13 なにもしてないのに壊滅
「やっ、野郎ども、帰るぞっ! うっ、うぎゃああああーーーーーーーーーーっ!?!?」
「ま、待ってください、お頭っ!」
びんぼう村を襲った盗賊団、『ウバイーヌ』たちは、リーダーであるゴッソリがやられたことにより撤退した。
「ああっ、お待ちください、ゴッソリ様! 我々も連れて行ってくださいぃぃぃ~!」
ハテサイの村に残っていて、俺たちに盗賊をけしかけた村長たちも一緒になって逃げていく。
俺たち『びんぼう村』の者たちは穢れ山の上から、アリンコの群れのように遠ざかっていく盗賊たちを見送っていた。
皆「す、すげぇ……」と驚嘆している。
「盗賊団のゴッソリといえば、ここいらじゃ一番の力自慢で、誰も勝てなかったのに……」
「あんな熊みたいな大男を、あっさりやっつけちまうだなんて……」
「ぐ……グリード様はとんでもねぇ技能の使い手だ!」
「そうじゃそうじゃ! さすがはグリード様、我らの村長様だ!」
村の者たちは俺に向かって一斉にひれ伏す。
なぜか俺の隣にいたダイコンまでいっしょになってひれ伏そうとしていたので、俺は止めた。
だって、あのデカブツに勝てたのはコイツのおかげなんだからな。
「ありがとうな、ダイコン。まさか貧乏神にこんなすごい技能があるとは思わなかった」
「い、いえ……。わたしは大根を育てる技能しか使ったことがありませんので……。
すべては、旦那様のお力によるものです。
まさか旦那様が、『清貧か邪貧』をあんなに上手にお使いになられるだなんて……」
『清貧か邪貧』。
触れた者を貧乏にする技能だ。
ゴッソリがこの技に掛かった直後に草に躓いて馬糞に突っ込んで蜂に刺されたのは偶然じゃない。
すべてはこの技能によって引き起こされたものなんだ。
村人たちは俺とダイコンの力にすっかり怖れおののいていた。
俺はいい機会だと思い、彼らに言い含める。
「大丈夫だ、安心しろ。
俺に逆らわないかぎり、この力はお前たちには使わない。
俺は自分のものは大切にするタイプだからな。
でもさっきの盗賊みたいに、俺のものに手を出すようなヤツは徹底的にやってやる。
だからこの村を乗っ取ろうなんて考えを起こすんじゃないぞ」
すると村人たちは「はっ、はいいいーーーーーーーーーーっ!!」と震えあがった。
「わ、ワシらはそんな大それたことはしねぇだ!
それよりもグリード様! 『ウバイーヌ』たちはきっとまた仕返しにくるだ!」
「そうじゃ、大切はことを忘れておった!
グリード様、ゴッソリにはガッツリという兄がおって、そいつが『ウバイーヌ』のボスなんですじゃ!
弟がやられたと知ったら、今度はガッツリが手下を大勢引きつれてやって来ますじゃ!」
「『ウバイーヌ』が本気になって攻めてきたら、ひとたまりもねぇ!」
「あああっ!? この村はおしまいじゃぁ!」
新たな脅威に取り乱す村人たちを、俺はなだめる。
「落ち着け、たぶん大丈夫だ。もうヤツらが襲ってくることはないだろう。
少なくとも、当分の間はな」
「ええっ!? 返り討ちにあって黙っている盗賊団なんて、聞いたこともねぇだ!」
「大丈夫だって、アイツがあのデカブツについていってるからな」
「アイツ……?」
村人たちは俺がなにを言っているのかわからなかったが、ダイコンは理解しているようだった。
「なあダイコン、アイツは戻ってこれるのか?」
「はい。あの子は終わったら戻ってきます」
村のヤツらは俺たちのやりとりに不思議そうな顔をしていたが、無理もないか。
だって俺とダイコン以外の者に、アイツは見えていないんだからな……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その頃、『ウバイーヌ』のアジトに戻ったゴッソリたちは、さっそくボスであるガッツリに泣きついていた。
蜂に刺されまくってボコボコに腫れ上がった顔の弟を見て、兄は仰天する。
「どうしたんだ、弟よ! まさか、ハテサイのヤツらにやられたのか!?」
「い、いや、違うんだ、兄貴ぃ! びんぼう村の村長に……!」
「びんぼう村!? なんだその奪い甲斐のなさそうな村は!?」
「そ、それはワシから説明いたします、ゴッソリ様!」
「ん!? なんで、ハテサイの村長がここにいるんだ!?」
「我々ハテサイの村も、びんぼう村の村長に酷い目に遭わされているのです!」
それからハテサイの村の村長は、あることないことをガッツリに吹き込んだ。
「ぬぅぅ……! 女子供も容赦なく殺すとは……!
