暴走(4)
女王より生まれてから、二十二年が経った。
それは通常の兵士と比べれば、長命と言える。
だがそれは誰にも望まれていない、ただのイレギュラーに過ぎなかった。
コロニーの兵士の寿命は二十歳と設定されている。
経年とともに力を増す念動力。
その暴走を防ぐ為、彼らの遺伝子に組み込まれた絶対的な制約。
だが、75にはその制約が存在しなかった。
他の兵士と異なり、その制約が無効化されていた。
二十歳を超えて生き続ける75は、危険な爆弾として、コロニーから認識された。
(導火線に点けられた火。
それが火薬に届く前に廃棄していたのに、何かの手違いで俺だけが残されちまった)
75は苦笑した。
自分を殺そうとしたコロニーを恨んだことはない。
コロニーを守る立場から考えれば、いつ暴走するかも分からない兵士を、生かしておくわけにもいかないだろう。
本音を言えば、二年前にコロニーから襲撃を受けた時、素直に殺されてやっても良かった。
(06の野郎が、余計な入れ知恵を俺にしなければな)
75は二年前の出来事を思い返す。
二十歳になったその日、06が自室を尋ねてきた。
彼女は、暴走の危険がある75をコロニーが処分しようとしている旨を伝えると、75に二つの選択肢を与えてきた。
このままコロニーに処分されるか。
それとも――
シティの技術力に希望を託すか。
75は当然、06に尋ねた。
シティとは何なのかと。
だが、06は小さく首を振るだけだった。
聡明な彼女には珍しいことに、ひどく歯切れ悪く、彼女は言った。
「私も詳しいことは聞かされていないの。
ただ、シティはコロニーという施設を監視している集団だと、女王様は話していたわ」
「監視?
そんな話、聞いたことねえな」
75の疑問に、06が頷く。
「10以内にしか伝えられていない、極秘事項よ。
コロニーはシティに対し、不干渉であらなければならない。
それが、コロニーを永続させるための絶対条件だと。
だから兵士を管理する10以内にだけ、その事実が伝えられている。
間違っても兵士達がシティに近づかないよう、調整するためにね」
「そのシティってところに行けば、俺の暴走を止められんのか?」
訝しげに75が問うと、06はまたも頭を振った。
「確証はない。
ただ、彼らは私達以上に、私達のことを理解している。
暴走を止められるとしたら、彼らだけでしょうね」
「随分と、分の悪い賭けに聞こえるが?」
「もっと悪くなるわよ。
私はそのシティの正確な場所を知らない。
大まかな方角ぐらいしかね。
コロニーを囲むあの深い森の中で、それを見つけ出すなんて、奇跡に近いわ。
そして仮にそれを見つけられたとして、彼らが協力してくれる保証もない」
「参ったね。
素直に処分されちまったほうが、余計に疲れないだけ楽じゃねえか?」
戯けて肩をすくめる75。
対して06は、あくまで真剣な面持ちで、話を続ける。
「あなたがそう判断するなら、それも良いわ。
あなたの生き様も、死に様も、私に決める権利なんかないんだもの。
私はただ、その可能性を提示するだけ」
06が懐から茶封筒を取り出し、それを75の机に置いた。
そこに、シティの大まかな場所が書かれているのだろう。
06は封筒を置くと、踵を返して部屋に一つだけある扉へと歩いていく。
だが扉の一歩手前で、06の足が止まった。
彼女は左足を引いて振り返ると、何か言おうと口を開き掛け、すぐに閉じた。
そしてそのまま、その場に立ち尽くす。
75が眉根を寄せ、06に問う。
「他に言いたいことあんのか?」
06は暫く逡巡していたが、75に促され、ようやくその重い口を開いた。
「もしも……もしもあなたがシティの希望に懸け、それに成功することができたのなら、一つだけ、私からお願いがあるの」
「お願い?」
75の目を見つめ、06が言う。
「定期的に、常駐キャンプの前に姿を現して、自分の居場所を私に伝えてほしい」
06の奇妙な頼み事に、75は首を傾げた。
「なんだそれ。
俺がコロニーに反乱を起こさないか、定期的に監視するためか?」
「あなたがそんなことするような人じゃないことは、私も分かっている」
「なら、なんでだ?」
「今から一年か二年、或いは三年先に、あなたの協力が必要になるかも知れない。
その時に、あなたの居場所がある程度絞りこめるようにしておいきたいの」
「協力?」
06が「ええ」と頷く。
そして、驚くべきことを口にした。
「あなたと同じ、暴走する可能性を持った兵士がいる。
あなたには、その子をシティまで連れて行ってほしいの」
06の発言に、75の声は思わず上擦った。
「おいおい。
俺みたいな例外がまた現れると思っているのかよ?
