山下達の場合 その1
pixivで連載していた「#333631」ルートでの山下達の人生です。「僕に突然扶養家族ができた訳」ルートが始まるよりずっと以前に終わった物語です。
山下達は、両親から必要とされていなかった。
そもそも長子の萃にのみ期待を寄せていた両親にとっては、次子の妊娠はいわば<不慮の事故>でしかなかったのである。
人工妊娠中絶を行ったことが噂になっては体裁が悪いと仕方なく出産に踏み切ったもののやはり手を掛ける気にはなれず、両親の関心は萃にのみ向けられていたのだった。
達については、死なれたりしてはやはり体裁が悪いということで、死なない程度に世話をしておけばいいとしか考えていなかった。
そういう両親の態度を本能的に感じてしまっていたのか、当の達も両親の手を患わないようにしようとでもいうかのように、生まれた時からあまり泣くことさえない、いわゆる<サイレントベビー>として彼は成長していった。両親も、手のかからない彼をありがたがり、精力の全てを長子の萃に注ぐようにしていた。
しかしそれは、萃にとっては逆に過干渉でしかなかったようである。萃自身の意図に関わらず両親が常に先回りして自分たちに都合よく誘導しようとして菓子や玩具を買い与え、萃がそんな両親の過干渉により機嫌を損ねて癇癪を起すとそれをなだめる為にさらに菓子や玩具を買い与えるという悪循環に陥っていた。
その辺りをもう少し詳細に語るなら、自分で遊び方を見付けるようになってきていた二歳前後の頃の萃はただ、砂や落ち葉をいじって遊びたかっただけなのだ。それにも拘らず両親は『汚れるから』と『不潔だから』と『洗濯が大変だから』と彼が思い付いた遊びはやらせずお菓子や玩具で気を引いて、両親が思う<清潔で文化的で知的な遊び>を押し付けようとしたのだった。しかも萃がそれに反発してイヤイヤと言い出すと、彼が大人しくなるまで次々とお菓子や玩具を買い与えるという状態であった。
さらにそこに思いがけず次子の達が生まれても、両親による萃への過干渉は止むどころかさらに加速、達を蔑ろにしてまで萃に構うということを行った。
これにより萃は、自らを最高位の存在と認識するようになってしまったのだろう。小学校に上がる頃には手の付けられない我侭な子供となっていた。
その一方で、両親から完全に無視されていた次子の達は、兄が関心も示さなくなって放置された玩具を使って一人で遊び、漫画を読み、家庭内ではまるで幻のように存在感を示さなくなっていったのであった。




