佐吉の場合 その2
父の死を告げられた直後、十八で<てい>と祝言を上げた佐吉は、彼女との間に子供を二人もうけた。
ていは、幼い頃から同じ年頃の男の子よりも男らしく勝気なじゃじゃ馬と見られていたが、佐吉とは何故かウマが合い、彼の前では年頃の娘らしい姿を見せることもあった為、佐吉とていの結婚は誰もが当然のこととして祝福した。
早々に子供も生まれますます仕事に精を出す佐吉だったものの、畑仕事だけでは生活は決して楽でなく、やはり足軽として武功を上げなければという思いをさらに募らせていった。
しかし、戦で功を上げるのは簡単ではない。ましてや足軽ともなればその役目は苛烈で、そもそも生き延びることすらままならない。何度か戦に出て生きて帰ってこれただけでも驚かれるほどのものだった。
だから、ていとしては本当は戦には行ってほしくなかったのだ。そう思えばこそ自分が食わせてやるとまで言ったのだ。冗談めかして言ったのは、武功を上げて母に楽をさせてやりたいと考える佐吉の気持ちも分かるからである。女の身の自分にはそれはできないが、夫にはそれを叶えさせてやりたいとも思っていた。さりとて、夫の身を案じて待つのが苦しいこともまた事実なのは間違いない。
幼い子供達と自分と己の母を残して戦に向かう彼を見る度に、彼女は胸が引き裂かれんばかりだった。本当は泣いて縋って「行くな」と言いたかった。けれど言えなかった。
そして近々また、大きな戦が起こるらしいということで、福島正則の軍勢に参加するべく黙々と身支度を整えていた佐吉の背中を見ながら、ていは自分の気持ちを敢えて押し殺しつつ彼の支度を手伝っていた。
ただ、実はこの時、佐吉自身はまったく別のことを考えていたりしたのだが。
それまで、何かを思い詰めたかのように押し黙っていた佐吉が、ていの用意してくれた飯を受け取った時、不意に口を開いた。
「…福島様がな、黒田様の家臣に、<日本号>なる名槍を授けられたらしいんだ。それは大公秀吉様より賜った家宝だったそうだ。それほどのものを授けられるとは、その黒田家の家臣の方はさぞかし槍の達人だったんだろうな。俺も今度の戦で、名のある槍を主君より賜るほどの働きをしてみせる…!」
この時の佐吉の顔は、さっきまでの重苦しい表情が嘘のように朗らかなものだった。まるで夢を語る子供のように目をキラキラさせていた。彼は単にそれをずっと考えていただけだったのだ。
「…な…!?」
てっきり、自分達を残して戦に行くことが辛くて気構えを作ろうとしていたのだと思っていたていは、近所の子供と戦の真似事をしに行くかのような気安いその態度に、かあっと頭の中が熱くなるのを感じてしまった。自分ばかりが気を揉んでいたことに気付いてしまって頭に血が上ってしまったのである。
「ば、ばかやろう!、何を思い詰めてたのかと思ったらそれかよ!。もういい!。さっさと行って敵の首を討ちとって褒美を貰って帰ってこい!!。それまでは家に入れないからな!!」
女房の突然の癇癪に、佐吉は目を白黒させていたのだった。




