第十三話 魔術師は充電式
ドタバタしたが泊まる宿もみつけ、当面の資金と拠点は確保した。
あとは人前で戦う手段を確保して、光の聖典(ルミナの日記)を隠す場所を探すのが今後の流れとなる。
今日は訓練のために山に来ていた。
資金は足りているため狩りはしない。
何よりアーニャさんに怒られる。
山の中で瞑想し、体内の魔力を感じ取る。キラキラ輝くルミナの魔力は150程度残っていた。ディバインアローの実験で結構使ったが、それでも女神の魔力は圧倒的な存在感だった。
その中で見つけづらい僕本来の魔力を探す。
この訓練が今後重要になってくる。
その時、念話が入った。
ルミナの念が普段と違う神妙な雰囲気だ。
『マコトさん。わたしは少し驚いてます』
『どうしたのそんなテンション落として』
『捧げもののお菓子のことです』
『口に合わなかった?』
『違います!おいしかったです!味とは別の話です!』
何を言いたいのかよくわからない。
こっちが黙っているとルミナが続ける。
『わたし達、契約してるとはいえ、女神と人間の間柄とは思えないやり取りしてるじゃないですか』
『うん』
『お互い言いたいこと言いたい放題、ボケに軽口当たり前。わたしもつられちゃって女神の威厳はどこへやらです』
『その節は女神様の寛大さに感謝しております』
『そういうところですよ。だからわたしも普段の軽口のノリでお菓子買ってこーい!って言いました。まさか本当に買ってきてもらえるとは思わなかったので、面食らっちゃったんです……』
失礼な女神様ですね!まるで僕がノリだけで生きてる恩知らずみたいじゃないですか!
半分ぐらい否定できないけど!
でもルミナの前でふざけることが多いのも事実だ。
ここで一回、ちゃんと思いを伝えておこうと思う。
『ルミナ、今から真面目なこと言うよ』
『はい?』
『ルミナが居なかったら僕は死んでいた──』
そう、何回死んでも足りない。
ルミナが来なかっただけで、ルミナが乱暴な解決法をとろうとするだけで、ルミナが契約する気にならないだけで、可能性をあげるときりがない。歯車ひとつズレただけで、僕の命は失われていただろう。
『ルミナは命の恩人だ。感謝してる。この恩はいつか返したい。そう思ってる。だけどそれと同じくらい僕は、ルミナと、こうして話せることに感謝してるんだ』
異世界の地。神の召喚の真実。
マティス先輩、アーニャさん、シア、僕によくしてくれる人達、本当にありがたく思ってる。でもかけがえない人だから話せないことがある。大切だから巻き込みたくない。
心でそう決めていても、全てを話せないのはつらかった。
良い人達だからこそ、自分を偽ることが心に重くのしかかってきた。
『神の召喚を一人で抱えていたら、僕は潰れていたと思う。何でも話せるルミナがいてくれたから、僕はやってこれたんだ。だから、きっかけは冗談だとしても、お礼はできる時にしておきたい。そう思って行動した。いつもありがとう、ルミナ』
念話越しでもルミナの弛緩した雰囲気が伝わってくる。
『ズルいです、マコトさん。言葉を改めろってもう言えないじゃないですか』
『いいえ、ルミナスティア様のためなら改めましょう。そして今までの不敬どうか御容赦下さい。かくなる上はこの腹かっさばいて証といたします』
『白々しいだけですね。いつからサムライになったんですか』
ルミナが嫌と言ったらいつでも改めるつもりだったんだけどね。
今ではこの関係を心地良いと感じている僕がいる。できればもう少し続けさせてほしい。
そんな僕の祈りに答えるようにルミナは答えた。
『実はわたしもマコトさんとのやり取りキライじゃないですよ』
『ありがと』
『神は簡単に生まれないので、同期は普通いません。他はだいたい先輩か後輩、人間からすれば信仰の対象です。なのでこんな風に気安い口調で言い合いをすることはありませんでした。今までなかった経験で、ちょっと楽しいです』
『僕も普通にルミナと出会っていたら崇めてたと思う』
『その点は、わたしの日記に感謝するべきなんでしょうか……複雑です。とっても複雑です!』
『読み上げたのは僕なので、申し訳ない』
『もういいです。ゆるせないけど、ゆるしました。それにマコトさんには感謝していることもあります』
『そんな感謝されることあったっけ?』
『わたしは今まであの日記を恥ずかしいものとばかり考えていました。ですがマコトさんが、けっこう好きと言ってくれた時、救われた思いがしたんです。若気の至りの思い出ですが、それだけではなかった、と』
過去に思いを馳せるようにルミナはつぶやく。
『あの頃のわたしにも嬉しい出来事や胸を張れる出来事がありました。マコトさんのおかげで思い出すことができたんです。もしマコトさんに出会わなければ、わたしは、わたしの生き様を恥ずかしいものにしていたところです』
背筋が震えるほどの優しい声で、感謝の言葉を述べた。
『過去のわたしを救ってくれてありがとうございます、マコトさん。あなたに会えて良かったです』
ルミナはひとつ誤解している。
僕はそこまで大したことはしてない。
恥の塊の僕の日記に比べたらずっといいと言っただけだぞ。
それなのにここまで感謝されたら、うっかり惚れてしまうじゃないか。召喚してなくて良かった。念話の声だけでこの破壊力だ。女神の笑顔もセットだったら完全にガチ恋だ。
あぁ、もう!だめだめ!
