第十話 勝利と敗北
翌日、冒険者ギルドへの登録は完了した。
アーニャさんが僕の専属になるとのことだった。
これにより職員であれば誰でも見れた僕の情報を、アーニャさんが一手に管理するようになる。僕の魔力が人目に触れないようアーニャさんが考えてくれた手立てだ。
「お仕事の時は、私のところに来てくださいね」
専属というからには仕事も増えるだろうに、こころよく引き受けてくれたアーニャさんにはいくら感謝してもしたりない。
アーニャさんの同僚が帰り際「冒険者が活躍すると専属職員の評価も上がるよ。将来のために頑張ってね!」と教えてくれたので、このご恩は働いて返すことにしよう。それにしても結婚前提扱いとか脳内で飛躍させ過ぎだと思います同僚さん。
僕は今、イースレインから少し離れた山に来ている。
実験とお金稼ぎが目的だ。
だけどその前に情報整理。
念話でルミナに話しかける。
『ルミナさん!集金ですよ!アナタ今月も滞納するつもり!』
『ゴメンなさいちょっとだけ待ってください!来月、いえ来週には!……って、こんなことばかりしてるとわたし居留守しちゃいますからね!?』
『それでもノってくれる君が好き。この前の続きが聞きたい』
『はいはい。わたしの力がマコトさんに流れ込んだ件ですね』
『そうそうそれそれ。契約者と魔力的につながるから、日記を読み上げて召喚したタイミングでルミナから力が流れ込んだ。でも普通はありえない現象だ。ってところまで聞いた』
『はい。普通は起こりません。普通の人間の体には魔力が詰まってますから、力が流れ込みません』
『僕の体にスキマがあるって聞こえる。スカスカボディ?』
『スカスカなのは頭……と言いたいところですがその通りです。ここからは魔力の概念の話ですが、魔力という単語は、二通りの意味で使われてます。一つ目は力そのもの、二つ目はその力を生み出す能力のこと、わたし達は魔素と呼んでますね。魔素はマコトさんの世界の電池みたいなものです。体には電池ケースがあって電池が詰まっています。魔術を使うと電池の中の魔力がなくなりますが、休めば回復します。充電式ですね』
『僕は魔力7のボタン電池ってこと?』
『自虐は流行りませんよ? 勇者召喚での魔力譲渡は、魔素、つまりは電池をマコトさんから引っこ抜いて別の人に移す行為です。電池ケース、わたし達は器と呼んでますが……電池ケースはマコトさんの中に残されたままです』
『つまり普通の人は魔力の残量がゼロでも、電池ケースには切れた電池が入った状態だからスペースがない。でも僕は電池ケースの中がからっぽの状態だから、そのスペースにルミナの力が流れこんでしまったということ?』
『正解です!普通は電池ケースと電池がセットなので、魔力の測定法は電池の有無だけを見てます。マコトさんの電池ケースが1000近くの容量なことは無視されます。なので召喚直後はわずかに残った電池の7、力が流れ込んだ今は電池ケースいっぱいの990と測定された、とそういうことです。レアケースにレアケースが重なった形なので、わたしもびっくりですよ』
『するとこれからは使い放題? チートきちゃいます?』
『残念ですけど、マコトさんに流れ込んだのは電池ではなく、その中の力だけです。魔素はないので回復できない、使えば消えちゃう使い捨て電池ですね』
『まぁ、そんな甘くないよね』
『結構、余裕ですね』
『それならそれで十分使い道があるよ。使い捨て電池なら入れ直せばいいだけだし』
『何かイヤな予感がします……』
その時、ズルリズルリと音がした。
森の奥から這い出してきたのは赤褐色の巨大な亀だった。
ギルドで調べてきた情報どおり。
スピネルタートルだ。
硬い甲羅はあらゆる剣を弾き、鋭いくちばしはあらゆる盾を貫く危険度Bランクの魔物。全身の赤褐色は冒険者の血の色だと語られている。危険度がAでないのはただ一点、動きが遅いというのが理由だ。逃げられるのでB査定とされている。
今回のターゲットである。
なりたて冒険者では戦いようのない相手。
だが僕には勝算があった。
「この遅さなら間に合う。『我が身に宿る奔流よ。掌中に集いて矢束を成せ』」
マジックアローの呪文。だが今の僕は神の力を宿している。
手元に生まれるのは神々しい光を纏った魔法の矢。
