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第4話 / ラストランは、果てしなく遠くに待っている。

はじめに。

「小説家になろう」読者の皆様へ。


前話(3)の投稿後から、2年あまり、本作品の著者の精神的・身体的な健康上の理由によって、アマチュア小説家としての執筆活動を続けることが困難になってしまいました。

その為、本作品が未完成のまま放置された状態でした。作者としましても、誠に不本意との思いを抱きながら、止むを得ずに療養に専念しざるを得ませんでした。


本作品の感想を寄せられた読者の方もおられて、続きを期待していたこと存じますが、その期待に応えられず本作品の著者といたしましても、読者の皆様へは遺憾の意を表す以外になす術がありません。


現在は、精神面・体調面も良好に向かっており、今後、最終話まで書き続けたい意向です。

今回は、前話からの続きの第4話のみのアップとなりますが、引き続き第6話での完結を目指して、現在、出来上がっている作品の見直しや加筆・訂正の作業に取り組んでおります。


読者の皆さまへは、途中で放り出したような見苦しい作品をお見せしてしまったことを、深くお詫び申し上げます。

引き続き、本作品の完結までお付き合いただけたなら、著者としましてもこの上ない幸いです。


まだたまだ未熟な作品ですが、どうぞ第4話をお読みください。そして、これからもよろしくお願いいたします。

       ( 4 )


「ドフトエスキーの「罪と罰」って、小説なんだけど読んだことある?」

「いや、タイトルだけは知ってるけど、そっち系の小難しい古典的な小説は苦手でね」

「主人公のラスコーリ二コフがね、流刑8年って刑罰に処せられるんだけど、人を殺害して8年って、今では考えられないくらい寛大すぎる刑罰よね」

「小説の話だろ。流刑って、そんな島流しみたいな刑罰は、現代ではナンセンスだね」

「でも、ソニーヤって娘がね、そのラスコーリニコフを追って、流刑地のシベリアまで行くの。2人の愛が本物に変わる瞬間みたいなのって、何となく素敵じゃない」

「たっく、そんなセンチで、犯罪者が正義もの扱いに変わる訳でもないし。犯罪者は犯罪者でしかないさ。女性ってさ、愛って言葉に騙されやすいから」

「何よ、その偏見は?私の言ってるのは、犯罪者だからって人間性まで否定するのは、どこか可笑しいってことよ」

 やれやれと、言わんばかりの顔で、若い男がアイスコーヒを勢いよく啜った。裁判所地下1階にある飲食スペースで、和都はノートにメモした内容を整理しながら向かいの席に座っている男女の話声に、耳を傾けていた。

 若い女性の方は、話の解らない人ねっと、どこか釈然としない顔をしながらヨーグルトを口に頬張っている。

 日中は来庁者で混雑する裁判所内も、夕方5時前近くになると客足が途絶えたみたいに閑散としてくる。普段は気にも留めない若いカップルの会話が、どことなく気になった和都は、小説「罪と罰」と、ノートに走り書きしてから席を離れて、裁判所からの帰路へと向かった。


「この間、裁判所にいましたよね」

 えっ?と、突然に背後から掛けられた声の方へ和都は振り返った。確か、園浦そのうらとか言う名前の女性事務員だ。毎月末締めの弁当代の請求書を発送し忘れていたとかで、何度かオヤジさんに頼まれて、預かった請求書を事務所に、直接渡しに行ったことがあった。

