新たなる戦士 1
将志〈まさし〉は昨日の試合で、執拗に攻められた足を引きずりながら教室に入ってくる。
将志は今年、入学したばかりの新入生である。
去年から1年間の間、紫代野中学でプロレスをする為に厳しいトレーニングに励んでいた。
紫代野中学でプロレスをするには、平田率いるコーチ陣に1年間に渡って、プロレスの基本を厳しく教えられなければならない必要がある。
場所は旧公民館。
紫代野中学プロレス発足時に主戦場として使っていた。
小さい広間の中央にリングを設置してある。潰れたプロレス団体に無料で譲り受けた物だ。
主戦を町民体育館に移してから、リングの周りにトレーニング機材を持ち込み、紫代野中学の『虎の穴』と役目を変えた。
最初の3ヶ月で基礎体力。
まだ、子供たちは小学生で体が未発達の為、個々に応じた体力作りを限界程度まで上げていく。
将志の学年では40人が参加したが、10人がこの時点で去って行く。
次の3ヶ月は、プロレスの基本動作に入る。受け身、基本技、ロープワークなどである。
特に、平田や田中は受け身に重点を置いた。どんなに体力や素質が優秀でも、受け身が下手な子供は落としてきた。
ここで、10人が去って行く。
最後は、実戦スパーリングに入っていく。
と、言っても派手な技の応酬ではなく基本技中心のグランドレスリングである。
これは、セメント〈真剣勝負〉でやらせる。
デビューまでに、週4日のハードペースで行わせる。
しかし、将志の年代は例外だった…。
紫代野中学プロレスでは1学年10人の少数精鋭の形で形成してきた。
将志の学年は、デビューまでに15人が残っていた。
そこで、平田は当落線上にいる子供たちにセメントマッチをやらせて、負けた子供にはデビューさせない事を決めた。
セメントマッチは完全極秘の中で行われ、コーチ陣だけが試合を見届けた。
将志も、その中の1人だった。
相手は、余り話したことのない嫌味な奴だったので、とことん全力で倒しにいき見事にデビューを果たした。
しかし、将志はデビューしてから一度も勝つことが出来ないでいた。
平田は、将志をプロレスラーとしての道を歩む事を拒んでいた。
クラスである1年1組に入ってきた将志を待っていたのは、クラスメートの冷たい目線であった。