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第十一話 その引く手を拒めずに


「これでようやく町を見て回れるな」


 スピネルタートルの素材が高く売れたので、イースレインの町を見て歩くことにした。

 セキュリティが不安な安宿とはこれでおさらば。アーニャさんオススメの宿は、銀の小羽根亭という名前らしいので、後で探しておこうと思う。


 武器や防具も整えておきたい。

 あとはルミナへの甘味か。

 町の探索ついでに探してみよう。


「おにーさん、おにーさん」


「え?」


 不意に声をかけられた。

 目をやると、女の子が僕の方を見ていた。


 くりっとした瞳が印象的な子で、高い位置に結んだ栗色のポニーテールがぴょこっと揺れる。背は低くて見上げるようにしてこちらを見ている。歳はふたつみっつ下といった雰囲気だ。


「おにーさん、イースレインははじめて?」


「そうだよ。こないだ来たばかりだね」


「おにーさんが、この町に詳しくなくて困っていたら、わたしでよければ案内しよっか?」


 申し出自体はありがたい話だ。

 ただ騙されるようなことがあると困ってしまう。

 こちらの顔色を伺って、女の子が慌てて手を振った。


「あ、ごめん!この言い方だと、どこかに連れ込んでお金を巻き上げようとする悪い人だね、わたし、あまり考えずに喋っておとーさんにもよく怒られるんだ。えへへ」


「どういうつもりで言ってくれたの?」


「わたしの家は、この町で宿屋をしてるんだ。町を案内しておにーさんがイースレインのことを気に入ってくれたら、ウチの宿に何日も泊まってくれると思って」


「この町は何日も滞在したくなるいい町なんだね」


「うん!わたしが保証するよ!」


 満面の笑顔で女の子は答えた。

 感情が素直に顔に出るので、見ていて気持ちのいい子だ。

 今も「ねっ、ねっ、いいでしょ」と語る視線を全力で僕に向けてくる。この瞳を見ていると邪気が抜かれてしまう。


「……武器や防具の良いお店を知ってる?」


「知ってる!案内するからついてきて、こっち、こっち!」


 了承するなり、女の子は僕の手をとって駆け出した。

 僕は転びそうになりながら手が引かれる方へと向かう。

 まるで子犬みたいな女の子だな、と思った。



「こんにちわ、おじさん!お客さん連れてきたよ!」


「今日も相変わらず元気だな。シアの嬢ちゃん」


「えへへ、ありがと!」

 

 扉を蹴り開ける勢いで突入したのだが、店主も慣れたもののようだ。平然と続けられる会話から日常の一端がうかがえる。


「それで、そこの坊主が嬢ちゃんが連れてきた客か」


「うん!最近この町に来た冒険者さんで、名前は、名前は……」


 うん、自己紹介する間もなく引きずられたからね。


「ごめん、おにーさん。うれしくて自己紹介を忘れてたんだ。わたしの名前はシア・シルファ。家は宿屋をやってるんだ」


「僕の名前はマコト・サクラ。最近きたばかりの冒険者だから、この町のことを教えてくれるとうれしい」


「まかせて!なんでも教えるから!」


「さて話もまとまったところで、坊主は何が欲しいんだ?」


 武具屋の店主が聞いてくる。


 僕がここに来たのは、身を守るための武器と防具を買うためだ。ディバインアローの輝きは神々しすぎるせいで、実は人前で使えない。


 エレメンタルアローと比べても一目瞭然だから、魔術師には晶魔より上の魔力を使っているとバレるし、知らない人の前でも妙にキラキラした魔術の使い手のウワサが立ってしまう。


 なのでディバインアローは魔物にしか使わない。ピンチの場合は人間相手にも使うが、極力使わずに他の攻撃手段を確保していく方針にした。


「僕は魔術師です。基本の攻撃には魔術を使いますが、それ以外の護身用の装備が欲しいです。かさばらない物でオススメはありますか?」


「え、おにーさん、魔術師だったんだ!?」


「シアの嬢ちゃんも、知らないで連れてきたのかよ……まぁ、いい。ちょっと倉庫から探してくる」

 

 小一時間ほど店主と相談して買うものを決めた。


 武器は魔導銀のロッドとナイフのセットだ。

 ロッドもナイフもシンプルな作りで、魔術師向けの魔術の威力を上げる機能がない。代わりに魔力を流せば、硬度と切れ味を高めることができる白兵戦向けの装備である。

 魔術師にはあまり好まれない装備らしいが、魔術の威力に困っている僕としては丁度いい。安く買えたのもありがたいところだ。


 防具は魔術師用のコート。

 武器と同じ魔導銀が編み込まれており、比率により性能が変わるそうだ。比率が上がると重くなるそうなので、動きやすさを重視して10%にした。通常のコートと変わらない重さだが、魔力を流せば攻撃をかなり防げるらしい。

 

 同じ性能の品が何着かあったが、シアが「絶対にこっちの方がかっこいい!」と推したチェスターコート風のものを選んだ。いや選ばされた。町にも着て行けそうなデザインなので、最終的にはこれにして良かったと思う。


 スピネルタートルの素材を売ったお金は、装備の代金で大半がなくなった。必要経費だし、明日も素材を売るので気にしないことにする。受け取った装備をルミナのトイボックスに入れると、店主が驚いた様子を見せた。