「えーっと、はい。お弁当は食堂に置いてありますから」

 質問の答えになっていないとでも言いたげに、クスッと笑っている園浦に、軽く頭を下げた和都だった。

「我爪さんでしたよね。私もあの日裁判所にいたんですよ」

「そうでしたか。でも俺、裁判の傍聴してただけだし」

 裁判所で他人から見られたと言われると、何か悪いことをしたから裁判所に来ているのだろうとの、どうも印象が悪いとの、何処か疚しい気持ちが和都にはあった。

「私はねっ、絵を描きに行ってたんです」

 絵?和都は園浦の言っていることが、直ちに理解できなかった。何か揶揄われているのだろうかと、怪訝な表情を向けて返す言葉を考えあぐねた。

「可笑しいですか?」

 和都は、首を左右に軽く振って、園浦の小首を傾げている疑問詞を否定した。

「でも、ビックリしますよね、普通に。絵を描いているとね、表情でこの人は今、どんな気持ちでいるのかって、凡その察しが付くものなんですよ」

 どう答えて良いのか頭を捻る様にして、和都はマスクを顎にずらして息を軽く吐いた。

「もちろん、そんなのって自分の主観で、当てずっぽうの考えなんですけどね」

 一方的に話す園浦に、たじろぎながらも素っ気なく和都は言った。

「俺、仕事中ですから」

 もっと気の利いた言葉はないものかと、我ながら歯痒い思いが脳裏に過った。

「レベッタ裁判って、知ってますか」

 いや、と言う風に首を振って答えるしか術が見つからない和都は、その場から逃げ出すように「じゃあ、これで」と言って、立ち去るしかなかった。

 ごくろう様でしたという園浦の声が、背後から聞こえたものの、振り返らずに停めてある車に飛び乗った。

 嫌な気持ちがした訳ではない。突拍子もないことを話掛けられたことで、少し困惑しただけ。それに、話の内容が飛躍し過ぎている。

 絵を描いている。レベッタ裁判。そう言えば、大きなスケッチブックを抱えていたりする、一般来庁者を何度も見ている。だから、それがどうしたと言うんだろうか。皆目と園浦の話したことに、その真意が計り知れなかった。

 再び、裁判所で園浦こと、名前を夏帆なつほと呼ぶことになる人物と出合うまでは。


 傍聴した刑事裁判の記録をノートに纏め直しながら、裁判所地下にあるコンビニで買ったウーロン茶とカップ麺で小腹を補おうと、飲食スペースで和都は1人で、テーブルに座っていた。

 仕事を終えて、時間があれば裁判所に来ると言う毎日の生活に、何の変化も感じることもない日々だっのに、その日は変化が起き始めていた。

「こんにちは、来てると思って、探しちゃった」

 化粧気のない顔に、丸みのある大きめなフレームの眼鏡の中には透けるような眼差しが、緩やかなカーブを描く輪郭にマッチして、すっぽりと収まっていた。

「どうしたんすっか?し、仕事は?」

 カップラーメンを食べている手を止めて、和都は素っ頓狂な声で訊いていた。

「私、週4のバイトだし、本業はこっちなんですよ」

 手に握った大きなトートバックを、これ見えているとでも言わんばかりに、和都の顔の前に夏帆は、ブラブラさせて見せた。

 本業とは売れない画家なのか、それともイラストレーターなのか、絵を描いているって言うだけでは、何も和都には解らない。それに、どちらかと言うと売れない少女漫画家なのかとも見える、それほどラフな装いだった。

 美味しそうに食べているところに、突然ゴメンねと言いながらも夏帆は、和都の前の空いている椅子に座った。

「私も時々、無性に食べたくなるのが、カップ麺かな」

「何しに、来てるんですか?」

「絵を描きに」

 夏帆の単刀直入の答えに、会話として成立しているのかいないのか、迷いながらも和都は次の言葉を探した。

 夏帆は、トートバックの中から徐に、スケッチブックを取り出して、和都に開いて見せた。そこには、ニュース番組などで見た事のある、背景や人物像が描かれていた。裁判官の表情や被告人の表情、検事や弁護士と言った職業上の表情が、しっかりとデッサンされている。

 和都には、絵を評価できる程の絵心はない。しかし、その絵の中には、被告人の人生が映されている。起訴されて裁判を受ける何て、誰れがその時が来るまで思うだろうか。多くの人たちには、関係ない出来事が裁判所では行われている証が、その絵の中に納められている様に、和都には思えた。

「こう言う絵を専門的に描いてる人を、法廷画家って言うの」

「流石に上手いなって、感心するな。俺なんて絵のセンスが全くとないし」

「法廷の中には、様々な人間模様が渦巻いているんです。だから、色んな表情が描けるメリットがあるしし。でも、描くのは傍聴者の自由って言っても、被告人やその関係者のプライバシィーの配慮もあるからデッサン用に描くだけで、人間本来の活き活きとした表情を描くのは、ちょっと違うなって、そこが気が引けちゃうんです」

 なる程なっと、和都は頷いた。報道機関でもない一般市民が裁判を傍聴して、SNSなどに今日の被告人の表情をお伝えしますって言っても、それだけでは情報が今一と解らない。しかし、テレビや新聞記事のニュースなどでは、実名で被告人を報道している。彼らにも、プライバシィーってものが、確かにあるはずだ。

「でも、これが仕事なんでしょう。だったら……」

 和都の話を中断させるように、夏帆は大きく右手を左右に振った。

「これは、まあ、言ってみたら趣味と実益を兼ねるって言うか、仕事は売れない在宅ライターってとこですよ。主に会議録音の反訳の仕事ですけどね。でも、画家になりたいって夢も捨てれなくって」

 どうして、こうもざっくりと自分の夢を他人に語れるのか、夏帆の思考が和都には掴めないし、益々と、言っていることのギャップを感じた。絵を描くことと趣味と実益を兼ねることが、どうも和都の頭では今一と、リンクしないのだった。

