよ。配慮は、十分にするけど、ルミナの力をまったく借りないままにはいかないんだよね……死ぬような状況だと使わざるをえないから、それは勘弁して」


「もう、仕方ないですねー!召喚する時は、マイルドな日記を選んでくださいね!」


「いや、マイルドな日記だと、ルミナが召喚されるまでの時間が長くなるし……」


「あー、わたし、急に音読したくなっちゃったな~!」


「善処します!」


 ルミナ召喚までの時間は、日記の恥ずかしポエム度が高ければ高いほど短くなる。早く行って音読を止めさせねば!という気持ちが、召喚までの時間に直結するのである。近頃は慣れで召喚が遅くなる傾向があるので、ジャンルをうまく使い分けたメリハリのある召喚が重要になりそうだ。


 ……熟年夫婦の夜の生活かな?


 体に残った神の魔力を使って、正攻法でルミナを召喚しようとしたこともあるが僕の器に残った程度の魔力では神の召喚には足りないということがわかった。


 なので今後も日記読み上げ召喚は継続である。


 むやみに恥ずかし度が高い日記を読むと、後で反撃されるので今後は気をつけねばならない。ただ生死がかかった状況だとそうも言ってられない。代償を覚悟で召喚するしかないだろう。神の魔力を補給するだけなら、マイルドな日記でも事足りるのだが……


「最近は、すごい人に出会ったり、事件に巻き込まれることが妙に多くなってるから、何があるか予想できないんだよなぁ……運命の女神様がいるなら問いただしたいくらいだよ」


「うーん、あの子に聞いても、仕様ですと答えると思いますよ」


「ぼやきに答えが来てしまうとか、女神界隈おそろしい」


 ルミナいわくはこうだ。

 運命を糸に例えるなら人は糸車。人が持つ能力や重要性で糸車の大きさが決まり、活動度合いで糸車の回転速度が決まる。糸車は周囲の運命の糸を巻き取り、物事もくるくる回っていく。お茶会で運命の女神から聞いた話らしい。


「大人物の周囲に大物が集まりやすいのも、大きな糸車同士で相互に運命の糸を引き寄せる力が強いからです。よく言う人生の転機も糸車の回転が早い状態です。好機の糸も危機の糸もどんどん巻き取ってる状態なので、波乱万丈な展開になりやすいんです。その考え方でいくと、マコトさんは今、わたしの契約者で、元の世界に戻るかどうかの冒険の真っ最中なわけで」


「突然、観覧車サイズに巨大化した糸車が酔いそうな速度でぐるんぐるん大回転、周囲の運命の糸を無差別に巻き取っている状態ということに」


「はい。困った時に助けてくれる人に会う可能性も、アクシデントに巻き込まれる可能性も、今までの人生とは比べられないほど高くなってると思います」


 はい、思い当たることばかりですね。


 先輩、アーニャさん、シア、ザイルさん、最近だとセンリさんと幸運な出会いがある一方で、命を狙われたり隣街に行くだけで領主交代騒動に巻き込まれる有様だ。


「なんだか不安になってきた……」


「大丈夫です!出会いがめちゃくちゃ起きやすくなってるだけで、マコトさんの運命自体はおかしくなってないはずですから!たぶん!」


「たぶんってつけないでたぶんって」


 若干不安になりつつも、多くの人に助けられて何とかやってこれているのも事実だ。良い人達に出会えたことにも感謝している。ここは前向きに考えることにしよう。


 光の聖典(別名ルミナの日記)をぺらぺらとめくりながら、緊急召喚用と通常召喚用の日記の弾を吟味していると、一つの疑問が生まれる。それはルミナを召喚した時から胸にあった疑問である。


「ルミナはどうしてこの日記を日本語で書いたの?」


 過去にも何度か訊ねたが、ルミナは困ったように微笑むだけだった。

 そして今日もきっとそうだろう。


 僕はこの問いを胸の中にしまうことにした。

 いつか彼女の答えが聞けるだろうか。


すこしでも「おもしろい」「続きが読みたい」と思っていただけましたら

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第三章の内容をどう直すか悩んでいるところなので、こういう方向の話がもっと見たいとかありましたら感想を送っていただけると非常に助かります。

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