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プロローグ・黒川仁 3

起こした中川の状態を確認する事なく、黒川はロープに向かって突進していく。

タイミング良く振り返り、ロープに体を勢い任せに預ける。

ロープが綺麗な三日月形を描く。


中腰で上半身の重さは、両手で膝を支柱にして辛うじて立っている。

それを眼の奥で確りと捕らえた黒川。

歩幅でリズムを刻み、鬼の表情で右腕を相手の顎から首めがけて刈り取る様に、薙ぎ倒す。

黒川は直ぐ様、中川の両肩を両手でマットに押し付ける。

レフェリーがカウントを数えるが、3回目は叩けなかった。


勝利を防がれた黒川は、中川にカバーを返された反動を利用して立ち上がる。

黒川は、次で勝利が決める!と観衆にアピールする。

観衆も黒川のアピールを、勝利の瞬間の近づきと感じ、町民体育館は絶頂の興奮に包まれる。


黒川は、もう一度ラリアットの動作に移行するが、中川が思ったより距離を詰めていた為に、右腕を出すのが遅れ中川に腕を瞬間に捕まれて倒れてしまう。

倒れても腕を離さない中川の執着心が、黒川の過信に針を突いた。

腕を捻り上げられ、悶絶する黒川に、客の中から溜め息が洩れた。隙を突かれた鈍臭さ、聞こえてくる溜め息が黒川の顔面を紅潮させていく。


中川の余力も少ないのか、腕の力が弱かったせいで致命傷にはならなかった。

ロープに逃れるが、中川は体を離す事なく、髪の毛を掴んでリング中央に運んでいく。


中川は黒川の左腕を自分の後ろ首に回させ、相手の首を締め上げ片足を持ち、そのまま黒川を持ち上げ、首をマットに突き刺した。


そのままの状態で、中川は上手く黒川を丸め込む。

レフェリーが大きな動作でカウントを数え始める。


『1…2…ス…』


黒川がギリギリで跳ね返す。

プロレス専門用語?では2、9で返したと言う。


両者が体育館の天井を見つめる。

必死の形相で、先に立ち上がったのは黒川だった。


自分の勝利を疑い始めた観客に、そして限界を迎え始めた自分の肉体に、ふざけるな!と云う意味で、体育館の外にも響け!とばかりに雄叫びを上げる。


これには、観客の心を戻した意味もあったが、何より足下にいた中川は戦意喪失しかけていた。


28分の激闘の末、ラリアットで勝負を決めた黒川に、観客は安堵した興奮に包まれる。

やはり、勝つのは黒川だったと…。


『マーチ・オブ・スピリッツ』

シリーズ名の通り、3月の激闘を終えた戦士の魂は、体育館から去って行く観客の晴れ晴れとした表情に癒されていった。


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