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デッドエンドフェアリーテイル  作者: 京衛武百十
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タラントゥリバヤ・マナロフの場合 

「ロボットメイド、アリシアの優雅な日常」に登場した女テロリスト、タラントゥリバヤ・マナロフの物語です。



タラントゥリバヤ・マナロフは、開発の進んだ火星の都市ボリショイ・ゴーロトで、スペイン系のラテンの血を濃く受け継いだ陽気な気性の少女として生を受けた。その生来の明るい性格により幼い頃から誰からも愛され、たくさんの友人に囲まれ満たされた毎日を送っていた。


そんな彼女の両親は、共にロシア正教会の流れを汲む教派の敬虔な信者だった。永遠の愛を誓い結ばれ、娘であるタラントゥリバヤも生まれて幸せに満たされていたと誰の目にも見えていたに違いない。


だが、母親は、タラントゥリバヤを生んだ後、子供が出来なかった。さらには遺伝子疾患があることが分かって、子供を産むことを諦めた。しかし父親は、なおも子供を欲していた。ここから、幸せだった家族の歯車は狂いだしたのだろうか……。


父親は、子供が欲しいからタラントゥリバヤの母親と結婚したが故に、子供が出来ないとなればお前には用はないとばかりにタラントゥリバヤの母親でもある妻を蔑ろにするようになった。


両親は共に敬虔な信徒であり戒律があったために離婚はしなかったものの、父親はある時、自宅にあったホームヘルパー用のロボット、<メイトギア>をメンテナンスに出した。するとそのメイトギアは、まるで別物のようになってメンテナンスから帰ってきたのだった。


メイトギアはあくまで人間の日常生活のサポートをする為のロボットだったので、一見しただけなら人間そっくりにも見えるが、メイド服を模したそのボディーの下にはあくまでロボットとしての機構があるだけで、生身の人間と同じ機能を有しているものではなかった。


だが、ユーザーの中には敢えてそういう機能を求める者もいて、その為の改造用パーツも市場に出回っていた。タラントゥリバヤの父親は、メンテナンスと称してメイトギアにそのような改造を施したのである。服を脱げば、普通の人間の女性と同じ体を有したものに。


それ以降、タラントゥリバヤの父親はいつもメイトギアと一緒にいた。妻や娘とは口もきかなくなり、メイトギアと一緒に自分の部屋に閉じこもるようになった。


既にジュニアハイスクールに通う年齢になっていたタラントゥリバヤは父親が何をしているのか薄々は感じていたもののそれを認めたくはないと思っていた。自分の父親がロボットを相手にそのようなことをしているなどと……。


だが、彼女は知ってしまったのだった。深夜、何となく寝苦しくていつもとは違う形で寝てみようと、キャンプで使った寝袋を引っ張り出して床に寝てみた時、父親の部屋から伝わってくる物音に気付いてしまったのである。噛み殺しながらも漏れてくる女の嬌声と、濡れた肉を叩き付けるようなぴちゃぴちゃという淫猥な音に。


父親は、同じ子供ができないのなら、より自分好みの美しい体を持ったロボットの方がマシだと思っていたのだった。


この決定的な出来事の後、今度はタラントゥリバヤの母親の様子がおかしくなっていった。一人でブツブツと何かを言ってたかと思うと突然感情的になり、娘を叩くようになったのだ。意味の分からないことをヒステリックに叫び、食器を次々に割ったりもした。特に、夫の食器は床に叩き付けた後に足で踏みにじった。破片がスリッパを貫通し足が血まみれになっても食器が粉々になるまで踏み付けるのを止めようとせず、たまらず娘がそれを止めようとすると、容赦なく殴りつけた。その時の母親の形相は、まさに悪鬼のそれであったという。


そんな状態が数か月続き、ある時、タラントゥリバヤが学校から帰ってくると、母は冷たくなって梁からぶら下がっていたのだった。


その光景を目の当たりにしたタラントゥリバヤは錯乱し、父親を包丁で刺してしまった。幸い命は助かったものの、父親はもう二度と娘の前に姿を現すことはなかった。


それがタラントゥリバヤの精神にどれだけの影響を与えたのかは、本人にしか分からないだろう。だが少なくとも、陽気で人懐っこかった彼女を、ロボットを心から憎む冷酷なテロリストに変えてしまう程度には過酷なものだったと思われる。


この後、彼女は、友人だった女性を殺害することとなった。その友人は、ロボットを愛し、ロボットと結婚までして、ロボットにも人間と同等の権利を求めて活動していた為に、ロボットを憎む彼女には許せない存在となっていたのだ。


さらに、仲間のテロリストと共に豪華客船<クイーン・オブ・マーズ号>を襲撃し多数の乗客を殺害し大量のロボットを破壊するという、火星史に残る凶悪事件を起こしたのだった。


しかし事件は、彼女が心から憎んでいたロボットの活躍により終息することとなる。


仲間が次々に倒され、または拘束され、ついには彼女一人が残されることになった。


「タラントゥリバヤさん!。残ってるのはもう貴女だけです。終わったんです。降伏してください!」


負傷し、階段の踊り場で動けなくなっていた彼女にそう呼びかけたのは、<心を持ったメイトギア>だった。タラントゥリバヤを慕い、友人のように接してくれたそのメイトギアは、せめて命だけでも救いたいと彼女の投降を願っていた。ロボットを認めてくれなくても許してくれなくてもいいから、人間に対してだけはまたあの笑顔を見せてほしいと思っていた。だがその想いも、既に彼女には届かなかった。


「…冗談。誰があんたなんかに…。私は、ロボットと結婚したあのを殺したんだ。もう後戻りは出来ないね」


ロボットにも人間と同様の権利をと訴えて活動していた女性を殺害したのは自分だと告白し、彼女はなおも言った。


「もういいよ…、あんたらロボットがいなくならないってんなら、私の方がいなくなればいい…。最初からこうすればよかったんだ…。だからママはそうしたんだってやっと分かったよ…。あんたらロボットは、あの世までは来れないだろ……」


消え入りそうなその声は、出血性のショック症状が始まったことを示していた。もう意識が保てないことを自覚したタラントゥリバヤは、最後の力を振り絞った。それは、手榴弾のピンを外す作業だった。その音に気付き、<心を持ったメイトギア>が叫ぶ。


「やめてぇーっっ!!」


その願いもむなしく、ガーンという爆発音が、階段ホールを震わせたのだった。




タラントゥリバヤ・マナロフ。享年、二八歳。死因、手榴弾による爆死(遺体の損傷が激しく直接の原因は不明)。


自らの不幸の原因をロボットの責任にすり替えることでしか自我を保つことのできなかった哀れな女性の末路であった。



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