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デッドエンドフェアリーテイル  作者: 京衛武百十
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篠崎香保理の場合 その3

香保理かほりが一目で見抜いた通り、伊藤玲那いとうれいなも、幼い頃から性的虐待を受けてきた女性だった。


しかも自分以上に心を壊されていたらしく、まるで生気を感じさせない、本当に人形のような暗い目をしていた。


そんな玲那に対し、香保理はとても優しかった。幼い子供に接するように頭を撫で、体をそっと抱き締め、彼女のすべてを肯定した。


すると、人形のように生気のない冷たい目をしていた玲那の様子が、見る見る変わっていったのである。それまでは自分の意思すらあるのかどうかというくらいにこちらから働き掛けなければ何一つ反応らしい反応を見せなかったのが、一ヶ月もしないうちに自分から話しかけるようになってきたのだ。


会社の同僚という以上に彼女のことを気にしていた絵里奈もその変化を喜び、三人はずっと昔からそうだったかのように仲良くなっていったのだった。


ただ、香保理と玲那の仲があまりに急速に接近した為に、絵里奈がヤキモチを妬くことすらあったりしたが。


まあしかしそれすら三人の関係からすればスパイス程度のものでしかなかったようではある。


が、玲那の面倒を見ることは、香保理にとってはある意味では負担になっていた面も否定はできなかった。


無理もない。殆ど子供を育てるほどの濃密な触れ合いだったのだから。決して嫌な苦労ではなかったが、それなりにストレスにもなっていたのだろう。やや酒の量が増え、彼女の<癖>となっていた自傷行為の回数が若干増えていた。


だからその日も香保理は、酒を飲んだ上でいつものように手首にカミソリを当てて、脳を焼くような痛みを堪能しつつ自分の手首から滴る真っ赤な血を眺めていたのである。だがこの日は、普段とは少し違っていた。


見違えるように明るくなった玲那が絵里奈と一緒にテーマパークに泊りがけで遊びに行っていたのだ。本当は香保理も行く筈だったのだが、職場でトラブルがあってその応援の為に休暇を取り消すことになってしまったという事情があった。


香保理が行けないのなら自分達もと二人は言ってくれたものの、彼女は、


『私はまた今度でいいから、二人で楽しんできて』


と、笑顔で送り出したのだった。


とは言え、やはり残念で悔しかったというのもあったのかもしれない。だからつい、


『まったく…!、あのバカ課長め!。自分のケツくらい自分で拭けっての…!!』


とか考えながらカミソリを当ててしまったことで、いつも以上に深く切ってしまったというのもあったのだろうか。それに加えて酒により手加減が狂ってしまったというのもあった可能性もある。


いつもより勢いよく溢れ出る血を見ても、


「あはは、今日は何だか元気だな~!」


などと、ケタケタと笑い出すほどに異様にテンションが高かった。それでいて、酔ってそのまま眠ってしまったのだ。




翌日、テーマパークから帰ってきた絵里奈と玲那によって発見された時には、彼女は物言わぬ冷たい肉の塊になっていたのであった。


篠崎香保理ししざきかほり。享年、二四歳。死因、出血性ショックによる多臓器不全。


警察によって現場検証もされたが、特に不審な点も見つからず、自殺として処理された彼女の人生が、ここに終わりを告げたのである……。


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