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第二十二話 答えはそばにある


 暗い。

 薄暗い場所で僕は目を覚ました。


 上の穴から差し込む光で周囲を確認できる程度の暗さ。

 足元には瓦礫、その上で僕は気を失っていたようだ。


 なぜこんなところにいるのか。

 起き上がろうとしたところで、全身に痛みが走った。


 その痛みで思い出す。

 塔の上から落とされたのだ。


 するとここは、塔の地下室みたいなところか。

 塔から落とされた時に床をぶち抜いたのだろう。

 

 まずは体の状態を確認する。

 体中痛いが、何とか動く状態のようだ。


『マコト様なら大丈夫でしょう。後はお逃げください』


 落とされる寸前、スミカさんにささやかれた言葉が頭の中でよみがえる。


 何が大丈夫なんですか!?いや、大丈夫でしたけどね!普通は死ぬんですよ!?それにちゃんと痛いんですからね!?あのひねくれメイド、無茶振りが過ぎませんかね!?

 

 文句を言おうにも相手はいない。

 コートの隙間から手を入れ、刺された傷を確認する。

 こちらの方は問題なく治っていた。


 体内の魔力が励魔であることによる勇者の特典、魔術の強化、筋力増加、そして最後の回復力強化。それは神の魔力を持つ僕にも適用される。神の魔力が流れている間なら、体の傷はすぐに治る。もちろん傷に応じて神の魔力が消費されるので過信は禁物だが。


 この具合だと、塔から落ちた時に体中の骨が折れたのを治してる途中で神の魔力が尽きたのだろう。全快はしていないが、なんとか動ける程度には治っている。

 

 よし、行動開始だ。

 レンリアを助けにいくにも、体力と魔力を立て直すにも、まずはここから出なくてははじまらない。


 部屋の奥に階段を見つけ、立ち上がろうとしたところで、ふたたび激痛に襲われた。バランスをとる余裕もなく、前のめりに倒れ込んでしまった。


「いってぇ……」


 何とか動けるだけで、身体はガタガタだ。

 骨にもひびが入っているだろう。

 はいずりながら進むしかない。


 手を伸ばして地面をつかむようにして進む。

 伸ばした手に何かが引っ掛かった。

 

 石、白い石だった。

 いや違う、これは、骨のかけらだ──

 

 気づいた瞬間、背筋がぞっとした。

 この塔は大きな墓石だ。

 

 貴族の親族を入れる座敷牢。

 この塔に閉じ込められた人間は二度と出られない。

 塔の中で命を削られ、最後は地下に埋められる。

 生者を死者として扱うためにある場所だった。


 レンリアが幽霊と名乗った理由がわかった。

 こんな場所に住んでいたら自分を幽霊だと思いたくもなる。


 暗い塔のすべてが死の概念で満たされていた。

 住まう人は生きながらにして魂を縛られ、地の底に心惹かれる死者となる。こうして、何年も、何代も、この塔は生者を取り込み続けてきたのだ。


 地面を掘ればきっと糧にしてきた白骨が──


「ふざける、なよ……」


 ここは、あってはいけない場所だ。

 死者が生者を葬るためにある場所だ。

 こんな場所がレンリアの魂を縛り続けている。

 今も死の淵に追いやり続けている。


 許せなかった。考えるだけで腹が立った。

 壊そう。めちゃくちゃに壊そう。

 小石ひとつだって残してやるものか。

 

 前へと進む。痛みは無理やりねじ伏せる。

 目指すは高いところ、もっと僕の声が届く場所。

 石の階段を踏みしめ、一歩一歩前に進む。

 引き裂かれそうな痛みを堪えて、地上にたどり着いた。


 ■言語疎通の加護:オフ

 ■召喚詠唱開始:残03:00


 これから僕がするのはバカなことだろう。

 けれど避けて通れない確信があった。

 だから僕は今の気持ちを詠唱に乗せる。


「本当は、怖かったんだ。ルミナとの約束を守れるか」


 一度口を開けば、言葉は次々と吐き出される。


「周囲の人もいい人ばかりで、お金を稼げるようになって生活も安定してきた。するとこのまま暮らしてもいいんじゃないかって考えが頭をよぎることが増えたんだ。僕は弱い普通の人間だから」


 アーニャさんもシアもザイルさん達もいい人ばかりだ。

 だからこの生活を続けたいと考えてしまった。

 自分一人の力で魔物を狩ることもできないのに、だ。


「約束を守りたい。でも弱い僕は先延ばしにするんじゃないか、って不安だった。そんな時、出会ったのがレンリアだった。レンリアは亡くなったお父さんとの約束を今からでも守ると言った。だからレンリアの約束を守る手助けをすれば、僕も約束を守れる僕でいられる、そんな気がしたんだ。相談もせずに決めてごめん、ルミナ」


 レンリアを助けると決めたのは、約束を守ろうとする彼女の姿に自分を重ねたからだ。彼女が約束を果たせたなら、僕も約束を守れる何かを見つけられる、そんな都合の良いことを考えていた。けど、今は違う。


 僕の中には答えがあった。今、見つけた。

 気持ちを吐き出す中で生まれた確かな答え。

 感情のおもむくままに言葉にのせる。


「でも念話を切られてからわかった。僕が今の生活を続けたいと思った一番の理由は、ルミナ、君との何気ない会話が楽しかったからだ!ずっと続けたいと思うくらい!それがわかったから僕はもう大丈夫だよ。遠回りや寄り道をすることがあっても、最終的には一番大切なルミナとの約束を果たすから!僕がそんな僕であるために力を貸して、ルミナ!」