びんぼう村の村長というのは、そこまで鬼畜外道なのか……!」
「はい! びんぼう村がある以上、ワシらはあの土地では生きていけんのです!
どうか、ワシらをこの『ウバイーヌ』に置いてくださせぇ!
なんとしても、びんぼう村に殺された女子供の仇を討ってやりてぇんです!」
「よぉし、わかった! 特別に、ここにいるハテサイの者たちを、『ウバイーヌ』に入れてやろう!
おい野郎ども、戦の準備だ! 明日は朝から、びんぼう村を攻めるぞっ!」
「おおーっ!」
『ウバイーヌ』の手下たちは、蛮声とともに拳を振り上げる。
すっかり彼らの手下となった、ハテサイの村の者たちも。
そしてもちろん、貧乏神のはじめての被害者となったゴッソリも。
彼の肩には、手のひらサイズの人形のような存在がちょこんと立っている。
誰の目からも見えていないそれは、ちっちゃいダイコンであった。
長い前髪で目を隠しているミニダイコンも、いっしょになって「えいえいおー」とやっている。
そう、これこそが『清貧か邪貧』を受けた者に訪れる変化。
そして、グリードが言っていた『アイツ』の正体である。
そこから先は、まるでコントをを見ているかのようであった。
「ゴッソリ様! 薬をお持ちしました! これを塗れば、明日には顔も元通りになりますぜ!」
「おお、気が利くな! これで明日には、元の色男に……うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!?」
「ああっ!? すみません、間違えました! これ、トウガラシを水に浸けたものでした!」
「ぐっ……! ぐぐぐっ! バカ野郎っ! し、下の井戸で顔を洗ってくる!」
「ゴッソリ様、そっちはいけません! その階段は、いま修理中でして……! ああっ!?」
ごろごろがっしゃーんっ!!
「いでぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!? くっ、くっそぉ……! なんだってこんなに、ツイてねぇんだぁーっ!?」
「ゴッソリ様が下の馬小屋に落ちたぞ!」
「なんだって!? いまその馬小屋には、馴らす前の暴れ馬がたくさんいて、危険なんだぞ!」
ひひぃぃーーーーんっ!!
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「ああっ!? ゴッソリ様が馬たちにボコボコに蹴られまくってる!?」
「やばい、馬たちが興奮して暴れだしたぞ!」
「ああっ!? 暴れた衝撃で、かがり火が干し草に……!?」
……ゴォォォォォォォーーーーーーーーーーーーッ!!
「かっ……火事だっ!? 火事だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?」
「けっ、消せっ! 消せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「なんだ!? なんでいくら水をかけても消えないんだ!? それどころか、どんどん火の手が強く……!?」
「ああっ!? これ水壺じゃなくて油壺じゃないか!? なんでこんな所に油壺なんてあるんだよ!?」
「戦の準備をしろってお頭に言われましたので、倉庫から焼き討ち用の道具を持ってきてたんですよ!」
「なにっ!? ってことは、火の手のすぐ隣に積まれている、あの木箱は……!?」
「も……もしかして、火薬っ……!?」
「やっ、やばいっ! にっ、逃げろっ! 逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
……どっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!
『ウバイーヌ』のアジトは爆発コントのセットのように、あっさり爆散してしまった。