 もし、理解ができたとしても、眼の前の夏帆に共感して絵というものに、凄く興味が湧くとも思えない。それ程に、そんなアーティススティックな環境とは縁もゆかりもなく、今まで生きて来ている。

「時々なんですが、被告人って言う人たちは、私たちの代弁者なのかなって、私個人では思ってしまうんです」

「代弁者って、何故そう思うんですか」

「裁判官が、被告人に言っている戒めみたいな教えは、本当は私たちこそ、その教訓を肝に銘じないといけないと思うんです」

 和都は、黙ったまま夏帆の話す唇の動きに、何処か悲哀な物悲しさを感じていた。

「おかしいですよね、こんな考え方って」

少し唇を歪めるようにして、苦笑を交えるように夏帆は言った。カップの底に僅かに残っている麺がすっかりと伸び切っているのを、箸でゆっくりと和都は掻き回した。

「あ、美味しく食べてたところを、お邪魔しちゃいましたね」

 夏帆は、何処か重たくなった会話の空気を、一掃するような笑みを作って言った。

「別に、逆に男1人の寂しい時間をフレンドリーに接してもらって、感謝かな」

 照れを隠すように、苦笑気味に和都は言った。

「本当は私も、腹ペコ何です。だからカップ麺を買って食べようかな」

「あっ、じゃあ、何処かに食べに行きますか?」

 裁判所に来る前には予定のなかったことを、和都は思わず口走っていた。

「じゃあ、これから女1人の寂しいご飯に、ご一緒してくれますか?」

 心得顔を作って夏帆が言った。和都の目には、その表情が微苦笑とも冷笑とも取れる様に映っていた。犯罪歴と言う、過去のコンプレックスやプレッシャーが、和都の心の中で蠢いていたからだ。

 誰でも、隠しておきたい過去の1つや2つはある。あの時に話していた国満の言葉が、刹那に和都に訪れた瞬間に生じた煩悶だった。

 しかし、その過去から逃げていては何時まで経っても、人生なんて変わって行かない。犯罪を犯した過去を変えることはできない。それが、これまで生きて来た自分が歩んで来た歴史だからだ。


 地下鉄丸の内線で新宿に出て、カレーで有名なレストランに入った。店内は活気に満ち溢れ、ディナータイムを楽しむ人々で賑わっている。そんな中に、自分も溶け込んでいることに対して、こんな大きな凄い街で生きているんだと言う、実感が和都の鼓動に沸き上がって来た。

 前を見ると、昨日までは思いもよらなかった人が、自分と同じカレーを向かい合って食べている。こう言った、明るい場所から逃げて遠ざかることで、自分自身を暗闇へと追い込んでいた。

 もっと早く、光の射す圏内へと出て来るべきたったと、少しの後悔が和都の胸を締め付けた。

「そう言えば、カレーでしたよね」

 何かを思い出したように、過去形で夏帆が言った。

「え?美味しくないですか」

 夏帆から、何を訊かれているのか和都には、判然とせず直ちには理解しがたかった。

「ううん、違いますよ。裁判所で食べてたカップ麺、カレー味だったでしょう」

「あ、そういえば、カレーだったね。スープに迷っていたらカレーになっちゃって」

「それ、あるあるですね。今日は何ラーメンにしようかなみたいな迷いって」

 手で口許を隠すようにして、夏帆が笑っている。和都もどこか可笑しくって、照れた笑いを口に浮かべた。

 気が張っていた緊張感から解き放たれて、命の洗濯がされたようなリラックス気分に浸された実感を、今の和都は味わっていいる。

「ここって、カレーの老舗ですから、やっぱり美味しいですね」

「うん。美味い。うちの食堂で出しているカレーよりも」

 和都は、スプーンに盛ったカレーを口の中に頬張るより先に、腹の底から込み上がって来る満悦感とも言える、今の心情を喉に飲み込んだ。

 夏帆に、今日という日を寄与されたことへの思いに、感謝を込めて。

 今、新たな人生が幕を上げ、始まっている。更生へ向かってのやり直しの人生はこれからだ。

 和都が目指すラストランの人生は、まだまだ果てしなく遠くにある。

次回第5話、そして第6話のエピローグまで、近日中にアップさせていただきます。

何分に、著者の健康上の完全回復の兆しも見えてきましたので、今後も真摯に作品作りに取り組んで行く所存です。


そして、このコロナ禍の社会が1日も早く、普通の日常的な元の社会へと戻ることと、読者諸氏のご健勝を願っております。


本当に、2年もの間、作品の更新をしなかったことを、小説家になろう運営と読者諸氏にこの場を借りて深くお詫びいたします。


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