約束を果たすまでルミナとは良好な関係を維持せねばならない。
脳みそを桃色に染めてしまうわけにはいかないのだ。
申し訳ないがこの雰囲気はブレイクさせてもらおう。
『どういたしまして。では言質も取れたところでひとつ』
僕は光の聖典を取り出す。
■言語疎通の加護:オフ
■召喚詠唱開始:残48:00
『マコトさん!?まさか!?』
はい、そのまさかです。
「──群青の月 6の日。今日は良い天気。コバルトブルーのキャンバスに絵筆で重ねたような白い雲。青と白のグラデーションはわたしの心にも一筆を添える。胸の奥にまっすぐ引かれた飛行機雲、消える前に進めとわたしを導いてくれる──」
「いやあぁぁぁぁぁ!なんでですか!なんでまた読み上げてるんですか!やめてくださいー!」
前回よりは遅いおよそ5分後、女神ルミナスティアは召喚された。
さすがに慣れてきたのかガン泣きではない。
「だって日記はもう恥ずかしくないっていうから」
「前向きになれただけで、自由に読み上げていいと許可した覚えはありません!うぅ、はずかしい……」
「今回のは、割とキレイなポエムだから気にしなくてもいいと思うよ」
「ポエムなのは肯定してるじゃないですかぁぁ!」
実際キレイめなポエムなせいか、初回よりも召喚に時間がかかった。
ルミナの早く行って止めねばという気持ちで召喚までの時間が決まるなら、逆にはずかし度の高い日記であればあるほど、より早く呼び出せるということになる。
いけない、今の僕、悪い顔してる。
気を取り直して、体内の魔力を感知してみる。
あふれそうな力の流れ。ルミナを召喚したタイミングで神の魔力が流れ込んで満タンになっている。よし成功だ。魔力が使い捨て電池というなら、入れ直せばいいだけだ。
「ありがとう。これで補充完了だよ」
「え?もしかして、わたし。マコトさんの魔力を補充するためだけに呼ばれたんですか?」
「それだけじゃ申し訳ないから、はいどうぞ」
トイボックスから取り出したお菓子の箱を手渡す。
ちなみに中はクッキーだ。事前に準備しておいた。
「似たようなものじゃないですかぁ!」
「いらない?」
「いります!でも納得はいきません!」
「ごめん。でもルミナに直接力を使わせると大規模破壊になるから、当面はこうするしかないんだ」
「……ひどい、ひどすぎます。マコトさんなんてわたしとの契約を守れずに全世界に日記を公開されてしまえばいいんです。いーだ!あ、でもそうしたらわたしの日記も研究されてしまうことに……いやぁぁ!」
え、今なんと言いました?ルミナさん。
「僕の日記が公開ってどういうこと?」
「あれ気付いてませんでしたか?ステータスを開いてみてください」
■名前:マコト・サクラ
■職業:駆け出し冒険者
■体力:50/60
■魔力:1000/1000
■加護:言語疎通の加護
■契約:女神ルミナスティアとの召喚契約
特に変わりはないみたいだ。
ルミナの力が補充されたので、魔力は満タンの状態。
体力が少し増えているけど、これは何回も山歩きしてた分が鍛えられたのだろうと思う。
「契約のところに触れてみてください」
■契約:女神ルミナスティアとの召喚契約
■契約内容:女神ルミナスティアの光の聖典を誰にも見られない場所に隠すまでの間、女神ルミナスティアはマコト・サクラに力を貸し与える
■契約不履行時:マコト・サクラの書いた日記が全神界に公開される
契約不履行時?どうしてこんな記載が?
思い当たる節といえばひとつだけ。
ルミナと契約した時の言葉だ。
『僕は自分の恥ずかしい日記に誓うよ。女神様の日記を誰にも見られない場所へと連れていく。どうかそのための力を貸してください。女神ルミナスティア様』
「あれが契約内容として採用されちゃったってこと!?ウソでしょ!?」
「あの言葉は本心じゃなかったということですか……?」
ルミナがジト目でにらんでくる。
いや、言葉はまぎれもない本心だけど!
ルミナの日記を誰にも見られないよう守るつもりだけど!
「『誓う』と『失敗時にペナルティとして見せ物にしていい』は意味がちがうと思うんですけどおおおおお!」
ルミナの召喚空間内で、僕の叫び声が響き渡る。
意せずして僕の決意はより固いものとなったのである。
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どういう方向を重視していくか悩んでます!
もっと女の子とイチャイチャしろ!とかちゃんと無双しろ!とか
今までのノリで変えなくていい!でも一言でもいいので感想をいただけると助かります!