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3 アトス内乱


 いくらアトス自治修道士共和国が、元々ギリシャの国だったとしても、独立した時点で国境線は引かれていた。そのはずなのに、今市街戦が起きているのはおかしな話だ。

 教国であるがゆえに、戦闘機など所持していなかったのが不幸中の幸いだが、銃を携えた騎士団が街を練り歩いているというのは、国民にとっては恐怖以外の何物でもない。

 戦争をしないと約束したから、国境警備を厳重にしていなかったのはアルヴィンの落ち度だ。だが、いくらなんでも簡単に侵略し過ぎだ。

 これは、反アルヴィン派の誰かが、裏で糸を引いていると考えて間違いないだろう。


(くそ、自分の利益の為に、国益を考えられない愚か者が。いつか処刑してやる)


 恐らく前与党の誰かだろう。役に立つ人間なら使ってやるが、今の情勢では役に立たない人間などいらない。その内あぶりだして粛清する。


 だが、悪態をついても始まらない。これは戦争だ。騎士団は首都に進攻を仕掛けている。正規軍が足止めしているので、まだ来てはいない。


「大統領、ドレスブラックを使っては?」


 ショーペンが提案する。ドレスブラックというのは、アンジェロ達が率いる特殊部隊の通称だ。他には、空軍の特殊部隊はドレスホワイト、海軍はドレスブルーなどの通称がある。それぞれの軍や部隊には兵科色というのがあるが、黒を採用しているのはドレスブラックのみだ。

 ショーペンはドレスブラックなら強力な部隊だから、すぐにアトス自治修道士共和国を排除できると考えて提言したのだろう。だが、アルヴィンはそれに首を横に振った。


「それはできない」

「何故ですかな?」

「アトス自治修道士共和国は、俺達化け物の存在が許せないから攻撃しているんだ。そこに人外部隊であるドレスブラックを使ってしまったら、「化物が人間に攻撃した」という大義名分を与えてしまう。そうすると国外にも、ギリシャを攻撃する口実を作られてしまう」


 対シュティレードなら問題ないが、それ以外の国家や勢力に対して、ドレスブラックを使う気はない。

 国民を安心させる為にも、他国に隙を作らない為にも、ドレスブラックは安易に運用すべきではない。

 やはりギリシャ政府は人間の敵だから、攻撃してしまってもいいのだと、周りに思わせてはいけない。


 納得したようで、ショーペンは「そうですな」と頷いた。ではドレスブラックを使わないなら、一体どうするかという事になる。

 当然、人間を使う。人間の勢力には人間を使うのが道理だろう。戦争にだって礼儀は必要だ。

 かといって、人間同士をいつまでも戦わせるつもりはない。


「ヴィンセント、首尾は?」


 アルヴィンが声をかけると、ヴィンセントが頷いた。


「上手く行った。結果はすぐに出る」

「そうか、ありがとう」


 周りには何のことかわからなかったが、ニコラスがモニターを映し出した。衛星から中継されている映像だ。

 しばらく見ていると、アトス自治修道士共和国側の幕舎が、突然爆発を起こした。いくつもの幕舎が立て続けに爆発を引き起こす。

 別の画面では、アトス自治修道士共和国軍への補給ヘリが撃ち落とされ、トラックが爆発してハイウェイでひっくり返った。


 その映像を見て、アルヴィンは溜息を吐いてヴィンセントを見た。


「ヴィンセント? やりすぎ」

「死傷者は100名もいないだろう。この位で済んだなら可愛いものだ」

「まったく……」


 はぁ、とアルヴィンは溜息を吐く。確かにやり過ぎだが、一応完璧ではある。何をしたのかと党員たちが質問する。

 人間を攻撃する気はない。だが、どうにか撤退させたい。ならば、補給や兵站を絶ってしまえばいい。攻撃されたトラックやヘリ、幕舎は補給物資を置いていた。そこにいた人間の数は少ないし、補給を絶たれてしまっては、撤退するしかなくなる。

 なので、人員を密かにアトス自治修道士共和国軍側に潜り込ませ、爆弾を設置して爆発させた。

 勿論、補給を絶たれたら街から略奪という可能性もあるので、とっくに軍によってアトス自治修道士共和国軍は包囲されている。逃げ道だけを残して。


 あちらの上層部も現状に気付くだろう。撤退は時間の問題だ。とりあえず面倒くさい問題が一つ片付きそうなので、アルヴィンはほっと息を吐いた。

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