ブリギッテ・シェーンベルクの場合 その1
「JC邪神の超常的な日常」のクォ=ヨ=ムイが人間として転生を繰り返していた時の一人、ブリギッテ・シェーンベルクの話です。悲惨な最期を迎えるのでご注意ください。
ブリギッテ・シェーンベルクは、中世ヨーロッパの田舎町で、鍛冶屋を営む無口で不器用な男と、決して美人ではないが朗らかで快活な女の長女として生を受けた。
貧乏の子だくさんとはよく言ったもので、決して経済的に余裕があった訳ではないのに五人もの弟や妹が次々と生まれ、幼い頃からブリギッテはその弟妹達の面倒を見て両親を支えたのだった。
「いつもありがとうね、ブリギッテ。あなたのおかげで私もお父さんも本当に助かってる」
家は貧しいが、不器用でも性根は優しい父親と、弟妹達の面倒を見る自分をいつも笑顔で褒めてくれる明るい母親の下で、彼女は幸せだった。
弟妹達の面倒を見て慣れてきてたから結婚して子供ができてもきっと母親のようににこやかに接することができると思っていた。
「ブリギッテ。君となら素晴らしい家庭が築けそうだ」
「ええ、私もあなたの子供が欲しい。三人、いえ、五人は欲しいわ」
「それは大変だ。僕も寝ている間に靴を作ってくれる小人を見付けないといけないね」
年頃になり、ブリギッテは近所の靴屋の若い職人と結婚した。彼は誠実で、しかもユーモアを解する明朗な青年だった。彼女はそんな彼を愛していた。お互いに若いし健康だということですぐにも子供ができるだろうと思っていた。そう思っていたのに……。
しかし、結婚して一年経っても二年経っても、二人の間には一向に子供ができる気配がなかった。
この頃の社会の常識としては、やはり結婚して子供を生してこそ一人前というのが一般的であり、子供ができないというのは半人前、もしくは<欠陥品>という風に見られるというのが実情だっただろう。
「気にしなくていいよ。僕達はまだその時期じゃないってことさ」
始めのうちは夫もそう言って慰めてくれたりもしたが、子供ができないことで、
『あいつは腕はいいんだが子無しだからねえ』
『あいつの作った靴は縁起が悪いから他のにするよ』
などと、仕事上の評価にも影響するようになる頃には、夫婦の間にも不協和音が生まれ始めていたのだった。
『子供ができないのは縁起が悪い』など、今から考えれば冗談としても三流以下の戯言に過ぎないだろうが、この頃はまだ、それがまかり通ってしまう時代だった。
やがて夫は、いつまで経っても子供ができないブリギッテを求めることもなくなっていった。殆ど毎日のようにだったものが三日に一度になり、一週間に一度になり、一ヶ月に一度になり、結婚して三年が経つ頃には半年に一度という感じだった。その一方で、仕事での憂さを晴らすかのように飲みに行く回数が増え、いつしか酒場で給仕をしていた若い女と仲良くなっていったのであった。




