リーネの場合 その3
その村に軍隊が駐留していた時には、それが敵でありそれと戦うことが目的であったことから、ならず者やごろつきで構成された部隊もそちらに集中していた。だが、軍の施設を完全制圧し、そこに駐留していた兵士達は命からがら逃げだして、反撃してくる気配もなかった。いずれはそうなるにしても、しばらくは休むこともできるだろう。
そうなると、兵士の格好をしたならず者やごろつき達は、村を我が物顔でうろつき始めた。勝手に家に上がり込んで食事をせびったり、些細なことで因縁をつけて暴力を振るったり、女性に絡み始めたのである。
こうなるとさすがに元々の村の住人達もマズい状況だと察し始め、どうにか自分達で身を守ろうと兵士達の上官へと直談判に出たりもしたのだった。
だが―――――
だが残念なことに、その<上官>達も兵士達と大差ない悪辣な輩だった。
「なんだ? ここはもう俺達が占拠してんだ。俺達が支配してんだよ。文句があるならお前達が出て行け」
取りつく島もなくそう吐き捨てられ、村の代表の一人が激昂した。
「ふざけるな! ここは俺達の村だぞ!!」
リーネの隣家の息子だった。畑仕事にはあまり真面目ではなかったが、少々気の荒いところがあり、頭に血が上りやすい面があったのだ。しかしその態度は完全に火に油というものだった。掴みかからんばかりの勢いで歩み寄った彼の腹に、剣が突き立てられる。
「あ……はぁ…あぁあぁぁ……」
つい今しがた勇ましく突っかかった彼は、吐息のような力のない悲鳴を漏らしつつ、腹を押さえてその場に力なく崩れ落ちた。その場にいた村人達に怯えが広がっていく。
「これは攻撃だな。攻撃されたら反撃しなきゃいけねえ」
血の付いた剣を手にした<上官>がのそりと立ち上がる。その姿はまるで、静かだがすさまじい殺意を闘牛士へと向ける巨大な雄牛を思わせた。
その雄牛のような男は部下十数人を引き連れて、リーネの隣家に押し入り、夫婦を容赦なく惨殺した。
「なんてことを…!」
隣人が断末魔の叫びを上げるのを耳にして、リーネの両親は娘を抱き締めて家に閉じこもった。だが、窓から兵士の一人が覗き込んでいて、リーネの母親と目が合ってしまった。
「逃げなければ…!」
次に起こることが容易に想像できてしまい、父親は娘と妻を連れて裏口から逃げることを決意した。万が一の場合の武器になればと使い慣れた鎌を手に取り、裏口を開ける。しかし……
「あ…!!」
リーネの家は既に包囲されていて、何人もの兵士が立ちはだかっていた。
「くそっ!!」
リーネの父親は鎌を振るい、兵士の一人の首にそれを突き立てたが、そこまでだった。他の兵士が一斉に剣を構えて突進、何本もの剣に貫かれ崩れ落ちる父親の目に映ったのは、兵士に捕えられ家へと押し戻される、妻と娘の姿であった。