それはちょっと、心配性が過ぎるんじゃねえのか?」
75から視線を逸し、06が言う。
「あくまで……可能性の話よ。
できたらで構わないから」
そう言って、06は部屋を出ていった。
あの時に感じた疑問。
喉に刺さった魚の小骨のような、飲み下そうにもそれができない、些細な違和感。
06は暴走する兵士を、その子と称した。
暴走を起こすのならば、その兵士は当然二十歳を超えているはずだ。
だが、一年から三年先に二十歳を超える兵士ならば、06にとっては先輩に当たる。
その先輩を、まるで後輩のようにその子と称するのは、奇妙に感じた。
だがつい先日、その理由が分かった。
(まあこれで、無意味にも生き延びてきた甲斐があったってもんだ)
しかしそれも、今日で終わりだ。
75は小高い丘の上から、眼下に広がる森を眺めていた。
腰まで伸びた銀髪をなびかせて、その風の心地よさに笑みを浮かべる。
穏やかな日だ。
(悪くない)
シティの連中からすれば、二十二歳などまだまだ若輩者に過ぎない。
だがコロニーで生まれた75にとって、その年齢まで生き延びたことは、僥倖と言わざるを得ないだろう。
だからこそ、75は容易に決断することができた。
自分の代わりに彼女を生かすことに。
自分の命を彼女に繋げることに。
75は眼下に広がる森から視線を逸し、背後を振り返った。
そこには、二体の機械兵がいる。
75から一定の距離を保ち、無言で――もっとも機械兵に喋る機能などないが――彼女を見据える、鋼鉄の人形。
75を監視するために、シティが寄越してきた機体だ。
彼らの監視を受け入れることが、シティから提示された、彼女の暴走を止める条件だった。
それは75にとって、破格の条件と言えた。
それだけに、シティが何かを目論んでいることも容易に想像できた。
しかしそれが何なのかまでは、結局分からずじまいだ。
「お前達、もっと離れたほうがいいぜ」
75が話し掛けるも、二体の機械兵に反応はない。
75は苦笑する。
当初は鬱陶しいだけだった機械兵も、この二年で随分と愛着が湧いてきた。
機械兵を破壊しコアを抜き取っていた頃の自分からは考えられない、心境の変化といえるだろう。
その時、機械兵の背後に見える森の茂みが、大きく揺れた。
75が警戒し、森の奥を見据える。
すると、そこから一体の機械兵が姿を現した。
75が怪訝に眉をひそめる。
シティの連中から得た情報によれば、この付近に機械兵は配置されていないはずだ。
75がそう訝しく思っていると――
「75!」
彼女を呼ぶ27の声が聞こえてきた。
27は、クリフが持ってきたジャージに着替えると、半信半疑のまま機械兵の後を追い、シティから森の奥へと進んだ。
機械兵に対して不信感がないわけではないが、今はそれ以上に、75のことが気に掛かっていた。
病み上がりの身体で森を歩くのは、彼女が思うよりも、困難なことだった。
身体が鉛のように重く、ほんの一時間ほどで息が上がり、二時間で足が上がらなくなる。
だがそれでも、27は一切の休憩を取らずに、身体を引きずるようにして、森を進んでいった。
そして三時間後。
鬱蒼とした森から突如、視界が大きく開ける。
そこは、地面の隆起した丘の上だった。
眼下に広がる、吸い込まれるように深い、新緑の樹海。
上空を満たす蒼い空気の層と、そこに滲んだ白い雲。
その丁度境目にある小高い丘。
その先端に――
75は立っていた。
「75!」
27は彼女の名前を呼んだ。
75の視線は、すでに27へと向けられている。
