レイレーネ・ハルファレギスの場合 その3
その時のヘルミの姿は、まさに鬼神であった。気力と気迫で相手を圧倒し、地力で勝る相手すら容赦なく倒していった。ある者は炎で焼き、ある者は空気の刃で切り裂いて。その行いには、一片の迷いすらない。
一方で、レイレーネは既に死を受け入れたかのように座して静かに佇んでいた。それは、鬼神を思わせるヘルミとは真逆に、一切の衆生を救う為に己が身を捧げようとする菩薩のようであったともいう。
そんな彼女を好機とばかりに狙う者もいたが、そういう者達はことごとく他の子供達によって返り討ちとなった。複数の子供達が、協力してレイレーネを守っていたのだ。
「いけない。あなたたちがそんなことをする必要はないわ」
そう言うレイレーネに、彼女らは、
「気にしないで。私達がこうしたいだけだから」
と決意を込めた目で応えていた。
それは、一種の信仰のようなものであっただろう。一人、二人と倒れていく彼女達は皆、自分の命を使ってレイレーネを守れたことに満足したかのように満たされた顔で息絶えていった。まさに信仰に殉ずる殉教者の姿そのものと言えた。
そうやってレイレーネの傍で彼女を守ろうとする者もいるかと思えば、積極的に打って出ることで結果として守ろうとする者もいた。ヘルミの行動はまさにそれであったのだ。守るのは性に合わない。だから自分から攻撃に出る。淡々と、しかし苛烈に。
人数が減り始めると、力を温存して機会を窺おうとする者の比率が増えてくるので膠着しがちになるのだが、このグループの場合は違っていた。力を温存しようとして手加減するとヘルミが容赦なく打ち倒す。既に半数がヘルミによって倒されていた。
また、レイレーネの傍で彼女を守ろうとしていた者達も次々と力尽き、二人を残すだけとなっていた。レイレーネはせめてもということで二人に回復魔法をかけ、サポートする。だが、残った二人のうちの一人も、攻撃をしのぎ切ったと油断した瞬間に強力な雷霆に撃たれ黒焦げとなった。残るは一人。
「私が守る! あなたは私が守る!!」
何度も何度も自らに言い聞かせるようにそう唱えていた最後の一人は、残った力の全てを使い果たしたらしく、立ったまま息絶えていた。
「ああ……」
その姿に、レイレーネは悲しげに声を漏らした。
そんな彼女に、死の呪文を投げかけようとしていた者が、魔力を練り上げる隙を突かれて風の刃に切り刻まれて地面に転がった。
「まだ、生きてたか…」
その声に頭を上げた彼女の視線の先にいたのは、全身傷だらけのヘルミであった。
「あと、三人だ……」
呟きながら膝をついたヘルミを、レイレーネの癒しの魔法が包んでいたのだった。




