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第二十四話 サービスは終幕に


「……というわけで、ラスタリアの領主問題も無事収束し、街の運営も軌道に乗り始めております」


「いや、何でいるんですかスミカさん。山の中ですよ」


 ここはイースレインから離れたところにある山の中、魔術の練習用に使っている場所だ。ラスタリアの騒動からは1ヶ月後、反省をふまえて練習しようとしていたところにスミカさんが現れたのである。山の中でメイドさんとか、オバケかと思ったぐらいだ。


「功労者が何も言わず姿を消してしまうことに比べれば、メイドの山登り程度は自然なことかと思われます」


「その辺はすみません。あんまり目立ちたくないんですよ」


「塔を消し飛ばすような派手なことをされる人が目立ちたくないとは驚きです。お嬢様も大層御立腹ですから、街が落ち着いたら文句を言いに来るかもしれませんね」


「……お忍びでお願いしますよ?」


 ラスタリアの騒動が解決したのを見届けて、僕はイースレインに戻った。あまり目立ちたくないし、自分の悩みのためにレンリアを手伝っていたことが急に恥ずかしく思えてきたからだ。落ち着いたころに話をしようとは思っていたが、先にスミカさんが事後報告に来てしまったわけだ。


 スミカさんの話によれば、領主に就任したレンリアは前領主のコンクスがかけていた重税を引き下げ、隠し金庫に蓄えられていた資産で街の整備などの公共事業を進めたとのこと。そこから生まれた特需をラスタリア内でまかなった結果、ラスタリアの経済は上手くまわりはじめているらしい。


「前の領主のコンクスさんは、どうなりました?」


「一度は領主の座を奪った根回しの手腕を評価して、他領との渉外のような仕事をさせています」


「そんな甘めの対応で無事収まったんですか」


「お嬢様は貴族の負の側面を打ち切りたいとお考えです。『こういう仕事ならお父様より、おじ様の方が上手よ』とお嬢様に言われ、コンクス様にも思うところがあったようです。あの方に必要だったのは領主の座でなく、認めてくれる人間だったのかもしれません」


「こうなることを期待していたスミカさんが、それを言うのはさすがに白々しくないですか?」


 切り込んでみるとスミカさんが反応を見せた。

 わずかに言葉に詰まった後に聞き返してくる。


「……それはどういう意味ですか?」


「おかしいことばかりじゃないですか。スミカさんはずっとレンリアの味方なのに、コンクスさんの手伝いをする必要なんてないでしょう。すると答えは一つ。コンクスさんに領主の座を奪わせて悪政をさせた後に、レンリアを民に受け入れさせるつもりだった、ということになります」


「そこまで意図したものではありません。ラクルス様が亡くなられた時、お嬢様に領主を継ぐ覚悟がありませんでした。仮に継げば女領主に対する抵抗もあったでしょう。そのため私はコンクス様の企てを静観しました。そしていつかお嬢様が立ち上がった時に、立て直せる状態であるようラスタリアを維持してきました。私がしたことはそれだけです」


「直接誘導してないだけで、こうなることは見越してたって感じですね……」


「マコト様は、その考えを誰かに伝えるおつもりですか?」


 スミカさんの問い。

 同時に膨れ上がる静かな気配。

 ここで告発する、とか言ったら始末されそうだ。

 でも僕にそんな気はさらさらない。


「そんなつもりはないです。結果的には上手くいってますし、スミカさんに文句を言えるのは、コンクスさんが領主の間に苦労した街の人ぐらいですよ」


「それでは何故、マコト様は私に?」


「……なんででしょうか?」


「ご自分のことを私に聞かれても困ります」


 はて、なんでだろう。

 自分でもよくわからない。

 スミカさんの話を聞いていたら、口をついて出てきてしまったのである。

 黙ってればよいのに、なぜ僕はこんなことを聞いたのか。


 僕が聞いて何かが変わるわけではない。

 レンリアなら真相に気づくかもしれないが、自分の責任と考えるレンリアがスミカさんを問い質すことはないだろう。スミカさんは今回のいきさつを胸にしまって生きていくだけだ。レンリアにも話せない内容を抱えたまま一人で……、一人? そうか、そういうことか


「……誰にも話せない事情を抱えて、生きていくのはつらいですから、ここに知っている人がいます。スミカさんにそう伝えたかったのかもしれません」


 どうやら知らないうちに自分と重ねていたらしい。神の召喚という誰にも話せない事情。ルミナが念話で話相手になってくれなかったら、という思いは相当根深いようだ。


 スミカさんは仏頂面だったが、僕の言葉を聞き終えて、わずかに口元を緩めた。


「塔の上から突き落とした女に、随分お優しいことですね」


「あ!言われたら思い出した!スミカさんは僕が死んだらどうするつもりだったんですか!痛かったんですよ!アレ!」


「あの場を穏便に収める手段は限られていました。それにマコト様であれば死ぬはずがないと信じておりましたので」


「穏便な墜落とか、ひどい話もあったもんですね……まぁ、いいです。終わったことなので、ゆるせないけどゆるします。僕の信じる神様もきっとそう言うと思います」


「マコト様とマコト様の信じる神様の寛大な心に感謝いたします」


「でもちょっとモヤっとするんですよねー。自分では頑張ってたつもりなんですが、結局はスミカさんの手のひらの上で踊っていた感じで達成感がないというか」


「ふふ、マコト様はそうお考えですか?」


 他にどんな考えがあるというのか、

 決めたぞ。もう一回文句言ってやる。


 口を開こうとしたところで、目の前にスミカさんの顔があった。

 きめ細やかな肌と澄んだ瞳に、見入ってしまう。


 近づき、離れた。


 唇の柔らかな感触、頬に伝わったのはわずかな間。

 鼻先をくすぐる甘い香りが、風とともにはかなく消えた。

 胸元に残った微かな体温だけが、夢ではないことを教えてくれる。


 状況を理解できない僕にスミカさんが告げた。


「達成感のサービスです。マコト様は全てが私の思う通りに運んだとお考えのようですが、それは違います。お嬢様がこれほど早く立ち直ることも、お嬢様の因縁の塔が綺麗さっぱり消えてしまったことも、マコト様だけは、あらゆる面で私の想像を超えておりました」


 今、ほっぺに、え!?え!?

 顔に血がのぼる。頭の中が混乱している。

 考えがまとまらない僕の前でスミカさんはお辞儀。


「失礼いたします」


 次の瞬間にはスミカさんの姿が消えていた。

 この人メイドじゃなくて忍者ではなかろうか。

 くだらない考えとともに思考能力が戻ってきた。


 考えるまでもなく起きたことはひとつだ。


 美人のメイドさんにほっぺにチューされた。

 めちゃくちゃ嬉しい。踊り出したいぐらいだ。

 胸元に押し付けられた大きなおっぱいの感触でご飯が三杯食べられる。


 脚を見せてきた時みたいに、性的にからかって精神的優位をとるような行動だとしても、綺麗なメイドさんならご褒美と言うしかない。


 なのにこの感覚はなんだろう。


「なんだか負けたような気分だ……」



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