27より先行していた機械兵の存在に、75は気が付いていたのだろう。
27は荒い息を繰り返して、一歩一歩、75へと歩を進めていった。
丁度、五歩目の足を踏み出し掛けた時、75が鋭い制止の声を上げる。
「そこで止まれ」
27は足を止める。
75が不思議そうに片眉を曲げ、27に尋ねた。
「27。
どうしてお前がこんなところにいるんだよ。
クリフのところで、ぐーすか眠ってるんじゃなかったのか?」
「そのクリフから妙なことを聞いた。
75から薬を貰ったとクリフに話した時だ。
彼は慌てた様子で、75に会いに行けと私に言った。
その理由は75から聞けとも」
27の言葉に、75が「チッ」と舌打ちをする。
「あの甘ちゃんが。
余計なことしやがって」
「どういうことだ。
75。
クリフが慌てた理由は何だ。
あれは一体何の薬だったんだ」
75は27から視線を逸し、顔を俯けて沈黙していた。
その彼女の表情は、怒っているようにも呆れているようにも見える。
暫くして、75が面を上げた。
真っ直ぐに27の目を見つめ、彼女が口を開く。
「まあ、いいだろう。
このまま有耶無耶にしてもお前もスッキリしねえだろう。
こうなった以上、全部正直に話してやるよ。
何より、いつかは知られちまうことだしな」
75はそう言うと、自身の銀髪を指先で掻きながら、「どこから説明したものかね」と思案顔を作った。
そのまま十秒ほどの時間が経過した後、75は一人で頷き、口を開く。
「まずお前にやった薬だが、あれは念動力の暴走を抑制するための薬だ」
「暴走の……抑制?」
27が呆然と訊き返す。
75の言葉の意味が、いまいち飲み込めない。
75は困惑する27に対し、さらに詳細な説明を重ねた。
「ああ。
年齢とともに強大化する念動力。
その力が術者の制御力を上回り、その力を無作為に振るってしまう現象。
その暴走を一時的に押さえ込むためのモノさ。
二十歳を過ぎた私は、本来ならばいつ暴走が起きてもおかしくはない身体だ。
だが、シティから支給されたその薬のおかげで、こうして今まで生き長らえてきた」
「じゃあ、私もその……暴走し掛けていたと、そう言うのか?」
27の問いに、75が頷く。
「ああ。
お前の症状を見た時に、ピンときた。
丁度二年前、私の身体に起こった異変と、全く同じものだったからな。
もっとも、あいつから事前に話を聞いてなければ、気付かなかったかも知れないが……」
75の言う、あいつとは何者なのか。
それが気にならないわけではないが、彼女はそれよりも遥かに重要な疑問を、75に問い掛ける。
それは――
「私は……まだ二十歳を超えていない」
暴走とは、コロニーで生まれた誰もが持つ、潜在的な脅威だ。
だがその暴走が起こるのは、二十歳を過ぎてからである。
だからこそコロニーは、全兵士の寿命を二十歳未満に制限して管理している。
その制限が正しく機能しない、75のような例外でもない限り、暴走の危険性はないはずだ。
27は今年で十八歳。
コロニーでは年長者に数えられる彼女ではあるが、まだ二十歳未満の彼女が暴走を起こすなど、考え難い。
少なくとも、今までのコロニーの記録には、例のないことだ。
27がそれを疑問に思うことは、想定内だったのだろう。
75は冷静に話を続ける。
「確かに、暴走は二十歳を超えなければ起こることはない。
まだ十八歳のお前に何故暴走の予兆が表れたのかは、俺にも分かんねえ。
或いはその理由が、お前の秘密にも関わっているのかも知れねえな」
「私の秘密?」
「クリフのこと、事前に知っていたんだろ?
