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第2話

キュインキュインキュイン

ジャラジャラジャラ


電子音とパチンコ玉の弾ける音がやかましい。


「きたきたきた…」


俺は久しぶりの当たりに思わず叫んだ。


「よしよし、おっしゃ!きたー!」


「うるせえぞコラ!」


「あ、すいません」


隣の席の大柄な男が唇をプルプル震わせながら俺を睨みつけていた。


「さっきからてめえ、ダークエルフが調子のんじゃねえぞこの野郎!」


胸ぐらを掴まれ強引に身体を揺さぶられる。


「殺すぞ!目障りなんだよ、エルフの分際で」


見ず知らずの男の唾が顔にかかる。


「すいませんすいませんすいません…」


恐怖で目が開けられない。


「…い…おい…おい、兄ちゃん、起きろ」


遠くから聞いたことのある声。

気がつくと、怒り狂った男は消え、弱々しいジジイが立っていた。


「ひどくうなされとったな、まあ、がんばれよ」


ヨイーダはそう言い残し部屋を出た。

コンクリートの天井に反射する日差しがまぶしい。

まだ2日目か。


ジリリリリリリ


乾いたベルの音が部屋に響き渡る。


『作業開始です。皆さん今日もがんばりましょう』


血の匂いがするエプロンに袖を通し、俺は目をこすりながら作業場に向かった。


「168番、早速遅刻か、ええ度胸しとるのお」


ジェリスが仁王立ちで待ち構えていた。


「1秒でも遅刻した奴は昼飯なしや。ルールやからな。ほらさっさと持ち場につけ!肉は待ってくれへんぞ」


周りの作業者から冷たい視線を感じながら、俺は持ち場についた。

赤く湿った床には『ブロック加工168』という文字。刃渡り40cmはある出刃包丁を両手で持ち、さっそく目の前の分厚い肉塊に刃を通した。


ザシュッ


ベルトコンベアから流れてくる肉塊を、ひたすら包丁で細かくカットしていくだけの仕事。ぶつ切りにされた肉は回収され、また次の工程へとベルトコンベアで運ばれる。

疲労と生肉の臭いでどうにかなりそうだ。


「…おい、153」


バケツに溜まった肉を回収に来た153番に小声で呼びかけた。


「お前もエルフか?」


その男は頭頂部にツノが生えていた。エルフの特徴だ。男は一瞬動きを止めたが、俺の方を見ることもなく、そのままバケツを持って立ち去った。


「…なんだよ」


周りを見渡すとみんな機械のように黙々と肉を切っていた。

1日の作業が終わるとそれぞれ部屋に戻り、配給の飯を食べ、眠るだけの生活。まるで囚人だ。

夜22:00になると外側から鍵がかけられ、朝まで出られなくなる。


「はあ」


長い1日が終わり、俺は薄汚いベッドに腰掛け、ため息をつきながら夕食のハンバーグをかじっていた。

その時だった。


ガシャン!


扉の向こうで大きな金属音が鳴った。


「うわ!な、なんだ!」


手に持っていたハンバーグの皿を床に落としてしまった。


バタン!


扉が勢いよく開け放たれた。


「食事中悪いわね」


扉を蹴破ったのは、ツノを生やした黒い肌の女だった。片手には出刃包丁を握っている。

鋭い眼光。高く上がった右脚。

ミニスカートからたくましい太ももと白いパンティが丸見えになっていた。

あまりに突然の出来事に、俺はベッドの上で硬直していた。


「ふん、あんたダークエルフね」


「だ、誰ですか」


「早く逃げるわよ」


「逃げるって、へ?」


「いいから早く!あと3日であんたもこのハンバーグみたいにされるわよ!」


女は床に転がった俺のハンバーグをブーツで踏みつぶした。


「…ん、あ、えーと」


俺は混乱を隠せなかった。


「私はアニス。あんたと同じダークエルフよ」


「お、俺はカーパー」


思わず本名を名乗ってしまった。


「カーパー…あんたまさかタムリエル家の」


「………」


アニスは驚いた顔で俺の顔をジロジロ見回した。


「ふふ…面白くなってきたわね、行くよ!」


アニスはそう言うと、黒髪をなびかせて勢いよく部屋から飛び出した。


「ちょ、待ってよ!」


俺は寝巻きのまま、訳もわからず後を追った。

部屋を出ると、すっかり明かりの消えた長い廊下が続く。


「よお、兄ちゃん」


後ろを振り返ると、暗い廊下の先に小汚いジジイが立っている。ヨイーダだ。


「夜22:00以降は部屋から出ちゃいけないって言ったろう」



ポコ田チン男(1632字)

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