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第二十六話 日記:瑠璃の月 二十七日


 日記:瑠璃の月 二十七日


 おじいちゃんは元気でしょうか?

 僕は一人反省会をしているところです。


 見通しが甘かった。

 これがラスタリア騒動での僕の反省点です。


 スミカさんが予想以上に強かった。

 ルミナを怒らせて魔力が補給できなくなった。

 もろもろの条件が重なったというのもありますが、もっと早めの対応をするべきでした。後手後手に回った結果が、魔力切れで塔から墜落です。


 さて今後の課題は、地力の底上げです。


 素の能力が低いせいで、何をするにも魔力強化に頼りきりで、魔力を使いすぎました。にわか仕込みの訓練で強くなれたら苦労はしませんが、筋力が増えるだけでも強化に使う魔力を減らせるはずです。


 貧弱ボーイの自分にさよならする時が来たのです!


『というわけで特訓しようと思う。ルミナとの約束に取りかかるのが少し遅れるけど許してほしい』


『しかたないですねー、マコトさんが傷つくのも見たくないですし、ちゃんと相談してくれたのでオーケーです』


『ありがとう。でも何も考えてないわけじゃないんだ。光の聖典の隠し場所の候補として、一回どこかの迷宮を探索してみようかと思ってる。そのためにも強くなっておきたい』


『先のプランも話してくれましたので、わたしはマコトさんとおしゃべりしながら待つことにします。筋さえ通せば神様はわりと気長なんですよー』


『了解。貢ぎもののお菓子も追加しとくから、お茶でも飲んで待っててね』


『お菓子?いつですか?今ですか?』


『気長はどこへいったの……』


 女神様の了承ももらえました。

 パワーアップ大作戦のはじまりです!


 

「お前さんが強くなりたい?今から?何を?」


 ここは銀の小羽根亭。

 昼食中、先輩冒険者のザイルさんにたずねたところ、開口一番の回答がこれである。出鼻をくじかれた気分だ。


「お前さんは励魔を余裕で貫ける時点で、魔術士として相当に強いぞ。何を伸ばせば良いか……防御魔術を覚えるのはどうだ?立ち回りなら教えられる。防壁の魔術を極めれば体術も不要になる。そして要塞というワシの二つ名を継いでくれないか!?」


「ありがたい申し出ですけど、僕のやり方を防御魔術に使うには、ちょっと問題があるんですよね……」


 偽装の矢(フェイクアロー)の要領で、神の魔力の防壁を自分の魔力でコーティングするのを試したことがある。だが何回も攻撃を受けると表面の魔力がはがれて神の魔力がむき出しになってしまうのだ。


 表面の魔力がはがれるのは、実は偽装の矢も同じ。標的を撃ち抜いた後の矢をよく見ると魔力の輝きが強まってたりする。だが矢は一回使い捨てで消えるため問題にならない。防御魔術のその場で守り続けなければならない性質とかみ合っていないのが問題なのである。


 加えて小さな矢のコーティングと、壁全体のコーティングでは魔力の使用量がケタ外れだ。防壁に少ない自前の魔力を使い切って偽装の矢が撃てないでは笑い話にもならない。


 そのため非常手段としてはアリだけど、普段の戦闘スタイルに組み込むのは難しいという結論になってしまう。


「それよりも体術を鍛えていきたいところです」


「動ける魔術師は貴重でな。簡単なところならワシが教えてもいいが」


「ザイルさんの知り合いの肉体派の人達に教えてもらったりとかできないんですか?」


「あいつらとんでもない脳筋だぞ。紹介しないこともないが、筋肉達磨になるまで鍛えさせられる上、その頃にはお前さん魔術の扱い忘れとるだろうな」


「そこまで?そこまでなんです!?」


 体育会系の闇を見た気分だ。

 とりあえずは基礎訓練を行いながら、新しいやり方を考えていくしかなさそうだ、まぁ、基本的な能力を鍛えるのは無駄にはならない。少しずつ進めていこう。


「おにーさん、おにーさん!お話おわりー?」


 会話の流れを見計らってか、この銀の小羽根亭の一人娘にして看板娘のシアが背中から飛びついてきた。


「うわっとと、急にとびつくと危ないよ」


「えへへ、ごめんなさーい!」


 感情を示すかのようにぴょこぴょこ揺れるポニーテール、くりっとした目を細めて満面の笑顔で謝るので、たしなめようとしていた気持ちがそがれてしまう。こういうところがシアの強さだ。年下というのもあり、ついつい甘くなってしまう。


「鍛えてる冒険者だと反射的に手が出ることもあるから、ちっとは気をつけた方がいいかもしれんな、シアの嬢ちゃん」


「だいじょーぶ!おにーさんにしかしないもん!」


「いや、そういう問題じゃなくてだな……それにマコトの坊主だってこれから強くなる予定だから反射的に手がでるようになるかもしれんぞ」


「え……」


 かわりに注意してくれたザイルさんの言葉に、シアが不意にうつむいた。

 僕の方に向き直ると、しょんぼりした子犬を思わせる弱々しい口調でたずねてきた。


「おにーさん……おにーさんは、強くなっちゃうの?」


 これはどうしたものか、慎重に答える必要がありそうだ。

 極力優しい言葉遣いでシアに聞き返してみる。


「ごめん、聞いてもいい? シアは、僕が強くなると不安なことがあるの?」


「うん、あのね……昔はこの町にも若い人が結構いたの。でもみんな強い冒険者になる!って町を出て帰ってこなくなったから、おにーさんも強くなったらいなくなっちゃうんだと思って……」