コロニー生まれのお前が、シティにいるクリフと出会うことなんて、本来はありえねえ。
何か理由があるんだろうぜ?」
その疑問については、27もクリフに幾度か尋ねている。
だが、彼は話をはぐらかすだけで、まともな答えを返してくれなかった。
そのことを、彼女も不審に思わなかったわけではない。
だが――
(有耶無耶にしてしまった……)
白い夢に出てきた少年。
子供から大人へと成長したクリフは、幾分たくましくなり、だが夢で見た少年と変わらぬ、優しさを持っていた。
夢に出てきた少女が少年に抱いた想い。
彼と話をしていると、その少女の想いと同質のモノが、自身の胸にも宿る気がした。
そんなクリフを疑いの目で見たくない。
27のその躊躇いが、彼女の決意を先送りにしてしまっている。
真実を知る覚悟を、損なわせてしまっている。
だが、その答えと自身の暴走とが、関わっているのならば――
(いつまでも……誤魔化し続ける訳にはいかない)
取り敢えず、これで薬の疑問は解けた。
だがまだ、不可解な点は残っている。
27はそれを、75に問い掛ける。
「どうしてクリフは、私に75と会うよう言ったんだ。
無論、私も助けて貰った礼はしたいと思っていた。
だが、彼が私にそれをしたのは、別の理由からなんだろ?」
75はふっと鼻から息を漏らすと、皮肉げに笑った。
「それは多分、あいつがお人好しだからだろうぜ?」
「だから……その意味が分からないんだ」
「つまり、最後に俺と話す機会をお前に設けてやろうっていう、お節介だ」
「最後?」
75は笑みを浮かべたまま、一歩一歩、後退していく。
彼女は丘の先端に立っている。
彼女の背後には、眼下に写る樹海とを一直線に結ぶ、絶壁だけが存在している。
75は崖の先端まで後退すると、その足を止めた。
27は75の意図を測りかねていた。
唾を飲み込んで喉を湿らすと、慎重に、75に話し掛ける。
「何を……しているんだ?
そんなところに立っていては危険だ。
75」
「そういう訳にもいかねえのよ。
俺がここにいるとよ、お前のほうが危険だからな」
「私が危険?
どうして?」
「俺の暴走に、お前が巻き込まれちまうだろ?」
平然と放たれた75の言葉に、27は声を失った。
驚愕に目を見開き、硬直する27。
そんな彼女に、75は陽気とも取れる口調で、淡々と言う。
「シティの連中はケチ臭くてね。
暴走を抑制する薬は、一定期間ごとに必要最低限の量だけしかくれねえのよ。
まあそうすることで、俺の行動を制限しようって狙いがあったんだろうな。
それでだ、次に薬を受け取る時期ってのはまだ先なんだが、なんとその前に、手持ちの薬を切らせちまったのよ」
75の話を聞き、27はすぐにそれに気が付いた。
「まさか……私に薬を使ったから」
「もう隠していてもアホらしいから言っちまうけど、まあその通りだ」
ちょっとしたサプライズを告白するような、そんな気楽な調子で75は言った。
あくまで軽薄な調子を崩さない彼女に、27は思わず声を張り上げた。
「馬鹿な!