放つと同時、音もなく、抵抗もなく、拍子抜けするほどあっさりと、スピネルタートルの甲羅に風穴が空いた。
一拍遅れて穴からこぼれる赤黒い血液。
甲羅の中の急所を貫かれスピネルタートルは絶命した。
よし、狙い通りだ。
勇者の魔力は励魔だから、マジックアローがハイマギアローになると聞いた。それと同じように今の僕の体内には神の魔力、神魔がある。つまりそのまま撃ち出すだけでエレメンタルアローより数段上の威力になる。いきなりの実践だったが上手くいったようだ。
これで使える武器を手にいれた。
硬い甲羅を問題なく貫けるなら動きの遅いスピネルタートルはただのカモだ。ここで資金も稼いでおこう。アーニャさんへのお土産にもちょうどいい。
神魔の矢の性能実験も兼ねて、ひたすらスピネルタートルを狩り続けた。今までが大破壊か死の二択を選ばされる極端な日々だったから、魔術で普通に戦えることにテンションがあがっていたのかもしれない。気が付いた時には日が暮れていた。
翌日、僕は冒険者ギルドの相談室で正座していた。
アーニャさんに戦果を報告しようとしたら、別室につれていかれてこうなった。アーニャさんの怒気の籠もった声が響く。
「マコトさんはどうして正座させられているか、わかっていますか?」
「スピネルタートルを30匹狩ったからです……」
「スピネルタートルは1匹でも、歴戦の冒険者が甲羅の隙間を狙ってようやく勝てる相手です。新人が狩ったらおかしい相手ですよね?」
「はい。おかしい相手です……」
「それを1日で30匹も狩ったら常識外の能力を持っている宣伝になりませんか?しかも30匹を運ぶアイテムボックス持ちということまで確定します」
ちなみにアイテムボックスは僕のでなく、ルミナのだ。
女神の玩具箱という能力で、アイテムボックスという収納魔術より、はるか上の容量と保存能力を持つ。
スピネルタートルを狩りすぎて、どう死骸を運ぶか悩んでいた時に契約者権限で共有できるようにしてくれた。使い方は念話と似た感覚でイメージすれば出入り口が開くから、物を入れるだけ。
『可愛い女神様への捧げものを入れても構いませんよ?あー、特に意味はありませんが、今日は頑張ったので甘いものがたべたいなー』
と、言い残していくあたりはちゃっかりしてる。
まあ結局はルミナに頼りっきりだ。
甘味を見つくろって入れておこうと思う。
「そもそもスピネルタートルの甲羅を貫くには晶魔の精霊級魔術が必要です。魔術で倒したと伝えるだけで大騒ぎです。そこをどうか自覚してください」
「ごめんなさい。反省しています。次からはアーニャさんに相談して狩りにいきます」
僕にこの世界の常識がないのは自覚していたが、まさか即バレをやらかすレベルだったとは、アーニャさんがいなかったら今頃は研究材料だ。頭をいくら下げても下げたりない。
これからはアーニャさんの言うことをすべて受け入れよう。
「スピネルタートルは獰猛なため、まれに同士討ちで死んでいるケースがあります。死体をもう少し汚い状態にして、死骸を拾ったということにしましょう」
「はい。拾ったことにします……」
「それでも目立つ可能性があるので、毎日少しずつギルドに持ち込む形がいいですね。スピネルタートルの素材は硬くて人気があるので、十分な資金になるはずです」
「はい。毎日少しずつ持ち込みます……」
「ちゃんと私に毎日会いにきてくださいね。待ってます」
「はい。毎日会いにいきます……えっ?」
顔を上げた先には、アーニャさんの笑顔。
「私の査定を上げるために、マコトさんが頑張ろうとしてると他の職員から聞きました。うれしくないわけがありません。ですが今回はやりすぎです。私にとって一番うれしいことは、マコトさんがこの町から逃げ出さずにいられることだと理解してくださいね?」
ズルいよアーニャさん。
そんなこと言われたらもう逆らえない。
「はい……」
■今回のマコトの戦績
スピネルタートル×30 勝利
アーニャ・フロスミニク 全面的敗北
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どういう方向を重視していくか悩んでます!
もっと女の子とイチャイチャしろ!とかちゃんと無双しろ!とか
今までのノリで変えなくていい!でも一言でもいいので感想をいただけると助かります!