 あぁ、過去にもそんなことがあったのか。

 強くなるという言葉を聞いて、ようやく出会った同年代の僕もいなくなるかも、とシアは不安になったらしい。

 いつも明るいと思ってたシアの本質は、かなりの寂しがり屋なのかもしれない。そう考えながら言葉を探す。


「そうだね……強くなるって目的が必要だと思うんだ」


「目、的?」


「シアの言うこの町からいなくなった人達は、強い冒険者になったから出て行ったわけじゃないんだよ。もっと華やかな場所に行きたいという目的があって、そのために強い冒険者になったんだと思う。順番が逆なんだよ」


「おにーさんは、ちがうの?」


「うん。詳しくは言えないけど、守らなきゃいけない約束があって、その約束を果たすために強くなる必要がありそうなんだ。僕の目的はその人達とは違う。だから、強くなったからといって、この町からいなくなったりはしないよ」


「ほんとう?」


「本当」


「ほんとうのほんとう?」


「本当の本当」


「……」


「大丈夫だよ」


「おにーさん、大好き!」


 笑顔をとりもどしたシアが飛びついてきた。うん、この子は笑顔が一番だ。ただ感情表現が直球すぎて困ってしまう。先ほどは背中だったけど、今度は前だから完全に抱きしめる体勢だ。世間的によろしくないのではないでしょうか。

 そう思うのだが、僕も健康な男子高校生なので積極的に拒む気にならない。なすがまま将来が楽しみな柔らかさを堪能していると、強い眼光が僕を射抜いた。


「ご注文は?」


 強面の男性、シルドさんだ。銀の小羽根亭の料理人をしていて、シアの父親である。不可抗力なことは厨房からも見えてたと思うけど、父親に見せるべき光景ではなかった。


 僕は慌ててシアを引きはがした。


 それから三十分後、シルドさんの圧力に負けて注文した『今日のオススメ タイラン牛のステーキ』をザイルさんと二人で食べていると、ザイルさんがしみじみといった様子でつぶやいた。


「それにしてもマコト、お前さんはずいぶんモテるんだな……アーニャの嬢ちゃんといい、シアの嬢ちゃんといい、本命はいったい誰なんだ?」


 何を言い出すんですかこのおじい様!?

 この清廉潔白な僕を……うん、とてもそう見えないな。


「あのですね。僕も男なんでモテたら嬉しいですけど、アーニャさんは僕のことを弟みたいな感じで見てると思いますし、シアも同年代がいなかったせいで、お兄さんみたいに思ってるんじゃないでしょうか……」


 アーニャさんやシアに好意的に思われていているのはありがたい限りだ。ただモテた経験があまりないのでわからないが、二人が僕に向ける気持ちは恋愛感情というレベルには到達していないように思えるのだ。あぁ、自分で言ってて悲しくなってきた。


「……今んとこはそうかもしれんがな。冒険者なんて、いついなくなるかわからん商売だ。くれぐれも泣かさんようにしておけよ」


 その言葉でようやく気付いた。

 僕が方便を使ったことに、ザイルさんは気づいている。


 僕がシアに伝えたのは「強くなったことが理由でこの町から出て行かない」というところまで、ルミナとの約束を果たした先、元の世界に戻る日がシアとの別れになる。


 この世界にいる間はここにいたいという気持ちは本物だからシアには通じたが、歴戦の冒険者にはバレているようだ。


 ザイルさんは詳細までは把握してないだろうが、いつ何が原因でお別れになるかわからないのだから泣かさないようにきちんと話をしておけ、そう言いたいのだろう。


 こういう時、僕は人に恵まれてるなと実感する。


「ありがとうございます。タイミングを見て話をします。僕はどうやら人に恵まれてるみたいで、前の仕事では良い先輩に助けてもらいましたし、ギルドではアーニャさんによくしてもらいました。シアには町を案内してもらいましたし、こうして冒険者の心構えをザイルさんに教えてもらってます。恩のある人達に不義理はしないよう気をつけます」


 そして女神様、契約で運命共同体とはいえお別れになる前に感謝の気持ちを伝えておきたい。そう考えているとザイルさんが呆れたような声をあげる。


「お前さんはなぁ……そういうとこだぞ」


「えっ?」


「ったく、ワシはお嬢ちゃん達を泣かさんよう言っただけだ。こんなジジイ相手にして何が楽しい。お前さんは体を鍛えるんだから肉でも食っとけ、ほれほれ」


 ザイルさんが僕の皿にステーキを放り込みはじめる。

 僕はえ?え?と戸惑いながら肉を頬張ることになった。


すこしでも「おもしろい」「続きが読みたい」と思っていただけましたら

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第三章の内容をどう直すか悩んでいるところなので、こういう方向の話がもっと見たいとかありましたら感想を送っていただけると非常に助かります。

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