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デッドエンドフェアリーテイル  作者: 京衛武百十
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プリムラ・テリェトーネリアの場合 その5

男女比が一対十八ともなれば、男性からすれば完全に売り手市場と言える状態だっただろう。基本的にちやほやされる為に幼い頃から丁寧に磨かれて、いわゆる<イケメン>に育つ。かつ、多少造形に難があろうと魔法によって整形も可能な為、この魔法の国には美男美女しかいない。それぞれの好みによって系統が違う美形になるだけである。


だがそういう点でも、この世界は実に歪で何かがおかしいのだと思われる。考え方の多くが手段と目的をはき違えているとも言えた。


儀式で子供が死ぬから新しい子供を欲するなど……


その、手段と目的をはき違えた発想が、プリムラにも降りかかる。


「ここに座りなさい」


ある日、学校から帰ってきたプリムラを、父親がリビングのソファーに座らせた。その正面に自分も座ると、怯えて小さくなっている娘を見下ろしながら冷たく言い放ったのだった。


「お前に、魂降ろしの儀(マオヌドルレク)を行うことにした」


「…え……?」


魂降ろしの儀(マオヌドルレク)>とは、平たく言えばある人間の体に別人の魂を降臨させ宿らせるという儀式である。これは、精神的には非常に優れているものの肉体の能力に恵まれなかった者を、肉体的に優れてはいるが精神的には弱さがあるという人間の体に転移させることで優れた魔法使いを作り出そうという、やはり狂気染みたものだった。これもまた、<邪神を討ち滅ぼすという目的を果たす為の手段としての強い魔法使い>というもの自体が目的化してしまったが故の発想だったのだろう。


『そ…そんな……』


プリムラは愕然としたが、否も応もなかった。彼女の意思には関係なくその日の夜に家に施術者が呼ばれ、プリムラの体に、蟲毒の行(ヌェネルガ)によって亡くなった姉の魂が降ろされた。


「うむ。いい目をしているな、プリムラ」


そう言って父親が満足気に話し掛けた視線の先には、姿形は完全にプリムラの筈にも拘らず、その顔つきはついさっきまでの彼女とは全く異なる<プリムラの体を有した誰か>が精悍な目つきで佇んでいたのだった。


そこにはもう、絵本を読みながら王子様との恋を夢見ていた気弱な少女はいなかった。彼女の魂は降ろされた魂によって上書きされて、完全に別人格となってしまったのである。


「これでもう心配ない。お前は優れた魔法使いである先祖の血を受け継いでいるのだ。その血を活かせれば間違いない」


「はい、お父様。ご期待に必ず応えてみせます」


生まれ変わったプリムラは引っ込み思案だった頃とはまるで異なり、積極的に他人とも関わって、特待生のキオリ・アカシマデとさえ友人となった。


が、そのキオリは中等部に上がる直前に学校を辞めてしまった。噂によると蟲毒の行(ヌェネルガ)のことを知り臆病風に吹かれて辞めてしまったのだという。キオリ本人はそれを免除されるのがほぼ確実であったにも拘わらずだ。


「ふん、何たるチキンか。所詮は純血の魔法使いの血族じゃない余所者ってことだな」


不敵に笑ったプリムラはその後の蟲毒の行(ヌェネルガ)を見事に生き延びた。共に儀式に臨んだ魔法使い見習いの子供らを圧倒し、容赦なく命を奪ってみせた。父親の見立て通り、プリムラの才能は非常に優れていたのだ。気弱で大人しい性格が災いしてそれが十分に発揮できなかっただけなのである。


しかしその翌年、学校を突然辞めたキオリ・アカシマデが、あろうことか邪神クォ=ヨ=ムイとその眷属を伴って再び現れるという忌まわしい事態がこの国を襲った。プリムラも果敢に戦いを挑んだがその途中で意識を失ってしまう。


そして彼女が再び意識を取り戻した時、目の前にいたのは憎悪に顔を歪ませた人間達だった。そのうちの数人に彼女は見覚えがあった。蟲毒の行(ヌェネルガ)で彼女が屠った者達の親であった。そう、プリムラに我が子を殺された者達に取り囲まれていたのである。


「なんだ、お前ら―――――?」


そう言い終える前に、彼女の体に剣が突き立てられていた。何が起こっているのか完全には把握できないままに、憎悪が込められた何十本もの剣に貫かれ、プリムラは息絶えたのであった。




プリムラ・テリェトーネリア。享年、十四歳。死因、多数の剣により体を貫かれたことによる外傷性ショック。


もっとも、この時に命を落としたプリムラは、本来のプリムラ・テリェトーネリアとして生を受けた彼女ではなかった。本当の彼女は既に、<魂降ろしの儀(マオヌドルレク)>によって消え去ってしまっていたのだから……



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