プリムラ・テリェトーネリアの場合 その1
「JC邪神の超常的な日常」の中に出てきた、魔法使いの惑星で赤島出姫織の友人だったプリムラの話です。
それは、<魔法の国>だった。
科学の代わりに魔法が発達し、魔法が日常の中に当たり前に存在する国だった。と言っても、残念ながら夢に溢れているかと言えばそうではなかった。むしろ科学が発達し物質文明が極まった我々の世界と同様に世知辛い社会であっただろう。単に、科学が魔法に置き換わっただけである。元より、進みすぎた科学は魔法と区別がつかないとも言われるくらいなのだから、科学も魔法も本質はそれほど違わないのかもしれない。
そんな世界に生を受けたプリムラ・テリェトーネリアは、大人しくて気の弱い少女だった。魔法もあまり好きではなかった。それよりは絵本が好きでいつでも夢中になって読んでいた。絵本の中には夢が溢れ、幸せな世界がそこにはあった。
「またかプリムラ! いつまで絵本など読んでいるのか!? お前ももう十二歳なのだぞ! 来年には中等部に進む! 蟲毒の行>も近い! そんな調子で生き残れると思っているのか!?」
プリムラの手から絵本を奪いそれを床に叩き付けながらそう叱責したのは、彼女の父親だった。厳格な魔法省の役人で、優秀な魔法使いだった。だからいつまで経っても絵本に夢中で現実を見ようとしない娘に苛立っているのである。
そんな父親にプリムラは怯えた。体を竦めて下から見上げるようにして彼を見た。そんな娘の頼りない姿が父親をいっそう苛立たせた。
「プリムラ! 今さら言うまでもないが、我が家は代々、優秀な魔法使いの家系として公務に就いてきた! お前の姉も兄もそうだ! なのにどうしてお前はそうなのだ!?。お前はいったい、これまで何を見てきたのだ!?」
確かに、父親の言う通りだった。プリムラの姉も兄もやはり優秀な魔法使いで、<蟲毒の行>を見事に生き延びて公務員試験にも合格。エリートコースをひた走っている。だが、それは八人いた姉や兄の中のたったの二人である。それ以外の姉や兄は、<蟲毒の行>で死んだ。だからこの場合は、<二人も生き延びた>と言うべきなのだろうか。
そう。百人の見習い魔法使いを戦わせ、最も優秀な魔法使い一人を生み出すことが<蟲毒の行>の目的であり、それを乗り切った者が二人も出るなど、実はすごいことなのである。父親もこうして生きているということはそれを生き延びた者の一人であり、彼はそれを何よりの誇りとしていた。こうして代々続いた家系を次に繋げられたことが彼の喜びだった。
だから是非とも三人目の<合格者>を出したかったのである。




