プリムラ・テリェトーネリアの場合 その3
蟲毒の行は、数百年の歴史を持つとはいえ、魔法が技術として確立された頃からでも七千年に及ぶこの魔法の国そのものの歴史から見れば実はつい最近始まったものとも言えた。だから、本当なら魔法の国そのものが成立する為には必須の儀式ではなかったのである。
これに似た儀式はそれ以前にもあった。むしろ、統一された基準も決まりもなくそれぞれの地域で勝手に行われていたそれらを厳格な様式で統一したものが現在の<蟲毒の行>と言えるだろう。
しかし、それは何故、始まってしまったのか? 理由は単純だったと思われる。邪神を討ち滅ぼす力を持った強力な魔法使いを生み出すというのが目的なのだ。だがこれも、では<何の為に邪神を討ち滅ぼす必要があるのか?>という本来の目的を見失い、邪神を討ち滅ぼしうる強力な魔法使いを生み出すことでそれに対抗するという、元々は手段でしかなかったものが目的化してしまったことによる悲劇であった。
理不尽な邪神の厄災から愛する者達を守ろうとして、その守るべき愛する者達を陰惨な凶習の生贄に貶めたのだから、本末転倒もここに極まれりというものか。
それでも、この凶習の意義を妄信する者達によって、蟲毒の行は続いていくのだった。
「キオリに敵う訳なんてないよ…」
魔法の実技の授業の後、プリムラはそう言って一人泣いていた。キオリとは、特待生として中途入学してきた留学生である。留学生と言っても、この魔法の国の中に存在する<外国>から来たという訳ではない。実は、魔法の才能を見出された別の惑星の人間達がそういう形で魔法を学んでいるのだ。それらの多くは、そもそもずば抜けた才能を持っているということで蟲毒の行を免除されることが一般的だった。
と言うよりも、それが一般的な通過儀礼として定着していない世界の人間をいきなり連れてきて『殺し合いをしろ』などと言っても引き受けることなど普通は有り得ないのだから、当然の判断であっただろう。プリムラの同級生として一緒に魔法を学んでいたキオリ・アカシマデも、同世代の子供達とでは次元の違う才能を発揮しており、順当に行けば免除されることは内定していたのだった。
とは言え、本人が参加を望んだりすればそれを拒むこともない。ごくたまに、儀式の内容を承知した上で参加を申し出る特待生も実際にいた。そういう場合は殆どが事前に予測された通り、特待生による一方的な蹂躙という形で幕を下ろすことになる。だから、それ以前に魔法の実技の授業などで、特待生に勝てるまではいかずとも一矢報いる程度のことができれば蟲毒の行を生き残れる可能性は高くなるとも言えた。
だが、プリムラにとっては逆に、自分が生き残れる可能性など万に一つもないことを思い知らされるものでしかなかったのであった。




