マルガリーテ・ブリエットの場合 その3
『うう、さすがにすごいプレッシャーだ…』
マルガリーテは、アメリカでも最大手と言われるアニメ映画の製作会社の前に佇んでいた。彼女がアニメ制作を志すきっかけとなったアニメを作った会社だった。
本当は一番にここを目指したかったのだが、さすがに大きすぎて腰が引けてしまい、まずは身の丈に合ったところからキャリアを始めようと他の会社を訪ねたりしてしまったのだった。しかし、けんもほろろに追い払われて最後に残ったのがここであった。
『いくらなんでもいきなり行ってもダメだろうなあ…』
そうは思うが、もうここまで来たらダメ元である。同じ砕けるなら思いっ切りぶつかってみた方がすっきりするかもしれないと思って飛び込んだ。だが―――――…。
「はい、分かりました。それでは週明けから来てください」
担当者だという女性の前で自身の描いた絵を示しながらプレゼンをすると、その担当女性が彼女の絵をまとめて封筒に入れ、それを手に立ち上がりながらそう言った。そのあまりの自然さに、マルガリーテは一瞬、何を言われてるのか分からなかった。
「……え…あの、いいんですか…?」
戸惑いながらそう声を掛ける彼女に、担当女性の鋭い視線が向けられる。
「ええ、だから週明けからと申し上げているんです」
「でも、私、女だし…」
「それがどうかしましたか? 我が社は情熱と才能がある方なら性別は問いません。あなたの絵は粗削りですが勢いがあります。我が社が求めているのは市場を切り開いていくパワーを持った人材です。あなたにはそれがあると私は感じました。それともあなたは私の目に狂いがあるとでもおっしゃるのですか?」
「い、いえ! 滅相もありません!!」
とは言うものの、まさかの展開にマルガリーテには現実感がなかった。夢でも見ているのではないか、ここで『やったー!』と飛び上がったらベッドから転がり落ちて目が覚めるのではないかと思って不安になってしまった。
だが、しばらく経っても目が覚める様子がない。そこでようやく現実なんだという実感が湧いてきた。顔が勝手ににやけてきて抑えられない。
『やった、やった、やったぁぁ…!!』
心の中で何度もそう叫ぶと、そわそわが抑えきれなくなって無意識に地面を踏みしめてた。
オフィスビルの前で一人興奮しながら見悶える若い女を、通りすがりの人々は怪訝そうに視線を送っていた。だがもう、マルガリーテ自身にとってはそんなことはまったく目に入らない。
こうして彼女の人生は夢へと向けて本格的に動き出したのであった。