「アイテムボックスの使い手か。今後もひいきにしてくれよ」


「いうほど容量はないですが、またよろしくお願いします」


 方便で答えていると、シアが次の行き先を訪ねてきた。


「おにーさん、次はどこにいきたいの?」


「甘いものが美味しいお店を知らない?」


 そう答えると、シアの瞳がらんらんと輝いた。

 後ろで武具屋の店主があちゃーとつぶやく。


 次の瞬間、僕はシアに引きずられ町中を走ることになった。

 

「おにーさん、おにーさん、ここがオススメだよ!」


「ハァ、ハァ……ちょっと待って、おちついて」


 行き先を告げてからほぼノンストップで引き回された。

 壁や人にぶつかりそうになること数知れず、無事なことが信じられないくらいだ。


 先ほどは子犬みたいな女の子と思ったが、今では大型犬に見えてくる。

 いったいこの小さな女の子のどこにそんな馬力があるというのか。

 恐るべきはスイーツを愛する女子力、力こそパワーである。


 ここはイースレインの高台にある公園、オススメの甘味は公園の屋台で売っているようだ。屋台のおばさんがシアの姿を見て声をかけてきた。


「あらあら、シアちゃんまた食べにきてくれたのかい?」


「ううん、わたしは今週のお小遣いがあぶなくて……今日食べにきたのは、このおにーさんだよ!」


「あらあら、甘いもの好きのおにーさんかい。珍しいけど大歓迎だよ。むしろ亭主にも聞かせてやりたいくらいさ。酒は他人に迷惑をかけるけど、甘いものは迷惑をかけないからね」


 この流れで女神様への捧げものとは言いづらい。

 だが味見せずに捧げるのも不敬と思い、自分でもひとつ頼んでみることにした。


「それじゃひとつお願いします」


「はーい、ガレイユひとつね!」


 注文を受けておばさんは鉄板上で生地を焼きはじめた。次々と焼き上がる薄い生地に蜜のようなものを塗り、皿の上に重ねる。ほどよい厚さになったところで、生地で果物を包んで出来上がりのようだ。


「おまたせ、大銅貨五枚だよ」


「はい、五枚ちょうどです」


 支払いを済ませて食べてみる。


 基本はクレープのようなお菓子だった。

 ただし皮が薄い分を何重にも重ねることで歯ごたえを出しているのが特徴的だ。皮の間に挟まれた蜜は、ムースのような食感でしっとりふんわり喉を通る。そして内部の果物まで食べ進めると、しゃりっとした果実と甘酸っぱい果汁が口内をひきしめ、最終的には心地良い甘さだけを残してくれる。元の世界にも似たお菓子はあるが、素材の違いで全然違う味になっているのが面白かった。


「おいしかったです。甘いだけでなく中の実で口直しもできるのが良かったです」


「嬉しいこと言ってくれるねぇ!おかわりが欲しければ、まだ焼くよ?」


「それじゃ……2つお願いします」


「はい、ガレイユ2つね」


 銀貨を渡すと、おばさんはお菓子を焼き始めた。

 手慣れた様子ですぐに次のガレイユが焼きあがる。

 両手で受け取り、片方のお菓子をトイボックスの中へ、

 もう片方のお菓子をシアに手渡す。


「え、これって」


「ここまで案内してくれたお礼」


「ありがとう!本当にうれしい!大好き!」


 瞳をキラキラ輝かせて、シアはガレイユを頬張る。

 ここまで喜んでくれるとおごりがいがあるってものだ。

 次はどこに行こうか、と考えていると、シアがうつむいた。

 お菓子がなくなっている。食べ終えてお菓子がなくなったことにしょんぼりしているのだろうか。


「足りなかった?もうひとつ食べたい?」


「……ううん、そういうことじゃなくて」


 シアは胸の前で指をもじもじと動かした。


「お礼ってことは、わたしの案内も終わり、ってことだよね……おにーさんがウチの宿に泊まりにきてくれないんだな、って思ったらすこしさみしいかな」

 

 あぁ、そういうことか。僕にはシアの家の宿屋に泊まれない事情があって、代わりにお菓子をおごることで案内の分のお礼を済ませた。そうシアは考えたみたいだ。


 シアがいい顔するからおごりたくなっただけで、含みを持たせるつもりはなかった。悪いことをした。


 お詫びというわけじゃないけど、今日はアーニャさんオススメの銀の小羽根亭に泊まって、明日はシアの家の宿屋に泊まることにしよう。明後日以降は良かった方の宿にする。


「シアの家の宿屋って、なんて名前?」


「銀の小羽根亭だけど……」

 

 よし決まりだ。

 今日は銀の小羽根亭に泊まって、明日は銀の小羽根亭に泊まることにしよう。

 あれ?


「ははは」

 

 考える必要がなくなってしまった。

 すごい偶然だ。きっとご縁があったのだろう。

 もっと早くに聞いておけば良かったなと思うけど、

 今はシアを笑顔にする方が先決。


「シアにもう一カ所だけ案内して欲しい場所があるんだ」


「いいよ。どこ?」


「銀の小羽根亭」


 引きずり回される速度は、この日最速を記録した。

 今日買った防具はとても役に立つことがわかった、とだけ言っておこう。


読んでいただきありがとうございます。

下にある☆の評価や感想、ブックマークなどいただけると

より続きの話が出やすくなるのでどうかよろしくお願いします。


どういう方向を重視していくか悩んでます!

もっと女の子とイチャイチャしろ!とかちゃんと無双しろ!とか

今までのノリで変えなくていい!でも一言でもいいので感想をいただけると非常に助かります!

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