コンスタンティア・エリントンの場合 その5
本当はもっと苦しんでもがいて抵抗した上で死んでいくところを見たかった。
しかしさすがに、ビンに詰めたネズミじゃないのだから暴れられてはいろいろまずいということは彼女も察していた。誰に教わったわけでもなく、彼女はそういう部分では非常に頭が回った。もはや<本能>とでもいうレベルで。
だから、先に脳への血流を阻害して意識を失わせた後で、気道を塞いで呼吸を阻害する。
すると、意識はない筈なのに肉体は生命の危機を察知しているのか、びくびくと反応を見せる。
それだけでもゾクゾクと背筋に甘美な痺れが奔り抜ける。この時、彼女の脳内には性的な興奮を誘引する脳内物質が大量に分泌されていた。
『ああ…気持ちいい……』
自分の手に伝わってくる反応に酔いしれ、コンスタンティアは性的に上り詰めていたのだった。
なのに警察は、またしても彼女の犯行を暴くことができなかった。
それは、恐ろしい殺人鬼がその存在を知られることもなく放置されるということを意味していた。
これでは誰も彼女を止めることはできないだろう。
だが、彼女のこれ以降の凶行は、意外な形で防がれることとなった。
いつものように彼女との淫蕩に浸っていた父親が、その日に限って力加減を誤り、コンスタンティアを本当に絞め殺してしまったのである。
「あ…なんだよこいつ、本当に死んじまいやがった」
口から泡を吹き、恍惚の表情を浮かべたまま呼吸が止まっていた娘を見て、父親はまるで悪びれることもなく面倒臭そうにそう呟いただけだった。
だが、そんな父親の反応を許せなかった者がいた。
コンスタンティアの母親である。
「そんな…そんな……ああ……!」
父親に支配され、自分の娘が性的に慰み物にされて嬲られていても止めようともしなかった母親だったが、娘が本当に死んでしまってようやく、母親らしい表情を見せたのかもしれない。
「めんどくせえ…夜が明ける前に森の中にでも捨ててこい。そうすりゃコヨーテが始末してくれるだろうよ」
我が子の死を、まるで、役に立たなかった家畜でも死んだかのようにそう吐き捨てた父親の言葉を耳にした時、辛うじてのバランスで維持されていた母親の精神は完全に崩壊した。
「コンスタンティア……」
娘の名を呟きながらよろよろと立ち上がった母親は、そのまま自身の裁縫道具の中から家族の衣服を作る為に使っていた大きな断ち切り鋏を手に取ると、ベッドでまどろんでいる父親のところに戻り、油断し切っているその胸に、渾身の力を込めてそれを突き立てたのである。
コンスタンティア・エリントン。享年十一歳。死因、窒息死。
歪んだ父親の狂気に満ちた感覚を見事に受け継ぎながらその父親の手によって命を落とした少女は、しかしこの時には、不可解なことに、呼吸も鼓動も止まっていながら、包丁を突き立てられた父親の胸から噴水のように噴き上がる血飛沫を、虚ろに開かれた目で、確かに見ていたのである。
そしてその光景を見詰めながら、
『ああ…綺麗だな……そっか、人間の中にはあんな綺麗なのが詰まってるんだ。
じゃあ、次からはママのあの鋏で人間をジョキジョキと切っちゃおう。そしたらきっとすっごく綺麗だろうな。
うん、そうしよう……』
などと考えていたのだが、それを知る者は誰もいなかったのだった。




