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帰れない。絶対間に合わない!!

誰も助けてくれないよお。元カレも今カレもだめだめじゃん。

1 朝だよ。おはよー!


7時半に保育園の扉の鍵が開く。

保育士のナミ先生にムスメちゃんを預けて走る。

職場まで走って30分、8時までに職場入りしてタイムカードを押す。

だから、朝は毎日大忙し。


8時。

サクラルームの園長の鈴木さんが、細い指で電話を取る。

「はい、わかりました。あらあら、それは大変。お大事になさってね。

ヤヨイさん、6年のアイちゃん、今日は気分がすぐれなくてお休みですって」

「はーい。了解です」

サクラルームには学校に行かない子どもたちが来る。

6年女子が今日は5人が来るはずだけど、アイちゃんがお休みなら4人ね。

どの子もいろいろあって難しい。

元高校教師のカウンセラー、山崎先生はみんなに勉強を教えるのが仕事。


そろそろ時間。

スタッフがテーブルにつく。

ボランティアの茶々さんが日誌を開いた。

茶々さんは茶髪のショートカット、小さな欠伸をかみ殺した。

カナちゃんがばたんとドアを開けて、大慌てで入ってきた。

彼女が動くとロングヘアーがさらさらと揺れる。

茶々さん、カナちゃんは、高校生でボランティアとしてここにいる。

ふたりもただいま不登校中で、ボランティアをすることで、出席扱いになるシステムなんだって。


鈴木園長が穏やかな笑顔でみんなを見渡す。

「みなさん、おはようございます。

今日もドラマチックな一日になりそうですよ。

はい、ヤヨイさん、説明してね。」


わたしは日誌を見ながら、今日来る予定の子どもたちの話をする。

「アイちゃんは今日はお休みです。

ユリちゃんは、みんな知っていると思うけど先月リストカット。

今日はくるかどうかわからないけど、もし来たら普通に接してね。

ケイちゃんは、昨日学校の先生と面談したんだって。

サクラルームに行けるなら、教室にも入れるのではないかといわれて,ちょっぴり疲れた気持ちみたい。その話にはふれなくていいけど、先の予定の楽しい企画を知らせないほうがいいかもしれないね。

アンリちゃんは、運動不足。ぽちゃってきたから、散歩に誘ってあげよう。

みなさん、よろしくお願いします」


こんな感じで一日が始まる。

子どもたちが入室して、みんなで遊んでランチして、ちょっとだけ勉強して。

迎えの保護者さんに様子を伝えて一日が終わる。

それぞれの記録をつけて、夕方会議が行われるんだけど……。


園長室でユリちゃんの相談が行われている。

園長先生とカウンセラーの山崎先生と市役所の担当者を交えてユリちゃんが話をしている。


5時。

5時10分。

早く会議を始めないと、6時に間に合わない。

ユリちゃんのすすり泣きが聞こえる。

あちゃーと思う。

夕方の会議なんて、ちゃっちゃとやって保育園の迎えに行きたい。

ああ、まだ終わらないの?


保育園は4時まで、延長保育は6時まで。

会議よ、終われ。

利用者が深刻な問題抱えているから、遅れるのは仕方ないという空気がある。

高校生のボランティアでさえ、仕方ないねと

宿題のレポートなんかをやり始めた。


再び、時計を見る。

茶々さんが気づいている。

「ヤヨイさん。会議始めたいんでしょ」

時計を見る。

「うん。始めたい」

時計を1分ごとに見る。

会議は終わらない。


そのころ保育園では

ムスメちゃん、お友だちのママが迎えに来るのを見ていた。

小さなハートが破裂しそうになっていた。

「ママー、はやくー。おむかえきてー」

4時から6時という延長保育の時間帯は、非常勤の先生が保育をする。

勤務時間という大人の事情からくるシステムだ。

ムスメちゃん、ほら遊びなさい。そんなとこで迎えのママ見てないで。

子どもらしく遊ばんか、こら。

ムスメちゃんは、ただただママを待っている。


ヤヨイはスマホを取り出した。

元カレのジュンに迎えを頼もうかな。

心は揺れる。

「ジュン、ムスメちゃんのお迎えいける?6時までなんだけど」

「おお。ヤヨイ。いけるよ」

「ほんと?お願い」

「でも、その代わり泊ってもいいだろ?

ね、いいだろ?ほら、仲直りして、いろいろといい感じでセクシーな夜を」

「ごめん、ジュン

もういい。

迎え行くから。じゃ」


仕方ない。今カレのポンくんに頼もう。

「ポン、ムスメちゃんのお迎え6時まで。行ける?」

「いいよ。ムスネちゃんとふたりきりで待ってる。お風呂に一緒に入るから、遅くなってもいいよ」

「え、いいよ、そこまでしなくても」

「僕に任せて。かわいいムスメちゃん。大事にするよ」

「やっぱりいい。迎えいける。じゃ」


どいつもこいつも、頼めない。

5時20分

会議が終わった。みんなでユリちゃんを玄関で送る。


「園長先生、あたし……」

ユリちゃんが泣きだした。まだ、続きそう。

本当に力になりたいし、じっくり話を聞きたいけど、今じゃない。

5時30分過ぎた。

完全に遅刻決定。


夕方のスタッフ会議がやっと始まった。


(つづく)


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