どうしてそんな大事な薬を私なんかに使ったんだ!」
「仕方ねえだろ。
そうしないとお前のほうが暴走起こして死んじまうんだからよ」
「だからって、私の代わりに75が暴走していいなんてことが、あるわけないだろ!」
「ギャンギャン騒ぐなよ。
頭に響くだろ。
暴走を起こす前の痛みには大分慣れてきたが、それでも結構しんどいんだぜ?」
耳をふさいで眉をしかめる75。
その彼女の言葉に、27は声を喉で押し留めた。
暴走の予兆である、あの全身を蝕む激痛。
75は慣れたなどと言っているが、そんな生易しい代物ではないことは、27も良く分かっていた。
平然としているように見えて、75はその激痛に苦しんでいる。
その証拠に、皮肉げに笑う75の額には、いつの間にか大粒の汗が浮かんでいた。
27は強く握り込んだ拳を、震わせた。
感情的に声を上げても、事態は何も好転しない。
27は混乱する頭を必死に回転させ、75を救う手立てを模索する。
「シティから……新しい薬を貰うことはできないのか?」
掠れるような声で言った27の問い掛け。
だが75は、それにあっさりと首を振る。
「無理だろうな。
連中は俺に薬を過剰に与えることはしない。
それは事前に言われていたことでもある。
なにせ連中には俺が嘘を吐いていないって判断をすることはできねえんだ。
俺が余分に薬を手に入れようとしていると、疑われて終わりだろうぜ」
「嘘をついて薬を貰う理由が、75にはないだろ?」
「そうでもない。
俺は薬があるから、連中の監視を受け入れている。
もし大量の薬を手に入れることができたのなら、連中の監視を撒いて、コロニーに戻ることだってできる」
「そんなこと……」
「実際にやるかやらないかじゃない。
いわば可能性の問題よ。
元々連中にとって、俺なんか気まぐれで生かしているようなもんだ。
与えた薬をなくしたってなら、自業自得と言われてお終いだ」
「それでも……頼んでみるべきだ。
私もできることがあるなら、何でもやってやる。
頼むから、諦めるようなことはしないでくれ」
27は75に懇願するように、そう言った。
自分のために、誰かを犠牲にしたくはない。
その想いも当然ある。
しかし何よりも、27は75に死んでほしくなかった。
だが――
「無駄にあがくことなら、もう二年前にやったさ。
そのお陰でこうやって延長線を楽しむことができた。
普通なら二十歳で死んじまうのに、二十二歳まで生きることができたんだ。
上出来だろ?
それにな、ようやく満足することもできたことだしな」
「満足?」
75が笑顔で頷く。
「ただ薬を打って生きるってのも退屈だぜ。
目的も何もないんじゃあ、腐っちまう。
最近は、どうして長生きしちまったんだろうって、思うようになっていた。
だが、それにもようやく意味が持てたんだ」
一際大きな風が、75の銀髪をなびかせる。
そして――
「お前を助けることができた」
75の身体が傾き――
「俺はそれで……満足だ」
その身体が――
崖下へと消えていった。
声を出すこともできなかった。
75が何を言おうとも、27は決して引かず、説得を続けるつもりだった。
だがあまりにもあっさりと、75は自身の人生に幕を引いてしまった。
75が身を投げた後も、27は暫くその場で、呆然と佇んでいた。
すると――
足元が突然大きく揺れた。
足を取られ激しく転倒する27。
地面に倒れ込む彼女の視界に、信じられない光景が写し出された。
75が落下した崖の下。
そこを中心にして、強力な力場が周囲に展開されたのだ。
その力場は直径五十メートルほどにまで高速に広がると、その領域内にある森や岩を、一瞬にしてチリにまで分解した。
激しい振動を起こしながら、周囲を潰し破砕する巨大で強大な力場。
吹き荒れる突風に、27の身体が転がされる。
彼女は森の入り口まで地面を転がると、木の幹に背中をぶつけて、ようやく身体を停止させた。
肺から押し上がる咳を気力で留め、27は両腕を顔の前にかざし、目を細めて前方を見据えた。
突風に目を開けることも難しい。
あまりにも異質な念動力の力。
これが――
「暴走……」
27のその呟きは、吹き荒ぶ風に揉まれて、散り散りになって消えた。