ツェザリ・カレンバハの場合
ブリギッテ・シェーンベルクとその赤ん坊を惨殺したツェザリ・カレンバハについても少し触れておこう。
彼は、いわゆる私生児だった。彼の母親は大きな力を持った商人の愛人の一人で、子供ができた時点で少しばかりの金を持たされて捨てられた。その後の母は、何人もの男の間を転々としながら彼を育てた。しかも次々と父親も分からない子を宿していたこともあり、彼の記憶にある母の姿はいつも大きな腹を抱えて面倒臭そうに自分を見る<売女>そのものだった。
母親は大きな腹を抱えて彼を奴隷のようにこき使った。糞の後で尻を拭かされたことさえある。それでも、普段から優しくしてくれたなら彼の方も大きな腹を抱えて尻を拭くのもままならない母の為にと思えたかもしれない。だが実際には、
「この為にお前を産んだんだよ!。さっさとしろ!」
と怒鳴りながら命令したのだ。しかもすぐにやらなかったということで、暖炉の炭を掻き出す火かき棒で殴られもした。その時にできた額の傷を隠す為に髪を伸ばしているというのもある。
だから彼にとって腹の大きな女性は、自分を虐げ苦しめる魔物なのだ。彼の最初の標的は、その母親だった。しかも母親が彼に刺されて死んだ時、母親は赤ん坊を産み落とした。それを見たことで、彼にとって胎児は母親を魔物に変えた悪魔そのものという認識になった。
そう。彼にとって妊婦殺しは、魔物や悪魔を狩るという、自らに与えられた使命だったのだ。
もし、彼の母親が彼に優しくしていたら。
もし、誰かが彼の認識を改めさせられていたら。
そういう<たられば>を並べても起こってしまったことは変えられない。だが、そういう事件を教訓とすることはできるのではないだろうか。
ブリギッテ・シェーンベルクを殺害した後も彼は妊婦殺しを続けたが、結局、今度は自分が浮浪者狩りの少年達に殺されて、連続妊婦殺しの犯人ツェザリ・カレンバハはその正体を知られることなく事件は終息することとなった。
なお、連続妊婦殺しの容疑者として何人もの人間が逮捕され、中には警察による拷問や、遺族によるリンチで惨殺された者もいるのだが、それらもすべて闇へと葬り去られることとなったのだった。
ツェザリ・カレンバハ。連続妊婦殺しの真犯人。浮浪者に紛れて逃亡中に、浮浪者狩りの少年達の襲撃を受け死亡。享年、三三歳(推定)。死因、鈍器によって全身を殴打されたことによる外傷性ショック。
その遺体は、後に野犬に食われて骨すらも持ち去られたそうである。




