マルガリーテ・ブリエットの場合 その1
「JC邪神の超常的な日常」のクォ=ヨ=ムイが人間として転生を繰り返していた時の一人、マルガリーテ・ブリエットの話です。
マルガリーテ・ブリエットが生まれたのは、今から百年ほど前だった。アメリカの田舎町で農園を営む両親の下に生まれた彼女は、小さい頃から絵を描くのが大好きな少女だった。
「マリーは絵を描くのが上手ね」
母の前で絵を描くとそうやって褒めてくれるのが嬉しくて、彼女はとにかく絵を描いた。仕舞いには家の壁にまで絵を描いてしまって父親に怒られたりもしたが、母親はそんな彼女に優しかった。
そして彼女は、十二歳の時に運命的な出会いをする。町の映画館で上映された短編アニメーション映画『蒸気船ウイリー』を観た時の彼女の驚きようは、しばらく近所で噂になる程だった。
「ママ! ママ! すごいの! 絵が動いたのよ! 絵が生きてるみたいに動いてたの! まるで魔法! ママ、私、アニメを作りたい!!」
家に帰って興奮が収まらない様子で母親にそう話した彼女が、近所の人間達にも同じように話し掛けたからであった。
「へえ、それは凄いわね。じゃあマリーもたくさん絵を描いてもっともっと上手にならなきゃね」
母親は微笑みながらそう言ってくれたが、父親は、
「何を馬鹿なことを言ってるんだ! うちの農園はどうするつもりだ!? お前は婿を取ってうちの農園を継ぐんだから、そんなくだらないことは考えるな!!」
と、取り付く島もなかった。<自由の国アメリカ>と言えど彼女が生まれ育った辺りは封建的な考えがまだ根強く、女性は家に入って家庭を守るというのが一般的な考えだった。
特にマルガリーテの父親は幼い頃から満足に学校にも通わせてもらえずに家業の農園で働いており、娘が学校に通っているのさえ無駄なことだと不満を漏らしている程だった。
対して母親は、簡単なそれとは言え学校で教育も受けており、これからは女性もどんどん社会に出て行くことになるだろうと予見していた為に、娘には好きなことをやらせたいと思っていた。ただ同時に、仕事に対しては誠実だった夫のことも愛しており、将来について対立する夫と娘の間に入って緩衝役を務めてくれていた。
「大丈夫。お父さんのことは私に任せてあなたは好きなことをやりなさい。マリー」
そう言ってくれる母の外にも、マルガリーテには強い味方がいた。二歳年下の妹のエリザベートだった。
「姉さん。私は姉さんと違って農園の仕事が好き。作物が育っていく様子を見るのが好き。私にとっては子供みたいなものなの。私にとって農園の仕事は天職よ。だから家は私が継ぐから心配しないで。ジョーイもうちを継いでくれるって言ってるし」
ジョーイとは妹のボーイフレンドで、既に結婚の約束もした仲だった。
「ありがとう、ママ。ありがとう、エリー」
そしてマルガリーテは、十八になったばかりのある日、アニメを作る夢を叶える為に、母と妹に見送られ、カルフォルニアへと向かったのであった。




