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第二十一話 墜落

 

 夕暮れ近付くラスタリアの街並みを、僕は疾走していた。


 コンクスがレンリアの住む塔に向かっていると告げたのはスミカさんの部下だった。

 何らかの形でレンリアの動きが相手に漏れたということだろう。


 すぐに駆けつけなければいけない。

 魔力は惜しいが、今は時間が優先。

 脚力強化でレンリアのもとに向かう。


 街を抜け、森を抜け、塔が見えてきたがその周囲には人の群れ。

 どうやら敵に包囲されているようだ。

 

 視力強化すると塔のてっぺんにレンリアの姿が見えた。

 よしあそこだ。脚力強化全開で地を蹴りつける。


 神の魔力は、僕の体を塔の頂上へ一瞬で引き上げた。

 驚愕するレンリアの前に、トッと音を立てて着地する。


「ただいま」


「!っ!えっ!アナタなんでこんな高さまで!?どうして!?なんで!?」


「落ち着いて、驚くのは後。僕は魔術師。僕のスーパー魔術ということで今は納得して」


「ちょ、ちょっと待って、ね、すー、はー、すー、はー……ふぅ。わかったわ。今は聞かないであげる」


 僕の無茶な説明にも、深呼吸してすぐに立て直すレンリアはさすがだと思う。


「スミカの他に味方になってくれそうな人をあたっていたのだけれど、おじ様の息がかかっていたみたい。扉とかはふさいだけど、ここに押し入ってくるまであまり時間はないわ。ごめんなさい、見誤った私のミスよ」


「まだまだどうにでもなるよ。登った要領でレンリアを連れて逃げ出してもいい。スミカさんを味方にできれば、あの人こんぐらいの人数制圧しちゃうでしょ」


「……まさか戦ったの?」


「僕を試すのが目的だったから何とかしのげた感じ。真面目に戦ってたら負けてた」

 

「しのげるだけでもたいしたものよ。スミカったら相変わらず容赦ないんだから……スミカの反応はどう?」


「返事を手紙でもらってるよ」


 差し出した手紙を、レンリアが読み始めた。

 たが顔色がよろしくない。なんか変だなコレ。

 マナー違反とは思いながらも横から盗み見ることにした。


『拝啓 お嬢様

 このような手紙を頂き困惑しております。お嬢様は一年以上前に領主の座を諦めた身の上、今更手紙を出して私に何を求めるというのでしょうか。


 現状、問題こそあれラスタリアの街はコンクス様の下で動いている状態です。一度成立した組織を覆すことは、それ以上の負荷を周囲に掛けかねません。お嬢様はご自分の行為が民を苦しめる行為と成りえることをご理解されてますか?


 多くの人生を一変させる行為、その決意がこのように小さな紙片で記せるものとは到底思えません。甘い決意で行われた改革は、民、私、お嬢様自身、あらゆる人間に不幸をもたらします。したがって協力はできかねます。お嬢様の健康をお祈り申し上げます。 敬具 スミカ・ミドコロ』


 あ、あんの、ひねくれメイドめー!

 主人にも容赦なく手厳しいな!

 精神的に弱ってるレンリアに、この文面は劇薬だ。

 それでも立ち直るという、僕にはわからない信頼関係があるのかもしれないけど、もう少し加減してもいいでしょ!


「どうしよう……スミカまで……私は……」


「落ち着いて!もう少し落ち着いてから読み直して!これ、多分断ってない!レンリアの決意をちゃんと示せれば、ノリノリでスキップしながら仲間になってくれるやつ!」


「こんな時でも慰めてくれるなんて優しいのね。でも私、そんなアナタを、巻き込んでしまった……」


 なんで主従プレイに巻き込まれてるんだよ僕は!

 今のレンリアに下手な言葉は届かない。なら伝えるべきことはシンプルに、だ。落ち込むレンリアの肩に手をやり、無理やり顔を上げさせる。


「レンリア、良く聞いて!長い手紙だけど本当に必要なことはひとつだけ。スミカさんは、今でもレンリアのことを『お嬢様』と呼んでいるんだ──」

 

 その時、扉の蝶番が砕ける音がした。

 階段を登る足音が幾重にも響き、抜刀した騎士が五人、その後ろから貴族風の豪奢な衣服をまとった恰幅の良い男が現れた。この人がコンクスだろう。男は一歩前に出ると大仰に悲しむような仕草を見せた。


「残念だよ、レンリア。君と私は、わかり合えていると思っていたが、こんなことになるなんてね」


「おじさま……」


「いつから領主の座を奪うことを考えていた?隣の薄汚い冒険者にそそのかされたのか?それとも一年前、もっと前からそのつもりだったのか?」


 レンリアも一歩前へ、

 静かな口調で説得を試みる。

 

