第十二話 小休止とエビフライ
「考え無しのうちの娘が、ご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」
「いえいえ、とんでもないです。町の案内は大変ありがたかったです」
ここは銀の小羽根亭。
シアに引きずられて、看板にぶつかること3回。壁にぶつかること2回。無傷で宿までたどり着けたのは、トイボックスから取り出して装備した魔導銀のコートのおかげである。
「おにーさん、ごめんなさい。わたし、嬉しくなるとすぐに前が見えなくなっちゃうんだ。本当にごめんなさい!」
いや、こうなることも覚悟の上でああ言った。
シアは悪くないし、防具も試せた。前向きに行こう。
「次はお手柔らかにお願いね」
「うん!気をつけてひっぱるね!」
できればひっぱるのをやめてほしいんだけどね!
「お客様の広い心には感謝しておりますが、親としては娘を甘やかすことになるのでは、と心配しております……」
ため息をついているのはシアの母親のシュトリーさん。
シアを成長させて落ち着きを持たせたような女性だ。どんな相談でもしっかり答えてくれそうな頼りがいのある雰囲気で宿屋の主人にはぴったりだと思う。
「お詫びにもなりませんが、本日の夕食はサービスとさせてください。何泊のご予定でしょうか?」
「それじゃ、まず一週間お願いします。それから先はまた相談させてください」
「かしこまりました。銀貨35枚になります。お食事は食堂で別途注文していただく形ですのでご承知おきください。おまたせしました。マコト様の部屋は305になります」
支払いを済ませて部屋の鍵を受け取る。
この世界のお金は銀貨一枚で日本円で1000円ぐらいの感覚だ。
旅した時の感覚だけど、そうズレてはいないと思う。
この世界特有の高いものもあるから注意はいるけど。
部屋に入って内装を確認する。
一人部屋なのにゆったりとした作り、ベッドも上等で今日は背中が痛くならずに眠れそうだ。窓にも鍵がついているし、外の景色も悪くない。これで素泊まり一泊銀貨5枚(5000円感覚)なら安いと思う。
服を着替えて荷物を置いたところで、扉がノックされた。
「おにーさん、おにーさん。おなかすいてる? もしおなかがすいてるなら、今の時間は食堂も空いてるよ!」
「じゃあ、ご飯もこれから食べるって伝えておいて、ちょっとしたら部屋を出るから」
身支度を終えて部屋を出ると、扉の脇にシアが立っていた。
「別に待ってなくても良かったのに」
「銀の小羽根亭はお客様へのサービス第一!」
「それじゃ、食堂までの案内お願い」
「はい、はーい!」
階段を下りて、宿屋の建物を抜けて、渡り廊下を歩いた先に食堂があった。食事のみの客も見込んで、直接食堂に向かう入口もある。中に入るとシアが厨房の奥へ呼びかけた。
「おとーさん!こちらのおにーさんは夕ご飯一食サービスだよ。おいしいご飯を作ってあげてね!」
「また何か迷惑をかけたのかシア」
「ひどい!わたしが毎日誰かに迷惑かけてるみたいに!」
「かけていないのか」
「そ、それは……」
シアがこちらを横目で見る。
仕方ない。フォローするか。
「お嬢さんは僕の買い物の手伝いをしてくれました。どのお店の主人とも仲がいいので、新参者の僕でもスムーズに買い物ができました」
「そうそう!おにーさん、もっと言って!」
「私が聞いているのは迷惑をかけたかどうかだ」
「あー、……あはは」
「大体分かった。大したことはできないが、娘が迷惑かけた分は力を尽くそう。そこのテーブルで待っていてくれ」
この迫力のある男性は、シアの父親のシルドさん。
食堂の調理を受け持っているとのことだ。
「おとーさん。ここで食べていくから私の分もおねがい!」
「彼と一緒に作らせて、自分の食事も豪華にしてもらおうという魂胆だろう?」
「この店の看板娘としては、味を理解しないとね!食べてないと今日のオススメもできないし……ダメ?」
「……明日からは普通のまかないだからな」
「やったー!」
迫力はあるが、なんだかんだで娘には甘いお父さんなようである。シアは僕の向かいに座って食事を待つ。
「ごはんだ。ごはんー!」
「すごくうれしそうだね」
