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デッドエンドフェアリーテイル  作者: 京衛武百十
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佐吉の場合 その1

「JC邪神の超常的な日常」のクォ=ヨ=ムイが人間として転生を繰り返していた時の一人、足軽の青年、佐吉さきちの話です。



佐吉さきちは、福島正則ふくしままさのりの軍勢として関ヶ原の戦いに参加し、明石全登あかしたけのりが率いた宇喜多秀家うきたひでいえの軍勢の一部と交戦した際に戦死した足軽である。


この頃の足軽は、一応は下級武士ということで、それこそ戦の時に臨時で雇われる雑兵とは区別されるものの、彼の家は戦史に記載されることさえなかった為、実質、塵芥のような名もない雑兵の一人と大差ない扱いのまま、虫けらのように死んでいったのである。


そんな彼にも、二五歳の時に命を落とすまでの間にはそれなりの人生があった。


彼が生きていた時代はいわゆる戦国時代と言われた戦乱の世が豊臣秀吉によって平定された後に関ヶ原の戦いが始まった頃に掛けてであったが、戦国時代の時点であっても概ね日本のどこかで戦が起こっていたというだけであって、日本全体が常時戦闘状態にあった訳ではない。また、下級武士と言っても戦のない時には畑を耕し、普段は農民と変わらない生活をしていた彼の父と同じく、佐吉もまた人生の大半を畑仕事に費やした。


「佐吉、お前の父親は戦で死んだよ」


父と同じく足軽として文禄の役に参加していた親戚筋の仁作にさくに父の死を告げられてからは、彼が母や弟妹達を養っていくこととなった。


「俺が武功を上げて母に楽をさせてやるんだ…!」


佐吉はそう心に誓い、畑仕事の合間に槍の鍛錬をして、来るべき戦に備えてもいた。


彼は槍の扱いでは才能があったらしく、彼と共に足軽として戦で名を上げようと考えていた村の若い衆との鍛錬では頭一つ抜き出ていたようだ。


「やっぱり、槍ではお前には勝てないなあ」


自分より年上で足軽としても佐吉よりも多く戦を経験していた市太いちたにそう言われ、内心、誇りにもしていたのだという。


「佐吉、かっこよかったよ」


鍛錬の後で汗を拭いていた佐吉は不意にそう声を掛けられて振り返った。その視線の先にいたのは幼馴染でこの時既に結婚の約束もしていた<てい>だった。


「そう言われると照れるな。だが、まだまだこんなものじゃ武功を上げるには足りねえ。今までも雑兵一人倒すのがやっとだった。俺はもっともっと強くならなくちゃいけないんだ」


握り締めた自らの拳を見詰めながら、佐吉が言う。精悍な男の顔をしていた。ていがその横顔を見ながら頬を染めていたが、すっかり日も落ちた夜闇の中では佐吉には伝わらなかっただろう。


「ま、戦で生き残る為にも力を付けなきゃいけないってのは分かるけどさ。もしあんたが戦で手柄を立てられなくたってあたしが食わせてやるよ」


「ししし」という感じで悪戯っぽく笑いながら、ていが言った。そして続けて、


「あんたが生きて帰ってこなきゃ、手柄立てたって意味ないんだから……」


投げかけるように言葉を発し、月明りに照らされた彼女の目は、微かに潤んでいるようにも見えたのだった。



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