藍繪正真の場合 その1
藍繪正真両親は、体裁を整えるためだけに子供を生んだ。体裁を整えるためだけに我が子を死なせないようにしてきた。
そのクセ、
『育ててやってるんだから感謝しろ』
という下心が見え見えの人間だった。自分達の体裁を整えるためだけに勝手に生んでおいて、だ。
それでも、幼い頃には形だけでも優しくしてくれる両親のことを好きだった時期はあった。しかし、成長し分別が付き物事が見えるようになってくると、両親が見ているのは自分ではなく<世間>だということが分かってしまった。
両親が気にしているのは常に<他人の目>であり、自分は、
『他人から<良い親>に見えるように用意された』
ただの道具にすぎないことに気付いてしまった。
他人に対して両親は、
『子供が大事。愛してる』
とは言うものの、それもあくまで、
『良い親の体裁を保つため』
の方便でしかなかった。
つまり藍繪正真は、実の両親の下で育ちながらも、赤の他人の下で飼育されている家畜のようなものだっただろう。
いや、むしろ家畜の方が丁寧に意識を向けて飼育してもらえている分、まだマシだったかもしれんな。
なまじ人間であった分、
『そんなに手を掛けなくても勝手に育つだろう』
と、形だけの世話にとどまっていたのだからな。ただ、死なせないために。
そのため、藍繪正真は、両親の気を引こうとして、両親に自分のことを見てもらおうとして、<良い子>のフリをした。
良い子でいれば両親は自分を見てくれるに違いないと思った。
しかしそれは逆効果だった。良い子でいればいるほど、
『手が掛からなくて楽だ』
と考えて、両親はこいつに構わないようになった。子供部屋を与えそこに閉じ込め、両親の姿を求めてリビングに出てくる藍繪正真にゲームや玩具を買い与えて自分の部屋にこもるように仕向けた。しかもそれもまた、
『子供に無駄とも思える金をきちんとかけている親に見えるように』
という下心が透けていた。
そんなある日、藍繪正真は両親と共にテーマパークへと遊びに行った。
これももちろん、両親にしてみれば、
『子供とちゃんと思い出作りをしている親に見えるように』
という下心からでしかなかったが。
それでも嬉しかった藍繪正真は、テンションが上がってしまい視野狭窄に陥り、テーマパークの駐車場内で、うっかり走行中の自動車の前に飛び出してしまったのだった。