プロローグ・森山進 1
シリーズの最終戦は日曜日と決まっている。『マーチ・オブ・スピリッツ』の翌日も、町内の新聞は臨時発行され、紫代野中学校内新聞は全面特集記事が組まれている。
世間一般、日本国中のプロレス人気とは対象的に、紫代野町内のプロレス人気は反比例している。
町民体育館2階、壇上の真上にあたる部屋、紫代野町中学生によるプロレスを発案し、責任者の立場である、平田雄二〈ひらたゆうじ〉。
平田は、元プロレスラーで都内近郊中心に活動するインディー団体に属していた。
度重なる怪我と、インディーレスラーの持病である生活苦に悩まされていた。
もうすぐ、此処にやって来る同郷の田中俊介〈たなかしゅんすけ〉と共に故郷に帰って、今は子供たちのプロレスで生計を立てている。
物置部屋だった形見の一つしかない小さい長方形の窓、夕刻の時を知らせる。
『モリの事か?』
ドアに立っている男が田中である。
中肉中背、見た目は童顔の50過ぎの優しそうなオッサンだが、現役を知る者はその風貌の奥に眠る狂気に震えた。
あの、黒川でさえ田中には歯向かわないのだ。
パイプイスに大きな尻を預けると、平田にクリッとした眼を向ける。
『モリには、此処に来るように言ってる。』
平田の言葉を聞くと、田中は意を飲み込む様に、鼻だけで溜め息をする。
モリとは、2年生の森山進〈もりやますすむ〉のことだ。
昨日、セミファイナルをこなした次代のエース候補の1人だ。
しかし、平田・田中は森山に対して怒っていた。
それは、人間として。そして、命を賭けた元プロレスラーとして……。