「聞いてください、おじさま。このラスタリアはお父様が残してくれた大事な街です。今のような怠慢な統治を続けるのであれば私にください。おじさまの地位は私が責任をもって保証しますから──」


「違う!」


 突如、コンクスが怒声を上げた。

 目を血走らせ早口に言葉をまくしたてる。

 

「違う違う違う違う違う!ラクルスの街ではない!私の街だ!私のものだ!それなのに口を揃えて、ラクルス!ラクルス!目の前にいるのは私だ!コンクス・バートデルトだ!私はここにいる!ここにいるんだ!私なんだ!」 


 最後まで言い終えて、荒い息を繰り返す。

 そしてコンクスは右手を上げた。

 

「姪であるレンリアであれば理解してくれると思っていたが全ては幻だったようだ。もういい、レンリアを殺せ」


 五人の騎士が一斉にレンリアに襲いかかる。

 仕方ない。強化で蹴り飛ばして逃走するしか──

 

 地を蹴ったところで生じる違和感。

 イメージより体の動きが遅い。レスポンスも悪い。

 魔力が減って、全身のフル稼働に足りてない。

 

 ダメだ。五人を同時に倒す強化にはもっていけない。

 間に合わない。ならせめて可能な限り!


 強化で引き延ばされた一瞬が、痛みと共に断ち切られた。


「マコト!」


 僕ができたのは、二人の騎士を蹴り飛ばしレンリアをかばうところまで、残り三人のうち二人の剣は魔導銀のコートで受けたが、最後の一人の剣がコートの隙間から僕の体を刺し貫いていた。

 

 痛みをこらえて、なんとか残りの三人を殴り飛ばす。


 呼吸するたびに全身を痛みが襲う。刺された胸の奥が熱くて重苦しい。なのに背筋はぞっとするほど寒い。この冷たさが全身を満たした時、僕は死んでしまうのだろう。

 思えば刃物で刺されるのははじめてだった。


「良かった……レンリアを助けるのには間に合った」


「バカ、バカよ、私のためなんかに死のうとしないでよ!」

 

 レンリアは諦めムードのようだが、僕に死ぬ気はない。女神様に救われておいてこの程度で死ねるもんか。

 

 残りの魔力でも、レンリアを抱えてこの塔から飛び降りるぐらいならいけるだろうか……? それとも階段から? 幸いコンクスは騎士五人を倒されたことに面食らっている最中だ。ここで逃げの一手か?


 目算を立てているところで、階段から誰かが上がってくるのが見えた。


「これはどういう事態でしょうか、コンクス様?」


 先程見たばかりのメイド服。スミカさんだった。

 おそらく僕の後から追いかけてきたのだろう。

 コンクスは思わぬ増援に喜びを見せた。


「スミカ。ちょうど良いところに来てくれた。レンリアが冒険者を雇い謀反を目論んだのだ。今すぐこの二人を始末してほしい」


「お言葉ですが、お断りします」


「なぜだ!お前もレンリアの味方についたか!?」


「冒険者はともかく、お嬢様にはしかるべき手続きというものがございます。現状のラスタリアは表面上平和でも、水面下では火種を抱えた火薬庫のようなものです。このような乱暴な手段で処理すればさらなる問題を引き起こすでしょう」


「だが、しかし……」


「私なしでラスタリアを統治されるのであれば、ご自由にして頂いて構いません」


「わ、わかった!レンリアは当面、牢に入れる!だからそこの冒険者を殺せ!」


「承知しました」


「そんな、スミカまで……」


 スミカさんの言動にレンリアがうなだれてしまう。


 マズい。コレはもう逃げるしかない。

 ずっと逃げるチャンスをうかがっていたが、スミカさんが会話中も僕への注意を怠らないので、逃げられなかったのだ。絶望的なこの状況、残りの魔力でどうやって逃げるか。


「スミカ注意しろ、その冒険者なかなかやるぞ!」


「問題ありません」


 言葉と共に投擲された一本のナイフ。

 コートで弾いて、なけなしの魔力を流そうとした瞬間。

 スミカさんはすでに目の前にいた。


「彼を始末するのは非常に簡単なことです」


 トン、と僕の胸元を強く押した。


「あ……!」


 刃でも魔術でもない虚を突いた一撃。

 反応しようとした足には浮遊感。

 強化で対応しようにも体は地を離れていた。


 高さ数十メートルの塔の上から僕の体は落下した。

 全身を貫く衝撃、骨と肉の砕ける鈍い音が響く。


「重傷を負った人間がこの高さから落ちて生きているはずがありません」


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