 語ってるうちにヒートアップして、かなり恥ずかしいことを叫んでないだろうか僕は? 冷静な部分がささやくが、正気に戻ったら最後まで言い切れない。


 ここは突き進め、だ。

 勢いにまかせて僕は光の聖典を読み上げた。

 今の状況にふさわしい怒りを露わにした宣戦布告の日記。


「白の月 二日。決めた。私は決めてしまった。いや彼女が決めたのだ。敵対者となることを、私の敵であることを。彼女が犯した事実をどんな美辞麗句で飾ろうとも時を捲いて戻す術はない。水に落としたインクのように私の心に憤怒の模様を描くだけ。天は私を蔑むだろう。地は私を貶むだろう。千の世界を焼こうとも私は厭わない。これは私が私であるための戦い、聖戦なのだから──」


 

 詠唱開始から二分三十秒、女神ルミナスティアは召喚されたようだ。ようだ、というのは光のもやもやしたルミナの召喚空間にいるので成功したことだけはわかる。だけど僕はルミナを直視していない。簡単に言うとそっぽをむいている。


「んーふーふー?」


 どや顔で回りこんできたよこの女神様。

 こんな顔してても可愛いのだから反則だ。

 今度は逆方向を向く。


「まぁまぁ、今日のマコトさんはテレ屋さんですねー。わたしのことが大好きすぎて、顔が見れなくなっちゃいましたかー?」


 ぐぬぬ。

 調子にのりよって


 だが今回はどう考えても僕のほうが分が悪い。ルミナの日記より恥ずかしいことを言ってしまった。本当はもっと普通に言うつもりが、本心を吐露していく中でテンションがあがって告白みたいなノリになってしまった。マイルドに言ったら召喚失敗してたし、これしかなかったという確信もあるが、顔の火照りだけはどうにもならない。


 あきらめて僕はルミナの方を向く。

 この時の僕の首のぎこちない動きは、油の切れたロボットにも負けない自信がある。向き直ると同時にささやかな抵抗を試みる。

 

「はー!?僕はルミナとのお話が楽しいって言ったんですけどー?ルミナのことが好きとかいってませんしー!」


「またまたー、『一番大切なルミナとの約束』とまで言ってくれたじゃないですかー、わたしってば罪な女神です。そこまで想われると女神様冥利に尽きますねー」


「一番大切がかかるのは約束の方だから!一番大切な約束なんです!そこ誤解しないでよね!」


「わかってますよー、わかってますからー、ふふっ」


 ダメだ。勝ち目がない。

 さっさと召喚を済ませてしまおうか、と思う。

 その時、ルミナが落ち着いたトーンで聞いてきた。


「約束は、守ってくれるんですよね?」


「もちろん守るよ。どうかそのための力を貸してください。ルミナスティア様」


「はいっ!マコトさん!」


 ルミナの返事とともに僕の体は光に包まれた。


 何回か行った召喚術のシークエンス。

 今、僕の体はルミナの力とひとつになっている。

 ここで力の形をイメージすれば召喚術は完成する。

 

 ただ、いつもと感覚が違う。


 ここで使うルミナの力は僕が普段使っている余剰分の力でなく、本体の力だ。範囲を小さく指定しようにも強大な力に引っ張られ、大規模破壊になるのが常だった。


 だが今回は違った。

 ルミナの力が僕の意図を汲んだ方向に流れてくれる。

 コントロールが難しいのは変わらずだが、以前より細かく動かせる。

 これはルミナの信頼が得られたから……?


 胸に熱いものがこみ上げてきた。


 いける。


 今の僕なら、周囲に被害を与えず塔だけを、レンリアを縛る負の遺産だけを消滅させることができる。ルミナの信頼に応えるためにも、力を正しく扱ってみせる。

 

 石の塔、全長二十三メートル、魔力感知で人がいないことは確認済み。

 周囲に影響を与えないよう塔全体をうっすらとルミナの力で包む。


「いけっ!」


 力を内側に絞り込むイメージ。

 右手をぎゅっと握りこむ。


 塔を包んだ光も収縮。何かが溶けるような音と共に、塔の構成要素を焼き尽くした。石材も木材も金材も一瞬で消滅。理屈ではなく概念というレベルで消えたことがわかる。

 塔の名残である灰だけが辺りを舞っていた。


 召喚を終え、僕は地面に座り込む。

 傷は召喚の際に流れ込んだ魔力で治ったが、ルミナの力のコントロールで疲れ果ててしまった。当分動けそうにない。まぁ僕にできることはもう無いから問題ないだろう。

 

「約束は果たしたよ。後は、レンリア次第だからね」


 レンリアが連れていかれたであろう領主の館の方角をみつめて、僕は一人つぶやく。

 そして念話を繋ぐ。ちょっと気になってることがあった。


『ところでさ、ルミナ。今回の日記はえらくご立腹な内容だったけど、何があったの?聞いていい内容?』


『そうですよ聞いてください!この時は同僚の女神がわたしのお菓子を食べちゃったんですよ!ちゃんとわたしの名前も書いてたのに「古くなる前に食べてあげたんじゃない」ですよ!信じられませんよね!ぐぬぬ、今でも怒りがこみ上げてきます!』


 あ、ダメだ。緊張の糸が切れた。

 意識が落ちる最中、僕はレンリアの健闘を祈った。


読んでいただきありがとうございます。

下にある☆の評価や感想、ブックマークなどいただけると

より続きの話が出やすくなるのでどうかよろしくお願いします。


どういう方向を重視していくか悩んでます!

もっと女の子とイチャイチャしろ!とかちゃんと無双しろ!とか

今までのノリで変えなくていい!でも一言でもいいので感想をいただけると助かります!

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