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第十五話 日記:群青の月 七日


 日記:群青の月 七日


 夏が近づいてきましたが、おじいちゃんは元気でしょうか。この世界にも梅雨があればそろそろかな?とかそんなことを考えます。


 冒険者生活ですが、軌道に乗ってきました。

 買ったナイフやロッドでの戦闘も現在修行中です。

 ディバインアローのおかげで、人前でも戦えるようになり仕事の幅も広がってきました。 

 周囲の冒険者との関係もザイルさんが橋渡しになってくれたおかげで上手くまわっています。ただ大先輩達の飲みに付き合わされるのは少し大変です。


 ルミナとの約束を守るため、そろそろ冒険を始めようと思います。ですが少々不安です。冒険を始める準備だけでこうして2ヶ月以上が経ってしまいました。


 生活が安定し始めると、楽な方へ楽な方へ流れようとする自分を感じます。周囲の人も良い人ばかりで、このまま暮らしていてもいいのでは?なんて考えることもあります。


 強い自分が欲しいです。

 どんな僕なら約束を守れるのか。

 それを知るために僕は旅に出るのかもしれません。




「マコトさん、設定を決めましょう!」


 ギルドの受付、にこにこ笑顔のアーニャさんが言った。


「なんの設定ですか?」


「マコトさんも冒険者として成長してきました。周囲の人からも、あの見どころのあるやつは誰だ?と聞かれる機会も増えました。ですが本当の事情を話すわけにはいかないので、私とマコトさんで、マコトさんの仮の肩書き……設定を決めておこうというお話です!」


 僕も最近、どこ出身か、どこで魔術を学んだか、と聞かれることが増えてきた。今までははぐらかしてきたけど、答えを用意しておいた方が良さそうだ。そして僕とアーニャさんで情報が矛盾しないよう話をあわせておく必要がある。

 さすがはアーニャさんだ。


「よろしくお願いします!」


「では、始めましょう。最初に考えるべきはマコトさんの魔術の才能です。皆さん気にしているところですから、無理のないシナリオを用意する必要があります」

 

「一番、本当のことが言えない部分ですからね……」


「次は出身地です。○○出身ですと答えて、うっかり同郷の人がいるとウソがバレてしまいます」


「土地勘がないのでフォローお願いします……」


 常識がない僕だと、こういう話はダメダメだ。

 そんな僕にもアーニャさんは快く頷いてくれる。


「おまかせください。この二つを同時に解決する設定を考えてきましたから!」


「ありがたいです。どんな内容ですか、きっちり聞いて覚えますので」


「マコトさんは行商人の息子さんです。私の故郷、アルカクルムの精霊の森と言いますが、行商する親に連れられマコトさんはエルフの里を定期的に訪れていました」


 流れの行商人なら地元がなくても大丈夫かな。

 細かいことは子供だったからよく覚えてないで通そう。


「マコトさんはエルフに持ち前の魔力を見出されます。エルフはめったに魔術を教えないのですが、親交があり才能にあふれた人間でしたら例外です。エルフの里に預けられて十年後、マコトさんは魔術師になり旅に出ました。ただし人間の魔術師に教わっておらずエルフの里で暮らしていたことで、少々常識に疎いところがあります──」


「出身地も魔術関連も僕の非常識も、アーニャさんと親しい理由まで、見事に解決していますね! でもエルフの里と取引してた行商人がいたらバレませんか?」


「複数の行商人が気まぐれに訪れていたので、商人さんがいても他の同類がいたのか、人も住んでいたのかと思うだけですね。私と同郷のエルフには気をつける必要がありますが、同郷で里を出た子は少ないので大丈夫ですよ」


「アーニャさん、本当にありがとうございます……」

 

 感謝で頭が上げられない。

 僕一人でこんな設定は用意できなかっただろう。

 アーニャさんに全幅の信頼を寄せるしかない。


「マコトさんが冒険者として訪れたイースレインの町。そこで運命の再会がありました。かつて持ち回りで魔術の講師をしていたアーニャ・フロスミニク。出逢ってすぐは成長したお互いに気づきませんでしたが、気づいてからの会話ははずみ、二人は昔のように『マーくん』『アー姉』と呼び合う仲に──」


「ちょっと!ちょっと待ってください!それって本当に必要な設定ですか!?」


「……当然です。デティールにこそ真実味が宿ります」


「でも、それを設定にしたらこれから呼び方をそうしないと、いけないやつですよね!?」


「丁度良い機会ですから練習しておきましょう。いざという時にスムーズに呼び合えないと設定だとバレてしまいます」


「えーと、今からですか……?」


「勿論です」


 必要!?本当に必要!?

 ラブコメの設定と間違えてません!?

 信頼がゆらぐ音を聞きながら、アーニャさんによびかける。

 姉なんていたことないので、とても恥ずかしい。


「あ、あー、アーねぇ……?」


「きゃー!もう!たぎります!飢えに飢えていた私の中のお姉ちゃんが猛り狂ってます!恥ずかしそうな呼び方も可愛すぎです!あー、もう、マーくんったらぁ!」


 受付の机を乗り越える勢いで抱きすくめられた。息が!息ができない!ふわふわエルフお姉さんのふわふわおっぱいに埋もれて声もだせない。振り払うべきなのに、メチャクチャいい匂いがして僕の頭の中もふわふわしてくる。


 呼吸ができないせいか、おっぱいに脳を支配されているせいか、あるいは両方か、頭がぼんやりしてまともに物事を考えられない。このままでは冒険するどころか、ギルドのお姉さんに倒されて終わってしまう。あぁ、でも仕方ないな……おっぱいよ、あなたはつよかった……


「イチャつくなら外でしてください!」


 バシンと机を叩く音がしてアーニャさんが引きはがされた。

 見かねた他の職員さんが止めてくれたようだ。


「申し訳ございません……」


 我に返ったアーニャさんが頭を下げている。

 心肺停止前に解放された僕は荒い息を繰り返す。


 脱線しきったこの状況だが、アーニャさんに「人が立ち入れない未開地や秘境、ダンジョンなどの情報はありませんか?」と聞いてみることにした。光の聖典を隠すための場所を探すためだ。


 アーニャさんはコホンとせきばらい。

 口調を引き締めてから答える。


「隣のラスタリアの町で調べるのをオススメします。イースレインは良くも悪くも別荘地として落ち着いてしまった場所ですので、情報が若干古いことがあります。詳しい理由は伺いませんが私はマコトさんが無事で戻ってくることをここで祈っております」


 あぁ、アーニャさん。

 その立派なセリフをもう少し前に聞きたかったよ。

 僕は次の目的地を隣町のラスタリアに定める。


 ちなみに呼び名の設定は丁重にお断りした。

 アーニャさんはその後も「お姉ちゃん」と呼ぶことを定期的に要求するのだが、僕は断り続けることになる。


 その様子を見た周囲の人間が「なるほど。近所の美人のお姉ちゃんと恥ずかしがり屋の弟分の関係だ」と納得していたことを知るのは後の話である。

読んでいただきありがとうございます。

下にある☆の評価や感想、ブックマークなどいただけると

より続きの話が出やすくなるのでどうかよろしくお願いします。


どういう方向を重視していくか悩んでます!

もっと女の子とイチャイチャしろ!とかちゃんと無双しろ!とか

今までのノリで変えなくていい!でも一言でもいいので感想をいただけると助かります!


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