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デッドエンドフェアリーテイル  作者: 京衛武百十
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英田智基の場合 その2

見城和真(けんじょうかずま)は、ジムによって鍛え上げた筋肉標本のような体と不自然なまでに日焼けした黒い肌、耳には複数のピアスという、いわゆる<オラオラ系>や<DQN>と呼ばれるタイプの外見を持つ人間だった。まあ確かに礼儀正しく慎ましい、品行方正と呼ばれるようなタイプの人間でないことは確かだろう。


ただ、だからといって悪事に手を染めるとかそういう訳でもない。単に『格好いいから』という理由でそんな風にしているだけだった。実際、悪事に手を染めている友人がいれば足を洗うように説得するような人情味のある一面も持ち合わせている。


だが、そんな彼も、あまり好ましくない意味で<普通>だった。決してわざとではないのだが、本人としてはまったく悪気はないのだが、携帯電話で通話しながら自動車を運転するなどという軽微な違法行為は日常茶飯事でもあった。それ以外でも違法駐車や一時停止義務違反や速度超過やたまの酒気帯び運転など、本当に誰でもやってしまうような程度のものである。


しかし、その、誰しもがやってしまいがちな軽微な違反と思われているものがどれほど重大な結果をもたらすのか、これまでにもその実例はいくつもあった筈である。にも拘らず、それらを<誰しもがやってしまいがちな軽微な違反>と侮っていたことが全ての原因なのだろう。




その日、智基(さとき)は、昼から友人と遊ぶ約束をしていた。体のあまり強くない智基を受け入れて彼のペースで一緒に遊んでくれる、一番の友人だった。だから彼の両親もその友人のところに遊びに行く分には何も心配していなかった。


「いってきます」


そう声を掛けて家を出て行く彼の姿を、いつものように笑顔で見送っただけだった。それなのに……


智基が遊びに出てからものの十分ほどで、辺りの空気が変わっていた。救急車のサイレンが聞こえたと思うと続けてパトカーのサイレンも鳴り響き、しかもそれが何台も集まってきているようだった。


「何かあったのかしら…?」


あまりの騒々しさに、母親の雪江(ゆきえ)がそう声を上げた。リビングで寛いでいた透哉(とうや)も顔を上げ、


「何だろうね…?」


と応えた。そこに電話が掛かってきた。何気なくそれに出た雪江の顔がみるみる青褪めていくのを、透哉は見ていたのだった。




英田智基(あいださとき)。友人宅に遊びに行く途中で、見城和真の運転する乗用車に撥ねられ、病院に救急搬送されるも十時間後に死亡。享年、七歳。死因、脳挫傷。


原因は、見城和真が携帯電話で通話しながら自動車を運転していたことによる前方不注意だった。この、誰しもがやってしまいがちな軽微な違反と思われているそれによって何人が命を落としているのか、改めて考えるべきなのかもしれない。



これは、「僕に突然扶養家族ができた訳」で、山下達やましたいたるの元同僚だった英田あいだの身に降りかかった突然の不幸についての物語であると同時に、「宿角玲那の生涯」に登場した見城和真けんじょうかずまがこちらのルートでどうなったかという物語でもあります。


「宿角玲那の生涯」ルートでは宿角玲那すくすみれいなの復讐劇に巻き込まれ重度の障害を負ったことで自動車の運転ができなくなり、結果としてそちらのルートでは智基さときが見城の運転する自動車に轢かれるという結末が回避されました。


玲那の復讐劇に見城が理不尽に巻き込まれたことで智基は生き延びることになったということです。


この世の全ては繋がっており、一つ一つの出来事が相互に影響し合っているということの証左でしょう。


ちなみに、これらとはまた別のルートでは、見城はこのどちらの結末も回避して平凡な一生を過ごすことになったりもします。

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