「だっておとーさんのごはんおいしいから!おにーさんのおかげで気合い入れるみたいだし、ありがとね!」
シアのフォローのためにシルドさんは腕を振るうのだが、美味しいごはんが食べられるとなるとそっちで頭がいっぱいになるのがとてもシアらしいと思う。
「こっちこそありがとう。この町のことよく知らないから、シアが案内してくれてとても助かったよ」
「んー、それね。わたし、ついはしゃいじゃったんだ」
「どういうこと?」
「この町って、もともとが王様の別荘地で、住んでる人も隠居したお金持ちや、引退した冒険者が多くて、同年代のそれもウチの宿に泊まってくれる人なんて少ないの。だからおにーさんに思わず声をかけちゃったし、ウチに泊まってくれるって言ってくれた時は本当にうれしくなっちゃった」
あぁ、なるほど。アーニャさんも同じことを言ってたな。
この町には同年代が少なかったから、シアは僕に会えてうれしかったのか。
でも、そんなの気にすることじゃないぞ。
「同年代に会えてうれしいのは僕だって同じ。その辺りはお互い様だから気にしなくていいよ。はい、握手」
「えへへ、おにーさん、わたしのこと甘やかしすぎだよ」
シアが僕の手を握ってブンブン振る。
「ウチに泊まってくれなくても町の案内はするから、また言ってね!」
「その時はよろしく頼んだ」
「うん!よろしく頼まれたー、えへへ」
「お待たせした」
シルドさんが料理を持ってきたようだ。
手慣れた様子でテーブルに皿を並べていく。
自家製のパンに、肉料理、揚げ物、サラダにスープ。
豪勢な料理だ。安めの宿の料理だと、よくわからない雑なシチュー一品で終わったりするから、食事に力を入れている宿だとよく分かった。
「いただきます」
早速、食べることにした。
向かいのシアは既に肉にかぶりついている。
パンを口に入れると、ふんわりとした食感に心が癒される。保存食のカチカチのパンとは違う美味しさを重視したパンだ。肉料理は何の肉かはわからないが、ぷりぷりとした食感の肉だ。ソースも肉汁を使っているのか非常にコクがあった。
揚げ物は外はカラッと中はジューシー、だが日本で食べる鶏の唐揚げとは違い、染み出してくる汁は上品なスープのような風味。元の世界で例えられる料理があっても、異世界の素材で全然違う味になっていて一品一品が驚きだった。
気付けば、付け合わせのサラダも食べ終えて、スープをすすって締めの態勢。シアはそんな僕を嬉しそうな表情で見つめていた。
「どう、おにーさん? おとーさんの料理おいしかった?」
「すごくおいしかったよ。今までの食事がなんだったのかと思うくらい満足感がある」
「冒険者さんはどうしても保存食が多めになるからね……でも今なら銀の小羽根亭に泊まることでこの食事が、銀貨2枚のところ銀貨1枚でご提供できるのです!」
「よっ、宣伝上手の看板娘!」
「いやぁ、それほどでも、えへへ」
せっかくなのでメニューについて聞いてみることにした。
「この揚げ物、おいしかったけど、どんな名前の料理なの?」
「ええと、それは……おとーさん!」
「それはアブトラ五年樹の新芽だ。アブトラという樹木は周囲の栄養を集めて自らを育てるが、その新芽はえぐみのない上品な味になる。それに衣をつけてあげたものだ。油の風味と熱で旨味がさらに活性化する」
へー、小籠包的にスープを包んでるのかと思ったら、そういう食材があるのか。異世界の食材おそるべし。最初は異世界でチートできるかなと思ったけど、そんな簡単な話じゃないな。この世界は独自の文化で発展してる。異世界知識を使うにしても使いどころを吟味しないと危ういかもしれない。
少なくてもエビに衣をつけて揚げてエビフライ!程度の発想じゃ大儲けはできない。そんな安易な発想じゃ──
そこまで考えたところでアイデアが閃いた。
金儲けはできないけど、使い道はあるかも?
それは僕が人前で戦うためのアイデアだった。
読んでいただきありがとうございます。
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どういう方向を重視していくか悩んでます!
もっと女の子とイチャイチャしろ!とかちゃんと無双しろ!とか
今までのノリで変えなくていい!でも一言でもいいので感想をいただけると助かります!