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デッドエンドフェアリーテイル  作者: 京衛武百十
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山下達の場合 その2

まるで絶対君主のように君臨する長子の(あつむ)に対し、次子の(いたる)は、自分の気持ちや考えていることを極力表に出そうとしない子供になっていた。そんなことをしても誰も相手にしてくれず、ただ惨めな気分になるだけということを子供心に察していたのだろう。彼のそういう態度は、学校でも同級生たちから疎まれ、<幽霊>とまであだ名されて無視されるようになっていた。


自分の意思や意図を表に出そうとしない(いたる)を教師ですら<扱いにくい生徒>として忌避し、体調を崩して気分が悪そうにしてても放置して、結果的に彼が嘔吐するなどの事態に至ると『気分が悪かったら早く言いなさい!!』と、体調が悪そうなのを気付きながらも無視していた自分を棚に上げて彼を責め立てた。


<子供は未熟であるが故にコミュニケーションがうまく取れないこともあるので積極的に声掛けをするように>と、教師が順守するべき指導要綱に明記されているにも拘らず、大人でありながら<決められたこと>を守らずにである。しかも自分は生徒らに<決められたことは守れ>と命令するという始末だった。そんな教師も、(いたる)にとっては信用に値しない存在だったと思われる。


そのようにしてますます孤立を深めていたある朝、(いたる)は自力では起き上がれないほどの高熱を出していた。にも拘らず両親は『ただの風邪だろう』と軽んじ、市販の風邪薬と水とスポーツドリンクを彼の枕元に置いて<体調の悪い我が子を気遣っている親>を演出する為のアリバイ作りをしただけで放置していたのだった。


だが、昼過ぎ、一応親として子供を気遣っているふりをする為に母親が様子を見に行くと、(いたる)の顔色は一目見て普通ではないと分かるものになっていた。恐る恐る触れてみるとゾッとするほど冷たかった。ザーッと体中の血がどこかへ流れ出てし合うような錯覚に陥り、母親は『やばいやばいやばいやばい…!』と頭の中で繰り返しながら救急に電話したのであった。


しかし、既に完全に手遅れであり、緊急搬送はされたものの病院では実質的に死亡の確認をするにとどまることとなった。




山下達(やましたいたる)。享年、十一歳。死因、ウイルス性急性脳症。


一見しただけでは単なる風邪と誤認しても仕方のない症状だったこともあり、両親は保護責任者遺棄致死などの刑事責任を問われることはなかった。しかも我が子の突然の死を悲しむどころか『邪魔者がいなくなった』とばかりにほくそえみ、形ばかりの葬式を上げ、その後の墓参りなども上辺だけの演技の域を出ないものでしかなかったのだった。


また、この両親も十数年後に相次いで病死したのだが、長子の(あつむ)もその時点では既に消息が掴めず葬儀は親類が行うことになり、(いたる)のそれと一緒に遺骨が納められた墓はやがて参る者もなく放置され、数十年後にはやはり無縁墓として整理されることとなったのだということである。



山下達やましたいたるが生きていれば藍繪汐治らんかいせきじのような叔父に預けられることもなくその後の地獄はなかったかもしれないものの、神河内良久かみこうちよしひさとも出会うことはなかったでしょう。


しかも、このルートにおける山下沙奈はまるで野生の獣のように狂暴な一面も持っていた為、例え山下達が生きていたとしても二人の関係が上手くいった保証はなかったと思われます。神河内良久であったからこそそんな彼女を受けとめられたというのもありましたので……。

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