生後25日、はじめての友達 【前】
吸血王が竜王に引きずられるように連れていかれて5日。
以前の世話役が戻ってくるのかと思いきや、吸血王に引き続き手加減をマスターした魔物たちによる日替わりお世話生活になった。
理由はわからないが魔王様が大好きすぎる魔物たちによる、世話役争奪戦は熾烈を極めているらしく、以前の世話役のような戦闘力の低い魔物がその座に納まることは難しくなったらしい。
最近の世話係は、吸血王クラスとはいかないまでも高位の魔物ばかりなのだけど――争奪戦がよほど熾烈なのか、日々現れるお世話係が揃いも揃ってボロボロなのが悩みの種だったりする。
昨日の世話役のオークキングなんて、片腕がなかったよ!当人(?)は、「腕の一本や二本、少しすれば再生するから大丈夫です!」なんて言ってたけど、傷口からは血が噴き出したままだし、吸血王の鼻血とは違った意味で落ち着かなかったよ!
今日は死霊王あたりが頭に剣を生やしながら、「アンデッドなんで頭に剣くらい生えていても何ら問題ありません!」とか言ってお世話係についたりしたらどうしよう――冗談ではなく、今日とは言わずともいずれありそうな展開に鬱である。
そんな私の前に現れた今日の世話係は――
「はじめまして魔王様。本日のお世話役、淫魔のユーリです。」
傷一つない可憐な容姿の時期淫魔王候補と名高い淫魔でした。
淫魔というと妖艶な容姿を思い浮かべる――実際一度見た淫魔王は物凄い妖艶なお姉様だった――けど、この子は幼いせいか、妖艶さはなくひたすら可憐だ。
体系からも顔立ちからも性別は判断がつかず、女淫魔なのか、男淫魔なのかすら見た目にはわからない。
淫魔と言われず、妖精とでも言われた方がしっくりくる容姿の子だ。
争奪戦の熾烈さを思うと、淫魔王ならまだしも何故まだ幼そうなこの子が?と疑問を感じるけど、久々のボロボロではない――見た目も癒し系という私にとっては安堵を感じるお世話役である。
よろしく!と思いを込めて、触手を片手のように掲げてみせると、淫魔のユーリは見た目の幼さとは裏腹に大人びた微笑みを浮かべた。
魔物としては珍しくはないけれど、見た目通りに幼いわけではないのかもしれない。
*
むふーんっ。
エリクサーで体を拭いてもらい、なんとも快適です。
やっぱり五体満足で、傷のない世話係が一番だよね。吸血王も五体満足ではあったけど……奴は鼻血があったからね。鼻血もないのが素晴らしいよ。
性別は未だにわからないけれど、なんとなく男の子な感じがするから、ユーリ君と呼ぼう――まあ、間違っていても口がないから伝わらないし、問題ないよね。
そんなことを考えていると、ユーリ君がくすりと笑って口を開いた。
「正確には中性体。魔法でどっちの性別にも変化できるんけど、心は男寄りだから正解といえば正解かなー。」
思っていたことに対する答えだったことと、急に砕けた口調に驚く私に、ユーリ君はにやりと笑った。
「淫魔は戦闘力自体はそれほど高くないけど、搦め手が得意な種族だからね。スキル『読心』で魔王様の考えはわかるし、『幻術』で他の魔物達にはさっきまで通りの丁寧な対応に見えているはずだよ。」
読心――つまり私の思ったことは筒抜けってこと?
「そう。まあ、こうして直接触れている必要はあるけどね。」
そう言って私の体を撫でるユーリ君に、私は震えた。
思ったことが筒抜けだなんて――人間であった頃であれば関わりあいたくないと思ったかもしれないが、今の私――スライム的には是非仲良くなりたい!
心が全部筒抜けということに抵抗がないわけではないけれど――これまでの誤解に満ちた生活を思えばそれが何か!
是非お友達に!!
私の心の底からの要求に、ユーリ君はにこりと頷いた。
「うん。よろしくー。」
その笑顔にちょっと黒いものを感じないでもないのだけど、大丈夫。今ならきっと、どんなドSでも受け入れられるよ!
正しくこちらの意志を理解してくれることのありがたさは骨にしみているのだ!!――って、骨もないんだけどね、種族的には。
名前:まだない(生後25日)
職業:魔王
種族:スライム
Lv.1
HP 35/35
MP 3/3
【スキル】
ボディーランゲージLv.3 ※触手表現にて、肯定と否定だけは何とか通じる
吸血Lv.1 ※強い魔物の血を吸収することで生命力UP
オークキングや、死霊王、淫魔王は四天王ではありません。
魔物の種族ごとに王はいて、その頂点に立つのが主人公である魔王様で、戦闘力の上位4王が四天王です。