マルガリーテ・ブリエットの場合 その2
マルガリーテにとってカリフォルニアはものすごい都会だった。道路をひっきりなしに自動車が走り、人も多く、ビルは高く、圧迫感すら感じるほどだった。
それに中てられて気分が悪くなり、公園のベンチで一休みしていた彼女に、一人の男が声を掛けてきた。
「ヘイ! 君。観光かい? 良かったら僕が案内するよ」
そのいかにも軽薄そうな見た目と振る舞いに、彼女は身構えた。
「いえ、結構です!」
きっぱりと断って歩き出すが、男はしばらくついてきた。しかしそれでも無視し続けるとようやく諦めたのか、舌打ちしながら立ち止まった。
十分に離れたところで角を曲がり後をつけれられてないことを確かめて、彼女はホッと息を吐いた。
カルフォルニアでは母の遠縁の親戚が小さなレストランを経営していて、そこにホームステイしながらアニメ制作会社への就職を目指すという予定だった。
「よく来たわね。どうぞ入って。仕事が決まるまではうちのウェイトレスをやってもらうことになるけど、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
母の遠縁の親戚にあたる中年女性に出迎えられ、カルフォルニアでの彼女の生活が始まった。
ホームステイ先のレストランでのウェイトレスをすることはあらかじめ決まっていたのでそれはいいのだが、慣れない接客業には戸惑った。食器を割ってしまったり注文を間違えたりとミスを連発し、彼女は落ち込んだ。
『はあ…私ってダメだなあ…』
勤務時間が終わり就職活動に行く筈の時間になっても更衣室のベンチに座り込んでいた彼女を見付けた親戚の女性が、
「マリー。反省するのはいいけれど、そうやってただ落ち込んでるだけでは人は成長しないわ。あなたには夢があるのでしょう? 失敗は反省しつつ、今はその夢にあなたのすべてを注ぎ込みなさい。私はそうやってこの店を作り上げた。あなたもそれを目指さなきゃ。時間は有限なのよ」
毅然として、しかし思いやりに溢れたその言葉に、マルガリーテは背中を押されるのを感じた。
『そうだ。落ち込んでる暇なんてない! 私はアニメを作るんだ!』
着替えて、意気揚々とアニメ制作会社に自分を売り込みに行く。
とは言え、現実はなかなかに厳しかった。女性でありながらアニメを作りたいという彼女のアピールを、担当者達は一様に眉に唾を付けて聞いた。
「インクで汚れた手でお茶を入れられてもねえ」
と嫌味を言う担当者もいた。
覚悟はしているつもりだったが、悔しさに涙が滲む。しかしその涙を拭い、彼女は再び顔を上げて次の会社に向かうのだった。




