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デッドエンドフェアリーテイル  作者: 京衛武百十
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ブリギッテ・シェーンベルクの場合 その4

そいつにどんな恨みがあり何故そのようなことを行っていたのかは、結局逮捕されることがなかったことから誰にも分からない。悪魔のような何かが取り憑いていたのは確かかもしれなくても、そもそもそれを呼び寄せることになった原因があった筈なのだが、それも永遠に分からず仕舞いのままだった。


その男の名はツェザリ・カレンバハ。長身痩躯。手入れの行き届いてない髪を無造作に伸ばしたその姿は、生気のない顔白い顔と合わせて病で働けなくなって路上で寝泊まりしている物乞いのようにも見えたのだった。


とは言え、物乞いそのものは別に珍しいものでもなかったことから特に目立つ存在でもなかった。その目をまともに覗き込むようなことをしなければだが。


彼の目を見れば、誰しもが身構えただろう。不穏なもの、いやそれどころか明らかな危険を感じて警戒せずにいられなかったかもしれない。しかし彼は殆どぼろきれのようになったマントを頭から被って顔を隠していた。が、それも別に珍しい格好ではなかった為に気にも留められることはなかった。


だがこの時の彼は、深淵の奥深くから覗き込むような、暗く淀んだ禍々しい視線を一人の女に向けていた。女は大きな腹を抱え大儀そうに動きながらも明るく眩しい笑顔に囲まれて、自身も輝くような笑顔を周囲に向け、それが彼をさらに暗く闇に沈み込ませるように光を放っていた。光が強ければ強いほど、影もまた濃くなるかのように。


だからツェザリの目に留まってしまったのだろう。この男にとって彼女は眩しすぎたのだ。


男は大きな腹を抱えて幸せそのものという姿をした女の家を確かめ、その日の夜にすぐに動いた。以前の町では少々騒ぎになってしまって警戒が強くなり動きが取りにくくなっていたのだが、そこから遠く離れたこの町ではまだそこまでではなかった。それどころかまるで警戒していなかったと言ってもいいだろう。だから何の苦労もなかった。


懐に忍ばせたナイフを取り出し、女の家の前に建つ。それは、ナイフというよりはもはや<刀>と言ってもいいくらいの大きさだった。刃の部分だけでも男の肘から指先までの長さよりも長く、分厚く、月明かりの下でも禍々しい光沢を放っていた。その刃先をドアの隙間に差し込んで捩じると、まるで飴細工のように鍵が壊れた。手慣れたやり口であることが伝わってくる。


その物音に、女も気付いた。大きな腹が負担になって深く眠れなかったからだ。しかし彼女の夫はまるで気付く様子もなかった。


そして男は影のようにするりと女に忍び寄り大きな手で口を覆った上で、一瞬の躊躇もなく、いつ生まれてもおかしくなさそうな女の腹に刃先を滑り込ませていたのだった。



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