第1話
打ち出された銀玉はついに幸運を呼び寄せる事なく飲み込まれていった。派手な音や飾りで射幸心を煽るだけ煽って当たることはないのがパチンコだ。
頭で分かっているはずなのにお札を入れる手が止まらない。
「当たればいいんだ。当たれば…」
俺は封筒に残された僅かな札を握りしめて機械の中へ投入していく。俺の願いも虚しく30分程で資金は尽きた。封筒の中身は1円も残っていない。
パチンコに三ヶ月分の家賃は全て吸い取られてしまった。
こんなはずじゃなかった。第二期127年、タムリエル3世が起こした戦争でエルフは人間に白旗をあげた。
欲望の象徴として神・アカシェトスに生み出された「人間」は自らの繁栄のためには手段を選ばなかった。世界は、人間に支配された。
200年後、高尚なエルフの血をひくこの俺が、人間が作った遊戯台如きに人生を狂わされてしまっている。
「兄ちゃん、金欲しくないか」
声のするほうは顔をやると小汚いホームレスのような見た目をした男が笑顔を貼りつけてこちらを見ている。こんな奴に比べれば自分の方がマシなのかと思いながら無視してこの先の人生について考えを巡らせた。
「兄ちゃん金なくて困ってるならええ仕事紹介したるで。お前、『ダークエルフ』やろ。肌の色と種族で差別されない仕事だ」
俺の反応などお構いなしといった様子でジジイは話を続けている。
怪しい話でしかないが後のない俺は金に釣られてつい返事をしてしまう。
「そういう欲望に正直に生きる若人がワシは好きなんや!ちょっとこっち来てくれるか」
色々と怪しい部分があるがどうせ落ちるところまで落ちているのだ。
俺はそうやって自分を納得させて後ろについていく。店の外に出ると小汚いジジイには似つかわしくない黒塗りの高級車が止まっていた。
「兄ちゃん悪いけど目隠しして車に乗ってくれるか?あと魔法使われたら怖いからな。これ、付けさせてもらうで。」
小汚いジジイは俺の人差し指に指輪をつけた。
これは人間がエルフを服従させる為に作った魔力を封じ込める指輪だ。
俺は大人しく指示に従い車に乗り込んだ。それからしばらく車の中で揺られ続けついに目的地に到着した。どれだけ走ったのかわからないが辺りはすっかり日が落ちて暗くなっていた。
山の中にポツンと建物がたっているがそれ以外には何もない。
「ここに毎日肉が届くからそれを捌くんが兄ちゃんの仕事や。衣食住完備で月80万。やるやろ?」
信じられないほどの好条件に俺は二つ返事で受け入れた。
条件は3つ
①この仕事に関して一切口外しない。
②夜22:00以降は部屋から出てはいけない。
③仕事内容に関する疑問はもたない。
怪しいにおいはするが年間600万貰えるならなんの不満もない。嫌になれば辞めれば良いだけの話だ。ここで金を貯めて第二の人生をスタートさせよう。
「よっしゃ!早速明日から働いてもらうで
今日は疲れたやろうからゆっくり休んでや」
俺は自分が暮らすことになる部屋へと入る。
あまり綺麗とは言えないが十分な広さもあるしそこそこ快適そうだ。
ここから始まる逆転劇に希望を膨らませながら俺は眠りについた。
爆弾でも落ちてきたのかと思うほどけたたましいベルの音と共に目が覚めた。
自室のドアが開き身長190cmはある大男が入ってきた。
「ヨイーダさんから話は聞いとるで。
俺はここの工場長のジェリスいうもんや。
ダークエルフやからって特別扱いはせんぞ。ここにおる奴は全員おなじ『レベル』の奴ばっかりや。早速今日から働いてもらうから工場行こか」
ヨイーダというのは昨日の小汚いジジイのことらしい。寝ぼけ眼を擦りながらジェリスという大男についていく。
血の臭いがする。そういえば肉を捌くとかなんとか言っていたか。
作業着に着替えて作業場に着くと簡単に流れだけ説明される。
俺は前の工程から流れてきた肉の塊を慣れない手つきで捌き次の工程へと受け渡す。
豚肉でも牛肉でもない見た目をしているが一体なんの肉なのだろうか。ジェリスに聞こうかと思ったが雇用条件の一つを思い出す。
【仕事内容に関する疑問はもたない】
触らぬアカシェトスに祟りなしだ。
金さえもらえればなんでもいい。
1日の終わりに差し掛かる頃には随分と仕事にも慣れてきた。
朝と同じようにベルの音が響き渡りスピーカーからアナウンスが流れる。
『今日の作業は終了です。各自部屋に戻ってください。お疲れ様でした。』
どうやらベルの音が始業と終業の合図らしい。
部屋に戻ると夕食が用意されている。しかも机の上に置いてあるのは大好物のハンバーグだ。
これまでに食べたことがない深みのある肉の味がとても美味しかった。
空腹が満たされた俺はベッドに大の字で寝転がり気づけば夢の世界へと旅立っていた。
ピコ次郎(1911文字)